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推しの休日ウォッチング作戦(2)

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 上の方でマリンの焦った声が遠く微かに聞こえる。
 ぱちぱちと瞬きを繰り返し見上げた空は、雲ひとつない綺麗な青一色だった。
 


 *****

 
「い…てて――……」
 
 
 足を踏み外した瞬間、本気でヤバいかもとヒヤッとしたが、強い衝撃は受けたもののなんとか生きている……らしい。
 たくさん植わっていた生垣がクッション代わりとなり助けられた。
 ゆっくり手足を動かしてみるが今のところ問題なく動く。強いて言うなら所々に切り傷ができたレベル。
 
 三階から落ちてこれだけで済む僕の悪運最強説。
 
 
 そうこうしているうちにふと周りがどんどん騒がしくなっていくことに気がついた。
 このままでは不味い……。
 死ぬ思いをしてまで脱出したのだ、今捕まるわけにはいかない。
 
 ところどころ軋む身体を無理やり起こすと地面へ両足をつけ、トントンと足踏みしてみる。
 
 うん、大丈夫そう。
 
 
「ラズ様!ご無事ですか!?はぁぁ、よかった……そこから動かないでくださいね!すぐ行きますから!」
 
 
 バルコニーから顔を出し見下ろすマリンが待てと言っている。

 いいえ、待ちません。
 
 
「え、何!?何ですか!?マル……?グー…バイバイ、は?ちょ、ラズ様!?待っ――」

 
 大きく3つのジェスチャーを送ると伝わったかどうかは気にせず踵を返し、走り出す。
 本気のダッシュをしたかったが、走り出して気付いた足にもできた切り傷がじわじわ痛み、ひょっこひょっことした足取りになってしまう。もどかしい。
 
 背中を向けた現場には、ラズ様ぁぁぁぁっと響くマリンの叫び声と人型に沈んだ生垣、ぷらぁんと垂れたロープだけが残された。
 
 
 
 *****
 
 
 そういった事を経て、冒頭の庭園に至る。
 
 マリンだけでなく僕を探し回る騎士やメイド達の姿が増えてきてちょっとずつ大事になってきていると感じる。
 
 
「やばいかなぁ……怒られるの僕だけにしてほしいんだけど…後でクオーツにごめんなさいしよ」
 
 
 ぶつぶつ独り言を零しつつ、低い生垣に身を隠しながら目的地へ向け一生懸命移動を続ける。
 四つん這いのハイハイの姿勢で視界に入るのは地面のみ。たまに見かける蟻を踏み潰さないよう気をつけながら進んだ。

 
 そんなしばらく続いたシンプルな視界に突如として違うものが現れ、危うく突進する所だった。

 慌てて急ブレーキで止まった先に見える二足の編み上げショートブーツ。
 恐らくそれはクオーツのものでも無ければ、マリンのものでもない。騎士団の規定のものでもない。
 
 誰の―――
 
 そんな疑問を晴らす為、視線を上に持っていこうと顔をあげようとした、その時、なんの前触れもなく身体がふわりと持ち上がった。
 
 
「へ――?」
「ラズ様、こんな傷だらけになって一体何をしていらっしゃるのですか」
「……ラルド、様」
 
 
 普段のキッチリとした騎士団の制服とは違う、綿の白シャツに黒いスラックスというシンプルな休日の装いのラルド様。

 そんなラルド様の腕に抱き上げられていた。
 
 
 
 
 
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