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一泊二日の遠征(9)

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 奮闘の末、結局そのままクオーツに抱かれる形でテントから出た僕達に寄せられる無言の視線は、それはもういたたまれないものだった。
 
 ―――ざわっ、
 
 ―――こそこそ、
 
 四方八方から何かしら聞こえてくる気がするのは、僕の被害妄想なのだろうか……。
 
 
「うぅ…見られてる…何か言われてる…」
「大丈夫悪く言う者はいないよ」
「ホントかよぉ……」


 全くもって信用ならない言葉にくぅっと空を仰いでいると不意にクオーツの歩みが止まる。そして―――

 
「クオーツ様、ラズ様」
 
「!――ラルド様…」

 
 不運にもあの場面に居合わせてしまった流れからそのままテント前で待機していたのだろうラルド様に呼びかけられるものの、ざわついている周りと打って変わって普段と何一つ変わりない様子がより一層いたたまれない気持ちをかきたたせ、ひぐっと硬直すると真っ直ぐな視線から逃れるようにふいっと視線を背けクオーツの肩に泣きついた。
 ラズ?と名を呼ばれるも、頭を横に振り拒否の姿勢を示せばぽんぽんと撫でられそっと抱き寄せられる。
 
 
 うぅ…さっきも変にパニック晒したばかりなのにこんな姿……自己管理に厳しいラルド様に、自分で歩けもしない情けないやつ、とか思われたら辛すぎて立ち直れん……
 それもこれも全部コイツのせいだ……
 
 ぐぬぬ…と怒りを込めシャツの上から肩に爪をめり込ませるがどこ吹く風のクオーツの涼しい表情は一切崩れもせず余裕な様子で僕を抱き上げ続ける。
 
 
「ラルド、案内を」
「……は。こちらになります」
 
 
 ラルド様の後ろをついて歩くクオーツとクオーツの肩口に顔を埋め抱かれたままの僕。
 それら一連の行動がはたから見た僕ら番の仲の良さを更に助長させるなどと思いもしない僕は移動間頑なにクオーツの肩口に顔と爪をめり込ませ攻撃し続けたが、それはもう終始クオーツのご満悦な表情が恐ろしかった、というのはマリンから聞いた後日談だった。
 
 



 *****
 
 
 
「ぷはぁっおなかいっぱい野営食美味しすぎたぁ」
「こぉら、ラズ。そんなすぐ横になると身体に良くないよ?」
「んー…だいじょーぶだいじょーぶ」
 
 
 夕食も終わり、再びテントに戻ってくるやいなや一直線にぼふんっとベッドへダイブするともう動けない意思表示を体現する。
 そんな僕をクスッと笑いすぐ隣に腰かけてきたクオーツがポコンっと出たお腹を触るからくすぐったい。やめぃとすぐさま叩き落としてやった。
 
 
 あの後、ラルド様の後を付いて行った先には簡易的なテーブルと椅子がセットされ、僕たちが席に着くなり夕食はスタートした。
 お城で出される綺麗で豪華な料理とは違い、焼きと煮込み中心の初めて見るような豪快な料理だったがどれも文句無しに美味しかった。
 普段なかなか触れ合う機会のない団員さん達が僕の食べっぷりを快く思ってくれたのか、これもぜひこれもっと嬉々として持ってくる料理を断ることも出来ず次々と食べていたらあっという間にお腹ははちきれる寸前。
 帰りもクオーツに抱かれ運ばれるようにしてテントに戻りましたとさ。
 
 
「でも本当にどれも美味しかったぁ…すごいね団員さんたち」
「ふふ、伝えておくよ彼らも喜ぶ」
「伝えて伝えて~始めは野営って聞いてぐえぇって思ったけど全然快適で楽しい。安心して旅ができるの騎士団員さん達のおかげだわ。つまりトップが素晴らしい!さすがラルド様!」
「結局そこにいきつくか……」
 
 
 当然!と誇らしげにむふんっとほくそ笑んでいると、だらしなく仰向けで寝転がる頭のすぐ横に手が付き、何だ?と思うまもなくギシッとベッドが軋んだと同時にちゅっと落ちてくる口付け。
 あまりにも突然のことすぎて、すぐさま離れていくクオーツの顔をまじまじと見あげてしまった。
 
 
「……なぜに」
「ふふ、したくなったから。そうだラズ、お風呂入る?お湯用意してくれてるみたいだよ」
「お風呂も入れるの!?至れり尽くせりすぎる!」
「行こっか」
 
 
 もう動けない、と思っていたのもすぐさま忘れガバッと上半身を起こすと差し出される手を素直に取りベッドから抜け出した。
 
 
 
 
 
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