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推しの休日ウォッチング作戦(4)
しおりを挟む背後で複数の足音がザッと一斉に鳴り止んだ。
ラルド様の腕に抱き上げられたまま、そちらをゆっくり振り返れば、まるで感情が読めない無表情を貼り付けたクオーツを先頭に、マリンとトール、そしてその後ろには数え切れない程の人数が地面に膝をつき控えている。
その光景はあまりにも仰々しいものだった。
「ラルドこの状況を説明しろ」
「は」
クオーツの視線を受けてもなお、僕を抱き上げたままのラルド様。腕の力が密かにグッと強まったのを直に感じた。
「……軽率にも私が休日を理由にラズ様をお誘い致しました」
そんな予想外の騎士団長の発言にクオーツの後ろに控えたラルド様の部下たちからもザワっとどよめきがはしる。
僕も例外ではなかった。
「!?違っ違う!違います!僕が一人で―――」
「ラズは黙ってなさい」
「黙らない!だって本当に違うから!」
「……はぁ、いつまでそうしているつもり?」
「へ?」
「いつまで他の男の腕に抱かれているの」
「っ」
条件反射でビクッと揺れる小刻みな動きがラルド様に伝わってしまった。背中に回る大きな手が密かに僕を案じてくれる。
しかし、クオーツはその動きを見逃さなかった。
「ラルドその手を離―――」
「ラルド様、動けないでいた僕を見つけ助けて下さりありがとうございました、もう大丈夫です」
「ラズ様……」
クオーツが言葉を発するのに被せて声を張り上げ先回りする。
暗にラルド様は悪くないんだと主張するため。
王の言葉を遮ったこと、そしてラルド様を庇ったこと、どちらも不敬に値するような発言に、後ろに控えたマリンをはじめ、複数の目が心配そうに見つめてくる。
当のクオーツ本人は―――未だに感情がよく読めない。怒っていることは確かだが、それがどれくらいのレベルなのか……全く想像がつかない。
最悪、殺されることだけは無いだろう、と思ってしまうのは番の驕り。
けれどそれは番の僕に対してだけ。
僕とその他。クオーツはその線引きが明確だった。
正直ここまで大事になるとは思っていなかった。軽率すぎる僕だけの責任。
怒られるのは僕だけにしたい。
怒られる、で済めばいいけど……。
「クオーツ、ごめん手貸して」
「……おいで」
イマイチ何を思っているのか感情が読めないクオーツにあえていつも通り声をかけてみれば、一拍置いて返事は返ってきた。
その事にホッとするも、近付いてきたクオーツは両手を広げ抱き上げる姿勢を取る。言葉通り手を貸してくれるだけで良かったのだが、クオーツにそのまま引き継がれるように一度も地面に足をつけることなくラルド様の腕の中からクオーツの腕の中へと移動が完了した。
「ラルド、ひとまずご苦労だった。話はまた後日」
「……は」
「部屋へ戻る」
周りに短く告げると踵を返し王城の方へと向かっていく。クオーツの後に続いてぞろぞろと大勢が動く中、ラルド様だけが一人その場に残り遠ざかっていく姿をクオーツの肩越しに見送った。
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