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一泊二日の遠征(8)
しおりを挟む「ラズ?大丈夫?落ち着いた?」
「ひ、ひぃ…危なかった……胸筋に溺れかけた……」
布に包まれたままクオーツの膝の上。
逃げたはずのベッドに再び舞い戻っていることなど気付きもせず、間一髪ギリ人間を保てていることに安堵する。
もう数秒遅ければ間違いなく溶けていた。
胸を押え、はーー、と大きく安堵の息を吐いていると、突然おでこをぺちんっと叩かれ「あぅっ」と漏れ出た声と共に非難の視線を送る。
「何すんじゃい」
「はぁ…あんな格好で外に出ていくなんて襲われに行くようなものだよ。心臓に悪いからやめてくれ」
「……誰のせいだ」
「ん?」
「なんでもありません」
このクオーツには逆らわない方がいい。本能がそう判断すると、きゅっとお口をチャックし、クオーツの手がシャツのボタンをとめていくのを大人しく受け入れた。
後ろから抱きしめるような形ですっぽりクオーツの腕の中に収まり、されるがまま身だしなみを整えられていると、不意にぐぅぅ…と存在を主張する我がお腹。
うむ……我ながらマイペースである。
「ぐぬっ」
「ふふ、お腹すいた?」
「……すいた」
「それじゃあ夕食にしようか。外の者達を待たせてしまっているしね」
「あっ!そうじゃん!それを呼びに来てくれたんだった!」
急がねば!とベッドから立ち上がろうとした勢いは、いまだがっちりお腹の前でホールドされたクオーツの腕が邪魔をした。
試しに解こうと試みてもそのバカ力は凄まじく、とてもじゃないが歯も立たない。
「……?おい、離せよ、早く行かなきゃだろ」
「うん、そうだね。行こうか」
「だから離―――は?え、…はぁぁっ!?」
抱きしめられていた腕にグッと力が加わったかと思えば、突如身体がふわっと持ち上がり、見る見るうちに視線が普段見慣れない高さまで上昇する。
あっという間にクオーツに抱き上げられる形に驚愕し口をぱくぱく震わすだけの僕ににこっと満足そうな笑みを向けるとヤツはそのまま歩き出した。
「なっ、な……」
「こぉら、危ないから大人しくしてなさい」
「こんな情けない体勢はイヤだ!」
「さっきもこれで回収してるから今更だよ」
ラズはそれどころじゃなくて気付いてなかったかもしれないけど、と無駄にいい笑顔で言われ開いた口が塞がらない。
「~~~っ、おろせぇぇぇぇっ」
僕の悲痛な叫びがテントを通り越し、外の森の奥まで大きくこだました。
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