15 / 126
戻ってくる場所sideクオーツ
しおりを挟む◆◇◆◇◆
「クオーツ様、少々よろしいでしょうか」
要人達を集めた会議のさなか、ササッとやってきたトールから耳打ちで告げられた報告。
―――ラズが私を呼んでいる。
それを聞いた瞬間、いままでにない興奮が全身を駆け巡り、思わず椅子を蹴り倒す勢いで派手な音をかき鳴らし立ち上がっていた。
「……陛下?如何なされた?」
「何か緊急事態でも?」
あまりにも珍しい光景だったのかザワザワと注目を集める中、ふぅー…と深く息を吐き気持ちを沈め、様子を伺ってくる周りには片手を上げ問題ないこと示す。
「……陛下どうなさいますか」
「すぐ行く」
考えるまでもなく答えは決まっていた。
うるさい要人達を適当に言いくるめ早急に会議を切り上げるとラズが待つという件の廊下まで急いだ。
何が起きているのかは不明だが心配半分、正直嬉しさも存在した。
ラズが私を呼び出すのは相当珍しい。
今日の私のスケジュールを知った上でのことであるから尚のこと―――。
良いことでの呼び出しであればいいのに、と抱く淡い期待はどうせ違うのだろうと苦笑で打消した。
広い王城内を移動するだけで多少時間を取られながらもやっと辿り着いた目的地。この角を曲がった先にいる事は僅かに漂うラズのフェロモンから察知できた。
しかし――どんどん近付くにつれそのフェロモンが激しく不安定に揺れている事に気が付いた。それほど強い不安に駆られる何かがラズに起きている。
ラズ……?
より速度を上げ、曲がった先で見た光景に思わず足が止まった。
一番に視界にとらえたのはここにいるはずの無い、かつて私自ら追い出した忌々しい元婚約者の姿。それだけで私が呼ばれた理由が察知でき、さて、湧いて出たコイツをどうしてくれようか……と頭を悩ませかけた、その時、本当の問題はその奥なのだと気が付いた。
マリンに支えられるようにして足元おぼつかないラズが伸ばした手の先―――その手を取ろうとするラルドを見た瞬間カッと頭に血が登りかけた。
常日頃、ラズが一方的にラルドを追い掛ける行為については当然内心おもしろくはないが、目を瞑り容認していた。
私のエゴで王城という窮屈な鳥籠に閉じ込めてしまった罪悪感から、この子の自由だけは奪わないと決めているから。
しかしこれは、ラルドがラズに歩み寄らないという絶対条件があるから成り立つ事だった。
まだそう遠くもない過去に交わした、当事者のラズだけが知らない裏で取り決めた私とラルドの契約。
―――陛下、私に騎士団への入団許可をください
―――認めよう。だが、ラズがうろちょろアピールしようが決して反応するな、必要最低限の接触以外は認めない。
これがあるから、いまの歪な関係性は維持できていた。
ラルド、お前にそれを破る覚悟はあるのか―――?
強い眼差しを送ってしまった自覚はある。勘の鋭いラルドは当然こちらに気付いているだろう…それでもヤツの行動はラズを優先した。しかし、ラズも強い何かを感じとったのか、ビクッと大きく震え、勢いよく振り返った際の怯えた表情を目にした瞬間背中を這ったゾクリとした興奮を暫く忘れられない。
別に私に加虐趣味はないというのに―――ラズの一挙手一投足どんな表情リアクションも新鮮で、常に私の心を揺れ動かす。
「おいで」
どうせいつものように最後は私から行くことになるだろうと思いながらも腕を広げ誘った呼び掛けに、驚くほど素直に飛び込んでくるラズを受け止めた瞬間の多幸感。
相当心が弱っていたのだろう可哀想に。
これからも間違えてはいけないよ。
お前が縋るのは私だろう?
どれだけ他の男を追いかけようが、最終的には私の元へ戻ってくるんだよ。
1,372
お気に入りに追加
2,286
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる