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後日談(1)sideラルド
しおりを挟む王城内のとある廊下。
陽当たりが良く比較的要人の通りが少ないここは常時平和な持ち場として兵の間では人気な場所らしい。
普段あまり通らないここをあえて使うには理由があった。
「―――昨日の騒ぎは近年トップレベルで大きいものだったな。ラズ様の奇行は毎回想像のはるか上を行く」
「まさか三階から飛び降りるなんて……俺でも無理だ」
「陛下の元へトール様が報告する場面にたまたま居合わせたのだが、あの時の陛下の形相は……恐ろしくて未だに忘れられない。さすが、あのような状態の陛下に話し続けられるのはトール様だけだな」
「想像しただけで恐ろし―――!?まずい、ラルド様だ!何故この道を!?」
「!!お疲れ様ですっ」
「……御苦労」
夢中で会話に花を咲かせていた衛兵二人はやっとこちらに気が付くとパッと会話をやめ、そそくさ持ち場へ戻っていく。
そんな姿を今日だけで何十回と見てきた。
「……はぁ」
あの一件から一晩明け、城に勤める兵やメイド達はなかなか通常モードに戻らない、それくらい大きな騒ぎだった事を物語っていた。
◆◇◆◇◆
浮き足立つ空気の中、王城から少し離れた騎士団専用訓練場では無駄話をする暇もないくらいいつにも増してスパルタメニューが繰り広げられていた。
団長の鬼ぃ~という恨み言を言う者はまだ余裕があるとみなし、数倍にして返しながら自分も同じメニューをこなしていく。
そんな厳しい訓練も、教会から響く正午の鐘で一旦一区切りとした。
数刻の休憩を言い渡し屍寸前な姿で各々散っていく部下達を見届けながら一息ついていると、ふと城の方からやってくる一人の衛兵に気が付いた。
こちらへ駆けてくる兵は、ついに目の前で止まるとサッと敬礼をし、開いた口から発せられる言葉は―――陛下からの伝言。
内容を聞き終えるやいなや了承の意を唱え、戻っていく兵を見送る。そして、すぐさま副団長をつかまえると午後の訓練は中止と伝え自分も王城へと向かった。
背後で喜び舞う部下達の声が異様に騒がしかった。
『陛下がお呼びです』
兵が持ってきた伝言はシンプルなものだった。
昨日、別れ際のあの様子から必ずお声が掛かると予想していたものの、まさか昨日の今日とは思わなかった。
何を言われようが聞かれようが、ラズ様の不利になる事だけは必ず避け、上手くやり過ごす。そんな想いで何通りもシュミレーションを重ねながらの道すがら、囁かに聞こえてくる話はどこも昨日の騒ぎで持ちきりだった。
命をかけた王妃のバルコニー脱走事件。
王妃という立場ある御人が、三階の高さから落下したという事だけでも大事件だというのに、そうまでして向かった先が日々王妃が日課として熱心に陰から眺めている騎士団長の元。
その強行に至る直前、陛下自ら騎士団の訓練所にいた王妃を連れ戻す姿も目撃されている。
あることないこと噂するにはネタが揃いすぎていた。
そんな噂の中心人物として自分も上がってきているが、みな私の存在に気付くと途端口を閉ざし通り過ぎるのを息を潜めて見つめられるという異様な光景。
自然とこぼれるため息が止まらなかった。
それにしても、なにかと頭をよぎるのは昨日交したラズ様との会話。それが無性に引っかかる。
『今度は僕があなたの幸せを見届けるんだから……』
これまでも何故かラズ様はことある事に私の幸せを望んでくださる。それはラズ様が幼少の頃より御屋敷にて面倒を見させてもらっていた縁から来るものだとてっきり思っていた。
しかしあの言い様は、まるで過去に一度それが叶わなかったのかのような口ぶり―――ラルドとしての人生でそのような事に思い当たる節がなかった。
そんな考え事をしていた折、不意に曲がり角から人影が飛び出してきた。
普段であれば直前に察知し回避できたはずが、今回は見事に反応が後れ避けることが出来なかった。
胸の辺りに勢い良くばふんっとぶつかる感触。
咄嗟に伸ばした手は相手が吹き飛ぶのを防ぐ事に成功した。
「っぐわ、痛っ――ご、ごめんなさい僕全然前見てなかった……」
「ラ…ズ、様?」
「え…?あ、え!?ラルド様!?」
曲がり角から飛び出してきたのはまさに考え事の当人、ラズ様だった。
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