51 / 102
推しの休日ウォッチング作戦(3)
しおりを挟むポカンと間抜け面を晒し続ける僕に「ラズ様?」と呼びかけてくるラルド様の声で、はっと我に返る。
惚けている場合ではなかった。
「な、んで…ラルド様がここに……?確か今日の午後はお休みで、お休みの日は決まって城内に集まる野良猫の世話をしてる…って」
「何故あなたがそれをご存知で――じゃなくて、私の事はどうでもいいです。一体何をしていらっしゃるのですか、城内大騒ぎですよ」
「え……もしかしてラルド様の所にも……」
「退勤後に連絡を貰い、あなたを探していました」
それを聞いた瞬間、そんなぁぁぁっと大きく天を仰ぐ僕の突然の動きにビックリしたラルド様に咄嗟に強く抱き締め直される。
んわ、青筋が浮かぶ前腕最高……。
「ラズ様、危ないですから暴れないで」
「しゅみません……」
腕をチラ見して内心ふがふが興奮していると真面目に怒られ、しゅん、と謝る。
大人しくラルド様の肩に手を置いた。
ところで、僕はいつまで推しに抱き上げられているのでしょうか……?こんなご褒美シチュエーションがタダで起こるなんて有り得ない。あとから絶対何かある。
「とにかく見つかって良かったです。お怪我は――されてますね…骨に異常はありませんか」
「うーん…多分大丈夫だと思います。なんか僕、悪運強かったみたいです」
にっ、と笑った僕に対して、はぁ…と漏らしたラルド様の呟きは苦笑と共にどこか懐かしさを滲ませた。
「あなたは昔からお転婆な所は変わりませんね」
「そんなに僕、お転婆でした?」
「……そうですね、心配で目が離せませんでした」
ふっ、と笑うラルド様の貴重な微笑みを真正面の至近距離で直に浴び、ぐぬぬぬっと飛びかける。
あぶなぁ…心臓飛び出るかと思ったぁ…
暴れる心臓を必死に抑えていた僕は、その後に続いたラルド様の小声の呟きをすっかり聞き逃していた。
「―――また再び、あなたを抱き起こす事ができるなんて…」
*****
「ラズ様、僭越ながらこのままお運びさせていただいてもよろしいですか?」
「え、逆にいいんですか!……てか、どこへ?」
暫くこのままご褒美タイムが頂けるなんてっと、両手をあげて喜びかけて、はたと気付く。
一緒に猫ちゃんのお世話?
「クオーツ様が見つけ次第連れて来るようにと王命を出しておりますので」
「げっ!!!」
クオーツの命令かよ!
しかも絶対的権力を持つ王命!?
実際そういう命令方法があるというのは話でしか聞いたことが無いくらいなかなか出ることは無い最上級の王の権限。
間違いなくこんな事のためにそんな易々と発動していいやつじゃない。
「あっのバカ…こんなことで王命を出すやつがいるか!?どんだけの人を動かしてるんだよ!?」
ぷんすか怒る僕に、僭越ながら…とラルド様が口を開いた。
「三階のバルコニーから落ちたラズ様がそのまま走って逃亡した、となればそうするのも無理はないかと」
「……そんな大事?」
「私も聞いた瞬間、肝が冷えました。本当に危ないのでもう二度とおやめください。……もし万が一、ラズ様が本気でここから去りたいのであれば、その際は私が手助け致しますので、決して、おひとりで危険なことはなさらず、あなたは安全な場所で安全に幸せに生きてください」
「そんな大袈裟な――」
「大袈裟ではありません。今度こそ私はあなたの幸せを見届けてからこの命を散らせたいので――」
「絶対ダメ!」
ラルド様の言葉を遮るように放った声は、自分から出たものとは到底思えない一種の叫び声のように高く掠れ、耳にツンと痛みを残す嫌なものだった。
「ラズ…様……?」
ぽかん、と目を見張るラルド様の表情は、何故か水の膜で揺れてよく見えない。それでも、口から出る言葉は止まらなかった。
「絶対、ダメ……今度は僕が、あなたの幸せを見届けるんだから……」
「……ラズ様、何故そんなにも私を───」
「あぁぁっラズ様!いたっ!!!クオーツ様っラズ様見つけました――!!」
何かを言いかけたラルド様の言葉は、遠くの方で響くマリンのよく通る声によってすっかり掻き消されてしまった。
数人分の足音が近付いてくる。
ラルド様が言いかけた言葉を聞き返すタイミングは完全に失っていた。
612
お気に入りに追加
2,041
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
馬鹿な彼氏を持った日には
榎本 ぬこ
BL
αだった元彼の修也は、Ωという社会的地位の低い俺、津島 零を放って浮気した挙句、子供が生まれるので別れて欲しいと言ってきた…のが、数年前。
また再会するなんて思わなかったけど、相手は俺を好きだと言い出して…。
オメガバース設定です。
苦手な方はご注意ください。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
スパダリαは、番を囲う
梓月
BL
スパダリ俺様御曹司(α)✖️虐げられ自信無しβもどき(Ω)
家族中から虐げられ、Ωなのにネックガード無しだとβとしか見られる事の無い主人公 月城 湊音(つきしろ みなと)は、大学進学と同時に実家を出て祖父母と暮らすようになる。
一方、超有名大財閥のCEOであり、αとしてもトップクラスな 八神 龍哉(やがみ たつや)は、老若男女を問わず小さな頃からモッテモテ…人間不信一歩手前になってしまったが、ホテルのバンケットスタッフとして働く、湊音を一目見て(香りを嗅いで?)自分の運命の番であると分かり、部屋に連れ込み既成事実を作りどんどんと湊音を囲い込んでいく。
龍哉の両親は、湊音が自分達の息子よりも気に入り、2人の関係に大賛成。
むしろ、とっとと結婚してしまえ!とけしかけ、さらには龍哉のざまぁ計画に一枚かませろとゴリ押ししてくる。
※オメガバース設定で、男女性の他に第二の性とも言われる α・β・Ω の3つの性がある。
※Ωは、男女共にαとβの子供を産むことが出来るが、番になれるのはαとだけ。
※上記設定の為、男性妊娠・出産の表記あり。
※表紙は、簡単表紙メーカーさんで作成致しました。
「本編完結」あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、R指定無しの全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
6話までは、ツイノベを加筆修正しての公開、7話から物語が動き出します。
本編は全35話。番外編は不定期に更新されます。
サブキャラ達視点のスピンオフも予定しています。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
投稿にあたり許可をいただき、ありがとうございます(,,ᴗ ᴗ,,)ペコリ
ドキドキで緊張しまくりですが、よろしくお願いします。
✤お知らせ✤
第12回BL大賞 にエントリーしました。
新作【再び巡り合う時 ~転生オメガバース~】共々、よろしくお願い致します。
11/21(木)6:00より、スピンオフ「星司と月歌」連載します。
11/24(日)18:00完結の短編です。
1日4回更新です。
一ノ瀬麻紀🐈🐈⬛
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる