58 / 102
後日談(3)sideラルド
しおりを挟む「失礼致します」
トール殿に見送られ、クオーツ様が待つ執務室にひとり入室すると、普段書類作業をしていらっしゃる書斎には姿が見えない。
一体、どこへ―――
「こっちだ」
声がした方へ誘われ進んだ先、窓際に立つ後ろ姿が逆光となり出迎えた。
こちらを見向きもせず、眺め続ける窓の外から見える景色にはたと思い当たる―――
「私の番との逢瀬は楽しめたか?」
「……見ていらっしゃいましたか」
肩越しに振り返ったかと思えば、意味深に微笑みを残し、「まぁ座れ」と近くのソファを顎で指し示す。
クオーツ様が座るのを待ち、続いて腰を下ろした。
改まって対面したこの場で何を言われるのか――
言葉を待つこと数分、出てきたのは、はぁ…、という重いため息だった。
「番ってしまえば私のモノになると思っていたのだがな……」
ぽつりと零すクオーツ様は肘掛けに頬杖をつき、遠く窓の外を眺めている。
「お前が羨ましい」
「何を…仰りますか……」
番という絶対の関係性を築いてもなお、何を求めるのか―――
驚愕、という表情を浮かべる私に流し目を寄越し、ふっと笑ったクオーツ様は「そう怒るな」といなしてくる。
「わかっている。自由なあの子を勝手に縛ったのは私。ラズの心まで求めるのは贅沢だな」
「……ラズ様は十分クオーツ様を想っていらっしゃいますよ」
「ふっ、だといいが」
クオーツ様との関係は国王陛下に即位されるずっと前、幼少期からの長い付き合いとなるが、常に自信とカリスマ性溢れるクオーツ様のこの様な姿は調子が狂う。これならまだ罵られた方が何倍もマシだった。
うまく言葉をかけることが出来ず、どうしたものか、と戸惑っていると、再び、ふっと笑ったクオーツ様は「悪い、困らせてしまったな」と空気を変える。
憂いを帯びた表情から一変、まっすぐ私を見据えた鋭い目は、見慣れた国王陛下の表情だった。
「今日呼んだのはそんな愚痴を聞かせる為じゃない。ラルド、お前から名誉ある騎士団長の称号を解く」
「……今回の処罰、ですか」
何かしらの処罰が下ることは覚悟していた。
しかし、それが騎士団長解任とは思ってもみなかっただけに戸惑いは大きく、素直にはいと言えない未練がましい姿を晒してしまう。
そんな私をふっと笑ったクオーツ様に「まぁ落ち着け」と続きを聞くよう諭された。
「騎士団長はクビだが、代わりに王妃付きの護衛騎士に任命する、と言ったら、どうだ?引き受けるか?」
「……は?」
突然の事に頭が追いつかない。
私が、王妃――ラズ様付きの騎士?
現在ラズ様にはお世話係としてマリン殿がついているだけで、護衛騎士は不在だった。それはクオーツ様が不用意にラズ様の近くに人を置くのを許さなかったため。
そのポジションが私にいただける―――
「昨日の一件で痛感した。あんな無茶をしてまでお前に会いに行こうとするくらいなら、お前を近くに置いた方がマシかと」
「いいの、ですか……?」
「もちろん、ラズに手を出したら容赦なく、殺す」
首をスパンっと切るジェスチャーをするクオーツ様に黙って頷いた。
「すぐにとは言わない。心が決まり次第――」
「お受けいたします」
「ふっ、即答か」
こんなまたとない機会断るはずもなかった。
どんな立場だろうと、ラズ様のお近くにいれるだけで満足だ。
「決まりだな。今後ラズに傷一つ付けることは許されない。一層、心して守り抜くように」
「御意」
クオーツ様の言う“傷”という言葉に、つい先程見えてしまった“痕”が連想される。
そんな邪な考えすらも抱いてはいけない。
再び巡ってきた直接的にラズ様をお守りできるチャンスを無駄にしない。
その為に自分の気持ちに蓋をするなど容易な事だった。
「ラズには私から話しておこう。もう下がっていいぞ。荷物をまとめ今日中にこちらに移り住め」
「承知致しました」
明日から頼んだぞ、という言葉で見送られながら執務室を後にする。廊下で待機していたトール殿と軽く会釈を交し、騎士団の宿舎へと向かう。
その足取りは正直複雑なものだった。
今より一層お近くで見守ることが出来る喜びと共に、ラズ様とクオーツ様、番同士のやり取りを目のあたりにする機会は増えることだろう。
私がするのは何事にも動じず、無に徹することが出来るよう、最善を尽くすのみ。
太陽みたいなラズ様の笑顔を守るため、明日には気持ちを切り替えるべく、気持ちの整理にいそしんだ。
後日談 -END-
587
お気に入りに追加
2,041
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
馬鹿な彼氏を持った日には
榎本 ぬこ
BL
αだった元彼の修也は、Ωという社会的地位の低い俺、津島 零を放って浮気した挙句、子供が生まれるので別れて欲しいと言ってきた…のが、数年前。
また再会するなんて思わなかったけど、相手は俺を好きだと言い出して…。
オメガバース設定です。
苦手な方はご注意ください。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
スパダリαは、番を囲う
梓月
BL
スパダリ俺様御曹司(α)✖️虐げられ自信無しβもどき(Ω)
家族中から虐げられ、Ωなのにネックガード無しだとβとしか見られる事の無い主人公 月城 湊音(つきしろ みなと)は、大学進学と同時に実家を出て祖父母と暮らすようになる。
一方、超有名大財閥のCEOであり、αとしてもトップクラスな 八神 龍哉(やがみ たつや)は、老若男女を問わず小さな頃からモッテモテ…人間不信一歩手前になってしまったが、ホテルのバンケットスタッフとして働く、湊音を一目見て(香りを嗅いで?)自分の運命の番であると分かり、部屋に連れ込み既成事実を作りどんどんと湊音を囲い込んでいく。
龍哉の両親は、湊音が自分達の息子よりも気に入り、2人の関係に大賛成。
むしろ、とっとと結婚してしまえ!とけしかけ、さらには龍哉のざまぁ計画に一枚かませろとゴリ押ししてくる。
※オメガバース設定で、男女性の他に第二の性とも言われる α・β・Ω の3つの性がある。
※Ωは、男女共にαとβの子供を産むことが出来るが、番になれるのはαとだけ。
※上記設定の為、男性妊娠・出産の表記あり。
※表紙は、簡単表紙メーカーさんで作成致しました。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる