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推しの休日ウォッチング作戦(3)

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 ポカンと間抜け面を晒し続ける僕に「ラズ様?」と呼びかけてくるラルド様の声で、はっと我に返る。
 惚けている場合ではなかった。
 
 
「な、んで…ラルド様がここに……?確か今日の午後はお休みで、お休みの日は決まって城内に集まる野良猫の世話をしてる…って」
「何故あなたがそれをご存知で――じゃなくて、私の事はどうでもいいです。一体何をしていらっしゃるのですか、城内大騒ぎですよ」
「え……もしかしてラルド様の所にも……」
「退勤後に連絡を貰い、あなたを探していました」
 
 
 それを聞いた瞬間、そんなぁぁぁっと大きく天を仰ぐ僕の突然の動きにビックリしたラルド様に咄嗟に強く抱き締め直される。
 んわ、青筋が浮かぶ前腕最高……。
 
 
「ラズ様、危ないですから暴れないで」
「しゅみません……」
 
 
 腕をチラ見して内心ふがふが興奮していると真面目に怒られ、しゅん、と謝る。
 大人しくラルド様の肩に手を置いた。
 
 ところで、僕はいつまで推しに抱き上げられているのでしょうか……?こんなご褒美シチュエーションがタダで起こるなんて有り得ない。あとから絶対何かある。
 
 
「とにかく見つかって良かったです。お怪我は――されてますね…骨に異常はありませんか」
「うーん…多分大丈夫だと思います。なんか僕、悪運強かったみたいです」
 
 
 にっ、と笑った僕に対して、はぁ…と漏らしたラルド様の呟きは苦笑と共にどこか懐かしさを滲ませた。
 
 
「あなたは昔からお転婆な所は変わりませんね」
「そんなに僕、お転婆でした?」
「……そうですね、心配で目が離せませんでした」
 
 
 ふっ、と笑うラルド様の貴重な微笑みを真正面の至近距離で直に浴び、ぐぬぬぬっと飛びかける。
 
 あぶなぁ…心臓飛び出るかと思ったぁ…

 暴れる心臓を必死に抑えていた僕は、その後に続いたラルド様の小声の呟きをすっかり聞き逃していた。

 
「―――また再び、あなたを抱き起こす事ができるなんて…」
 
 

 *****
 
 
「ラズ様、僭越ながらこのままお運びさせていただいてもよろしいですか?」
「え、逆にいいんですか!……てか、どこへ?」
 
 
 暫くこのままご褒美タイムが頂けるなんてっと、両手をあげて喜びかけて、はたと気付く。
 一緒に猫ちゃんのお世話?
 
 
「クオーツ様が見つけ次第連れて来るようにと王命を出しておりますので」
「げっ!!!」
 
 
 クオーツの命令かよ!
 しかも絶対的権力を持つ王命!?
 
 実際そういう命令方法があるというのは話でしか聞いたことが無いくらいなかなか出ることは無い最上級の王の権限。
 間違いなくこんな事のためにそんな易々と発動していいやつじゃない。
 
 
「あっのバカ…こんなことで王命を出すやつがいるか!?どんだけの人を動かしてるんだよ!?」


 ぷんすか怒る僕に、僭越ながら…とラルド様が口を開いた。


「三階のバルコニーから落ちたラズ様がそのまま走って逃亡した、となればそうするのも無理はないかと」
「……そんな大事おおごと?」
「私も聞いた瞬間、肝が冷えました。本当に危ないのでもう二度とおやめください。……もし万が一、ラズ様が本気でここから去りたいのであれば、その際は私が手助け致しますので、決して、おひとりで危険なことはなさらず、あなたは安全な場所で安全に幸せに生きてください」
「そんな大袈裟な――」
「大袈裟ではありません。今度こそ私はあなたの幸せを見届けてからこの命を散らせたいので――」
「絶対ダメ!」
 
 
 ラルド様の言葉を遮るように放った声は、自分から出たものとは到底思えない一種の叫び声のように高く掠れ、耳にツンと痛みを残す嫌なものだった。
 
 
「ラズ…様……?」
 
 
 ぽかん、と目を見張るラルド様の表情は、何故か水の膜で揺れてよく見えない。それでも、口から出る言葉は止まらなかった。
 
 
「絶対、ダメ……今度は僕が、あなたの幸せを見届けるんだから……」
「……ラズ様、何故そんなにも私を───」 
 
「あぁぁっラズ様!いたっ!!!クオーツ様っラズ様見つけました――!!」
 

 何かを言いかけたラルド様の言葉は、遠くの方で響くマリンのよく通る声によってすっかり掻き消されてしまった。
 数人分の足音が近付いてくる。

 ラルド様が言いかけた言葉を聞き返すタイミングは完全に失っていた。
 
 
 
 
 
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