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奥様会(1)
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国王妃の仕事は多岐にわたる。
王が出席する国内行事にはほとんど同席するし、教会が運営している各地の孤児院への定期的な訪問、炊き出しなどのボランティア活動、芸術鑑賞会への出席、などなど、国民の母の象徴というイメージ付けなのかその地域で暮らす人々の言葉や生活に触れ、うふふと微笑むことを多く求められる。
それらの仕事は当然僕に向いてない。
かなり苦手で苦痛だ。
一日の終わりにはすっかり体力を消耗し、表情筋は凝り固まっている。
そんな僕を労う形で就寝前になると決まって、ほかほかタオル片手にクオーツが喜んでオイルマッサージをしてくるのだが……悔しい事にあいつ、なかなかに上手くて、気持ちいいから、あまりにも凝りが酷い時には僕の方から「やって…」と頼んでしまう事も……たまにある。
その時のヤツのにまにま顔が鬱陶しいの極み!悔しい!だがしかし、背に腹はかえられぬ!
そんな数々のお役目の中でも群を抜いて憂鬱なのが、今日これから出席する要人達の奥様方が集って意見を取り交わすお茶会―――という名の奥様方の井戸端会議だった。
「ラズ様、お顔。ちゃんと作ってください」
「うぅ…憂鬱すぎて既に口角動かん」
国を代表する各要人のトップがクオーツなら、それら主要人物の奥様方のトップは国王妃である僕になり、王城の庭園で開かれるこのお茶会も本来であれば僕主催という形、なのだが……もはやただそこに座って存在するだけの人形と化すくらい、僕が口を挟む隙など無い言葉の応酬が行われる。
今日の話題の火の粉が飛んできませんように…そう願いながら、はぁ……と大きくため息を吐き、覚悟を決めると奥様方が待つ庭園へと歩みを進めた。
「まぁっ聞きました!?あそこの娘さん家同士の不仲で離縁なされるそうよ?」
「うちの主人最近帰りが遅くて絶対怪しいんですっ」
「そのアクセサリーどちらの物です?とても素敵」
色とりどり綺麗なドレスに身を包んだ奥様方が長机を5:5で囲い、お誕生席に僕が座るといういつもの座席。今日も各自様々な話題が飛び交う中、一応近くの奥様方の話を聞いてるふりしながら永遠と紅茶を飲み続けていると、ふと、聞き捨てならない単語を耳が拾った。
「そういえば、騎士団長のラルド様もそろそろいいお年ではなくて?」
!?
「確かにそうよね!何かいいお話はないのかしら…まずアルファでしょ?そしてあの若さで地位を確立して見目も麗しいお方なのに」
「私の娘とか如何かしらっ」
「それを言うなら私の息子も優良よ!」
なっ、なっ、何を言い出すんだこの人たちは!!
ラルド様に嫁だと!?そんなの、そんなの―――
「絶対反対!!」
「ラズ様!?」
突如としてバンッと立ち上がる僕に全員の視線が一気に集中した。いつもだったら、うっ、と狼狽えるシチュエーションだが、ラルド様が関わってるとなれば話は別だ。僕の勢いは止まらない。
「ラルド様は、ラルド様が心から愛した方と結ばれて幸せになるっていうゴールインしか認められません!勝手に外野が口出すのは禁止です!強要ダメっ絶対!」
ふんすっと鼻息荒く言い切る僕を唖然と見上げる奥様方の視線。後ろに控えるマリンの「ラズ様…」という呆れた声ではっと我に返ると急激に顔が熱くなるのを感じながら慌てて椅子に座り直す。
いまだ熱く熱を持つ顔をパタパタ手で扇ぎながら、視線が怖くて顔が上げられない。
うぅ…穴があったら入りたい逃げ出したい……
しん――と静まり返る地獄みたいなこの状況を誰か何とかしてくれぇ……と完全に他人任せでギュッと目を瞑ると、とあるご夫人の言葉が止まっていた時間を動かした。
「す……素敵!ラズ様の臣下に対する熱い想いに感動ですわぁ!」
「ここまで臣下を想っているなんて……さすが国民の母ですわね」
「私達も見習わなくちゃ」
「え、え……」
思わぬ方向に進みながらもなんとかこの場はいい王妃という形で収まりかけた、かと思われたが―――
「ところで、それを聞いてラルド様、今のご心境はいかがです?」
「え……」
何故、今この場にラルド様が居るような質問をするのだろうか……
要人の奥様方が集まる会だとはいえ、城内の警備に当たるのは騎士団ではなく警備隊。
ラルド様がいるはずが――
そう思う僕の後ろで、カツン、と洗礼された足音が鳴り響いた。
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