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戻ってくる場所sideクオーツ
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「クオーツ様、少々よろしいでしょうか」
要人達を集めた会議のさなか、ササッとやってきたトールから耳打ちで告げられた報告。
―――ラズが私を呼んでいる。
それを聞いた瞬間、いままでにない興奮が全身を駆け巡り、思わず椅子を蹴り倒す勢いで派手な音をかき鳴らし立ち上がっていた。
「……陛下?如何なされた?」
「何か緊急事態でも?」
あまりにも珍しい光景だったのかザワザワと注目を集める中、ふぅー…と深く息を吐き気持ちを沈め、様子を伺ってくる周りには片手を上げ問題ないこと示す。
「……陛下どうなさいますか」
「すぐ行く」
考えるまでもなく答えは決まっていた。
うるさい要人達を適当に言いくるめ早急に会議を切り上げるとラズが待つという件の廊下まで急いだ。
何が起きているのかは不明だが心配半分、正直嬉しさも存在した。
ラズが私を呼び出すのは相当珍しい。
今日の私のスケジュールを知った上でのことであるから尚のこと―――。
良いことでの呼び出しであればいいのに、と抱く淡い期待はどうせ違うのだろうと苦笑で打消した。
広い王城内を移動するだけで多少時間を取られながらもやっと辿り着いた目的地。この角を曲がった先にいる事は僅かに漂うラズのフェロモンから察知できた。
しかし――どんどん近付くにつれそのフェロモンが激しく不安定に揺れている事に気が付いた。それほど強い不安に駆られる何かがラズに起きている。
ラズ……?
より速度を上げ、曲がった先で見た光景に思わず足が止まった。
一番に視界にとらえたのはここにいるはずの無い、かつて私自ら追い出した忌々しい元婚約者の姿。それだけで私が呼ばれた理由が察知でき、さて、湧いて出たコイツをどうしてくれようか……と頭を悩ませかけた、その時、本当の問題はその奥なのだと気が付いた。
マリンに支えられるようにして足元おぼつかないラズが伸ばした手の先―――その手を取ろうとするラルドを見た瞬間カッと頭に血が登りかけた。
常日頃、ラズが一方的にラルドを追い掛ける行為については当然内心おもしろくはないが、目を瞑り容認していた。
私のエゴで王城という窮屈な鳥籠に閉じ込めてしまった罪悪感から、この子の自由だけは奪わないと決めているから。
しかしこれは、ラルドがラズに歩み寄らないという絶対条件があるから成り立つ事だった。
まだそう遠くもない過去に交わした、当事者のラズだけが知らない裏で取り決めた私とラルドの契約。
―――陛下、私に騎士団への入団許可をください
―――認めよう。だが、ラズがうろちょろアピールしようが決して反応するな、必要最低限の接触以外は認めない。
これがあるから、いまの歪な関係性は維持できていた。
ラルド、お前にそれを破る覚悟はあるのか―――?
強い眼差しを送ってしまった自覚はある。勘の鋭いラルドは当然こちらに気付いているだろう…それでもヤツの行動はラズを優先した。しかし、ラズも強い何かを感じとったのか、ビクッと大きく震え、勢いよく振り返った際の怯えた表情を目にした瞬間背中を這ったゾクリとした興奮を暫く忘れられない。
別に私に加虐趣味はないというのに―――ラズの一挙手一投足どんな表情リアクションも新鮮で、常に私の心を揺れ動かす。
「おいで」
どうせいつものように最後は私から行くことになるだろうと思いながらも腕を広げ誘った呼び掛けに、驚くほど素直に飛び込んでくるラズを受け止めた瞬間の多幸感。
相当心が弱っていたのだろう可哀想に。
これからも間違えてはいけないよ。
お前が縋るのは私だろう?
どれだけ他の男を追いかけようが、最終的には私の元へ戻ってくるんだよ。
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