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空席の護衛騎士(2)
しおりを挟む9割方僕とマリンが話し、クオーツは相槌程度で微笑んでいるといういつも通りの他愛もない時間はあっという間に過ぎていく。
会話には一切入ってこないトールの「クオーツ様そろそろ…」と耳打ちをする声掛けで名残惜しいがティータイムはお開きとなった。
立ち上がったクオーツに続いて僕も立ち上がる。
「ごめんね、来客の予定があるから私は行くけど、ラズはどうする?特にこの後も予定は無かったよね」
「ん~天気もいいし、もう少し庭を散歩してから部屋に戻るかな」
「わかったよ。無理はしないように。身体、まだ本調子じゃないでしょ?」
「っ~~」
自然と回される腕が腰をスルッと撫でていく。
反射的にビクッと跳ねた肩が恥ずかしく、照れ隠しでベシッと叩いて撃退した。
「ふふ、ごめんごめん。ラルド、マリン、ラズについてあげて」
「は」
「は~い」
「それじゃあラズ行ってくるね」
「トールが待ってるぞ、さっさと行けぃ」
目尻に落とされるキスをむっと受け止め、代わりにしっしっと手で追い払う。
それで終わればいいのに、名残惜しそうにぎゅっと抱きしめてからやっとこの場を離れていった。
背後でひゅぅ~と口笛を吹くマリンをキッと睨み黙らせると、遠ざかって行く後ろ姿に再び目を向ける。
すぐさま歩きながら打ち合わせを始めた二人。ちらっと見えたクオーツの横顔は、さっきまでの雰囲気は完全に消え失せ、真剣そのもの。
こちらを振り返りもしない。
結局曲がり角を曲がり見えなくなるまで見送ると、気が抜けたようにストンと椅子に腰を下ろした。
「……ねぇ、なんだかクオーツおかしくない?」
一度は考えるのを辞めたことだが、やはり気になりぽつりとこぼす。
「そうですか?相変わらずラズ様好き好き具合が重症だな~とは思いますけど、俺にはいつも通りのクオーツ様に見えますよ」
「えぇ……ラルド様はどう思います?」
「申し訳ありません、私にはわかりかねます」
ですよね、と呟いてはとっくに見えなくなった番の残り香をすんっと吸い込んだ。
なんか、また変に一人で抱え込んでるように見えるんだよなぁ……
「まぁ、いいや!後で聞こ!今はお散歩お散歩~」
「ラズ様食べてばかりですもんね~少しは運動しないとぷよぷよになっちゃう。次のパーティの衣装サイズ入りますか?」
「な!?失礼な!だったらマリンも運動付き合ってよ!今から走るよ!」
「や、俺は大丈夫です、汗かくのやだし。しっかりここから見てるんでラルド様と二人でどうぞ」
どうぞどうぞ、と頑なに自分抜きで行ってこいの態度を示す職務怠慢ダメ世話係は本当にその場に残り、黙って見守ってくれていたラルド様と謎に二人で庭園を走る摩訶不思議展開になってしまったのだった。
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