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一泊二日の遠征(10)

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「……お風呂は嬉しいけど、これは聞いてない」
「ラズ、早くおいで冷めちゃうよ」
 
 
 用意されていたお風呂はこれまたどこから持ってきたのかと疑問に思う、大人二人が肩を並べて入れるくらいのサイズの釜にもくもくと湯気をあげるお湯が張られとても気持ちよさそうではある。
 だが、問題なのは月明かりが照らす森の木々を使って張られた目隠し用途の白い幕。お風呂を囲うように四方をその幕で覆われた空間の外を見張りする騎士団員四人のうちの一人―――
 
 なぜ騎士団長自ら風呂の見張りをする!?
 
 
「絶対この役目はラルド様じゃない!」
「みんな忙しいんだよ。ほら早く服をお脱ぎ」
「お前と風呂に入るところを推しに聞かれるなんてイヤじゃぁぁぁっ」
「大丈夫、聞いてないし見てないよ。そうだなラルド」
「はい、聞こえません」
「絶対聞こえてるやつ――あっ、ばか、脱がせんなっ触んなっ」
「ほらバンザーイ」
 
 
 問答無用で服を全て剥ぎ取られあっという間に素っ裸にされてしまった。
 うぅ…と打ちひしがれている横で自分も素早く脱いでいくクオーツは惜しげも無くその裸体を晒し、それはもう綺麗に割れた腹筋がキラキラと眩しかった。

 さっき同じだけ食べていたはずなのに…なぜぽっこりお腹なのは自分だけなのか……
 
 
「くっそ…!」
「?どうしたの、私の裸体などもう見慣れてるでしょ。ほら行くよ?」
「ぬぁっ!?見慣れてるとか言うな!って、引っ張るな!自分で歩くーー!」
 
 
 にこにこ鬱陶しいクオーツに手を引かれ、湯気を立てるお湯にちゃぽんと足を突っ込んだ。



 
 
「……ふぁー…お風呂最高」
「お気に召したならよかった。少しでも疲れを癒してもらいたいからね」
 
 
 散々文句は言ったものの、そこまで広いとは言えない風呂釜の中、結局クオーツに後ろから抱かれ密着して入る形で落ち着いてしまっていた。
 絶対に変な事すんなよ、と言い聞かせているのは決してフリではない。
 
 
「別にこれを用意してくれたのは団員さん達で、お前はなんもしてないだろ」
「ふふ、そうだね。じゃあ私はラズの疲れが取れるようマッサージをしようかな」
「はぁ!?結構です。いりません。触らないでください」
 
 
 変な動きをされる前に先手必勝、ガシッと両手を掴み、クオーツの動きを制する。
 これで変な事はできまい。
 ふふんっと得意げに後ろのクオーツににやっと笑みを送れば、ふ、と意味ありげな笑みを返され、なんだよ…と身構えていると不意にお湯の中、クオーツの太ももを跨ぐようにして身体の位置をズラされる。
 
 
「っ!?ぁ、」
 
 
 そんなわずか一つの動きが下半身の中心から後ろの穴までまとめてぐちゅっと刺激するのには十分だった。
 
 
「そうか、ラズは手ではなくこちらの方がいいんだね、ごめんね気が利かなくて」
「はっ!?待っ、そんな事誰も言ってな――っんぅ」
「しー、聞こえてしまうよ?いいの?」
 
 
 いつの間にか自由になっていたクオーツの手が僕の口を塞ぎ、指で指す方向につられて視線を向け、はっと気づく。一枚の幕をへだてた向こう、月明かりでシルエットが透けるその後ろ姿。
 ラルド様や他の団員さん達がすぐそこにいることを。
 
 
「―――っ!」
「ね?」

 
 ニコッと場違いな笑みを向けてくるクオーツの悔しい程に整った顔が心底憎たらしかった。
 



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