上 下
49 / 113

推しの休日ウォッチング作戦(1)

しおりを挟む

 
「ラズ様~何処ですか~ホント勘弁してくださいよぉ~俺が殺されてもいいんですか~ラズ様ぁ~っ」
 
 
 どこを見回しても青々と生い茂る緑と、色とりどりの花が咲きほこる王室お抱え庭師自慢の庭園。
 そこに、僕を探し回る世話係――マリンのよろよろな声がもう長いこと響き渡っていた。
 
 
「ラズ様ぁ~」
 
 
 疲れが伺える声を聞いても、心を鬼にして身を潜め続ける。
 
 
 ごめん、マリン……お前の犠牲は忘れない!
 僕にはやらねばならない事があるんだ。
 
 
 反対方向を探しに行くマリンの様子を伺いつつ、隠れていた場所からジリジリと移動する。
 
 
 王妃、ただいま絶賛逃走中―――!
 
 
 
 ◆◇◆◇◆
 
 
 
 遡ること数刻前。
 
 
 数日前に言い渡された外出禁止は無事解除され、公務に向かったクオーツを見送るやいなや、早速いつものようにラルド様見守りスペースで炎天下の中ニマニマと訓練ウォッチングに精を出していると、開始して間もなく早々にやって来たクオーツに部屋へと連れ戻されてしまった。
 
 水も持たずあんな所に長時間いたら倒れるでしょ、とかなんとか言ってくる小言をはいはいと右から左に聞き流す。
 
 ……まぁ、確かに今日は一段と暑かった。
 
 ムスッと不貞腐れる僕にひとつため息を落とすと、甘いものを与えておけば大人しくなるとでも思ったのかマリンに用意するよう命じ、急き立てるトールに連行されるように早足で公務へと戻って行く。
 どうやら忙しいらしい。
 
 いってらっせ~と閉まる扉を見送るとシーンと室内は静まり返る。
 大抵の流れであれば、一度連れ戻されるとその日は渋々大人しく過ごしていたためクオーツも油断したのだろう。
 マリンも席を外したこの瞬間、僕は部屋に完全に一人だった。
 
 
「……ふっふっふ」
 
 
 いざゆかんっラルド様の半休ウォッチング!
 
 
 さっき訓練を覗いていた時に騎士たちの会話が漏れ聞こえてきたところによると、ラルド様は本日午後からお休みらしい。
 いつも忙しいラルド様にはゆっくり休んでいただきたいが、ぜひともそんなお姿も拝見させていただきたい…!どう休みを過ごされるかもバッチリ情報キャッチ済みだった。
 
 これはもう、今日やるしか無かった。
 
 
 まず手始めに常にそばに居るマリンを撒くことから、と思っていたが丁度席を外してくれてラッキー。仲間にひきいれてもよかったが、やはり推し活は誰にも邪魔されず一人ニヤニヤと楽しみたいもの。マリンには申し訳ないが犠牲になってもらうことにした。
 
 さすがに正面から出ていく命知らずでは無いため、残された逃走経路はただ一つ。
 外へ続くバルコニー。
 しかしここは三階。残念ながら、ぴょんっ着地!ができる身体能力は持ち合わせていない。そこで登場するのがもしもの時のために隠しておいた頑丈なロープの出番だった。
 
 鼻歌混じりにバルコニーへ出ると、拙い手付きで手摺に括り付けてみる。
 
 
「……まぁ、こんなもんか。もしもの時は……下の植垣を信じよう」
 
 
 ぐっぐっと引っ張って強度を確かめる。着地したあとすぐに走り出すため自分にロープは括り付けず手に持つのみ。
 練習などしたことない一発本番。
 頭の中でのシュミレーションは何度もしてきた。
 変なところで命知らずだなぁ、ともしここにマリンがいたら間違いなくツッコミが飛んできそうである。
 
 バルコニーの手摺りを乗り越え、よし、行くぞっと飛び降りようとした、その瞬間―――
 
 
 部屋に戻ってきたマリンとバッチリ目が合った。
 
 
 やべ……
 
 
「あ……」
「ラ、ラズ様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
 
 
 思っていた降り方とは違う感じで身体が下に降りていく。正確に言えば―――落ちた。
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...