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遠くなってしまった距離sideラルド
しおりを挟むラズ様、あなたは今、幸せですか―――?
◆◇◆◇◆
王城内のとある一角に存在する騎士団の宿舎。
昼間の厳しい訓練をものともせず、夜遅くまで酒を飲み交わす団員の楽しげな声がどこからともなく漏れ聞こえるそんな場所に自分も入団して以来長いこと暮らしていた。
暮らすと言ってもただ寝起きするだけの場所。
二人一部屋の他の団員とは違い、団長クラスともなれば立派な一部屋が与えられた。が、寝るだけの場所と思っている通り、初めから設置された備え付けの家具と必要最低限の服があるだけの殺風景な部屋。
ただ、ひとつ、そんな空間で一際異彩を放つ一角が存在した。
窓際に寄せたベッドの正面に置かれたシンプルな棚。その天板には小綺麗な小物入れが置かれ、すぐそばの壁には額縁に入ったとある絵が飾ってある。
それらは全て幼いラズ様が当時世話係をしていた私に与えてくださったたわいのないものたち。
例えば小物入れの中にはラズ様が拾ってきたなんでもないただの石や、初めて行った海で拾った貝殻、摘んでくださった花を私が勝手に押し花にしたもの、そのほか他人からしたら一見ガラクタとしか思えないものが気付けば小物入れいっぱいに貯まっていた。
また、壁にはラズ様が私と言って描いてくださった大小様々なまるがたくさん描かれた絵を額縁に入れて飾っている。
頂いてから20年近く経つ年季の入った代物たち。
入団時に持ってきた唯一の私物。
きっと本人は渡したことすら覚えていないだろう。それでも、その時の記憶と共に私にとっては全てが宝物だった。
明かりもつけず、月明かりだけの部屋で過ごす一人の夜。座れば丁度正面に位置するベッドに腰掛け小物や絵を眺めながら、時たま思い出したかのように窓から見える王城の、更に王の寝室の方向を見つめてしまう。
前世の記憶や今世の20年前、ラズ様のすぐ近くおそばで見守ることが出来ていた距離が、気付けば今は一番遠くなってしまった……。
それでも、全く関わることの出来ない距離よりはマシなのだろう。ラズ様の王城入りが決まった時の焦燥感は今でも鮮明に覚えている。
すぐに家長である父の反対を押し切り無理やり騎士団に入団するとイチ団員からこの地位まで地道にされど最短ルートで這い上がってきた。
全ては、ラズ様を一目でも見守ることが出来る距離にいるため。そのために今日まで励んできた。そして変わらずこれからも。
昼間ご夫人方から問われ答えた通り、ラズ様が幸せであることが私の幸せ。
ラズ様とどうこうなりたいだとか、お近付きになりたいだとかそんな烏滸がましいことは思わない。例え思ったとしても、既に陛下という運命の番と結ばれた方にこんな事を思ってしまうことが迷惑なものでしかない。
心の奥底にひた隠すしか許されない。
私は大丈夫。
ラズ様、そして――翡翠様との記憶があれば満たされる。私一人だけが覚えている、大切な記憶。
不意にドンドンっと無遠慮に叩かれる扉。
様子からして酔っ払いのそれだと察すると、予想通りこちらの返事を待たずして開かれる扉から見慣れた団員の顔がひょこっと現れた。
「団長~まぁた一人で明かりもつけず~一緒に一杯どうですか~~」
「……明日も早いから一杯だけな」
「わぁ!珍しい!やったぞお前ら~団長も付き合ってくれるってよ~!」
「っしゃあ!!積年の恨みを晴らす時!!」
「潰せ潰せーーー!」
「明日がどうなっても知らないぞ」
普段なら迷うことなく断っていたが、今夜はなんだか飲みたい気分だった。重い腰を上げ明るい廊下へと繰り出していく。
団員数名に連れられるがまま、騒がしい酒飲み集団の中へと紛れて行った。
―――どうかラズ様、私の勝手な自己満足ですがこれからも陰ながら見守ることをお許しください。
あなたの幸せそうなお姿を、見守らせてください。
遠くなってしまった距離-END-
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