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一泊二日の遠征(17)

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 行き同様、クオーツと二人きりの馬車の中。
 城に向かって帰るのみの道中、ぼぉっと窓の外を眺め過ごしていた。
 
 
「ラズ?どうしたの、疲れた?」
「……別に」
 
 
 あまりにも黙りこくっているのが気になったのか話しかけてくるクオーツにもつい素っ気なく対応してしまう。
 さっきから、得体の知れない心のモヤモヤがどうにも晴れなかった。
 
 
「言いたいことがあるなら言ってごらん?」
「……別に無いし」
「本当に?私にはそう見えないな」
 
 
 何も無いと言っているのにしつこく追求され、とうとう口から出た声は思ったよりも棘を含んだものとなっていた。
 
 
「~~っ、わざと?」
「何が?」
「やけにラルド様を関わらせるの、わざとかって聞いてんの!」
「それは、昨夜のこと?それともさっきのこと?」
「両方だよ!あんな恥ずかしい場面見せたり、気まずいってわかってて二人きりにしたり、お前は一体何がしたいんだよ!」


 一気に勢いよく言葉にすると、言い終わった頃にはすっかり息が切れ、肩も大きく上下してしまっていた。
 そんな僕の様子を見つめていたクオーツの口がゆっくりと開かれ、そして―――

 
「ラズは私のものだとわからせたい」
 
「……っ!そんな、こと、しなくたって…」
 
 
 あまりにストレートな言葉に、さっきまでの勢いが嘘のようにしゅんと萎んでいく。
 
 
「ラズの運命の番は私なのに、いつまでもラズの心を独占するラルドが羨ましい。今世も前世も、私はキミの一番になれない」
「っ、それは、だって―――」
 
 
 クオーツの綺麗な顔が悲しみに歪む。
 国を総べる王が、僕なんかで傷付いている。
 返す言葉が浮かばない。
 
 
「……なんてね、わかってる。前世でもキミ達に関わっていたとしても記憶が無い私は蚊帳の外。それも承知の上で番になったんだ。ラズの一番になれなくたって、事実上ラズの隣を独占する権利があれば私はそれで―――ラズ?」
「……なんで、お前はそんなにも」
 
 
 咄嗟に伸ばした手の先が捕らえたものをギュッと抱き寄せ腕の中に閉じ込める。
 クオーツの柔らかな髪がふわりと頬に触れる感触が無性に切なかった。
 
 
「……嬉しいなラズから抱きしめてもらえるなんて」
「うるせー…今は黙って抱かれとけ」
「はぁい」
 
 
 場違いにも緩い返事とは裏腹に、そっと背中に回った両手がまるで縋り付くような必死さを感じ、一層抱きしめる腕に力を込めた。
 
 
「……ごめんね、私なんかが縛り付けて」
「別に。……あと、言っとくけどさぁ、僕は運命の番だからって嫌いな奴と四六時中一緒にいれるほど我慢強くないから」
「!」
「だから、お前はいつもみたいに僕の機嫌伺っていっぱい貢いでればそれでいいの!わかった?」
「……うん…うん、ありがとうラズ」
 
 
 その時のクオーツの表情が心底嬉しそうな顔をするもんだから、仕方なく、降ってくるキスも黙って受け止めてあげた。
 
 
「絶対に誰よりも、キミを幸せにする」
「……ん、そーして」
 
 
 
 なにがどうしたって、今世の僕の番は目の前のふわりと微笑むこの優男。
 
 大国の王――クオーツ。
 
 前世から引き摺る心に秘めたラルド様への想いは奥底に押し殺し、僕にできるのはその人の幸せを陰ながら願うのみ。
 
 そうしながら僕は、別の男の隣で生きる人生を歩んでいく。
 
 
 
 
 
 
 
「確かに貢げとは言ったけど……だからって、やりすぎだ馬鹿クオーツ!!」
「ふふ、まだまだこれだけじゃ終わらないよ。私の愛情表現をしっかり受け止めておくれ」
「返品求ぅぅぅぅ―――っ」
 
 
 
 
 
 一泊二日の遠征-END-

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