上 下
11 / 113

薔薇の毒(3)

しおりを挟む

 
「丁度良かった、わたくし今から中庭でお茶をしようとしていたところですの。よければラズ様もご一緒にいかが?」
 
「い、いえ……あの…」
 
「申し訳ありませんローズ様、ラズ様はこれからご予定が――」
 
「使用人風情が口を挟まないでくださる?」
 
「……失礼致しました」
 
 
 相変わらず典型的な身分差別の意識を持つローズ様は昔からこれだ。自分より下のものを見下し、下手したら人間とも思わない扱いを平気でする。
 今となったら僕の方が身分は上で多少態度を改めているように見えるが、久しぶりに目の前にする彼女の視線に完全に萎縮してしまっていた。
 
 それでも、マリンが不当な扱いを受けるのは嫌だった。
 
 
「マリン、大丈夫、下がってて」
 
「……ラズ様」
 
 
 心配そうに伺ってくるマリンにこくりと頷き、大丈夫なことを伝えたかったのだが、浮かべた笑顔は失敗に終わり余計心配させてしまったかもしれない。
 さりげなくギュッと握ってもらった手から伝わる小刻みな震えが情けなかった。
 
 そんな僕の様子をわかっていて彼女は容赦なく言葉を畳みかけてくる。
 
 
「あらあら、別にわたくしただお喋りしているだけなのにそんなお顔をされるといじめていると勘違いされてしまうわ。ねぇ、ラズ様、わたくしとラズ様の仲でしょ?もうとっくに家族ですのに陛下の意地悪でなかなかお会い出来なくて寂しかったんです、この機会にもっと仲良くなりたいわ」
 
「っ……」
 
 
『初めましてラズ様、ローズと申しますぜひ仲良くしてください』
『初めまして…ローズ様、こちらこそ、よろしくお願いいたします』
『ふふ、クオーツ様から聞いていた通り可愛らしいお方。こちらラズ様に用意した花ですぜひ受け取ってくださいな』
 
 
 王城に来て初めてローズ様と対面し挨拶を交わしたあの日の記憶と重なる。
 
 優しそうで綺麗な人だと思って油断した。
 ローズ様の従者の手から渡された色とりどりの綺麗な花の中に紛れていた、猛毒を持つ小型な蛇が突如として顔を出し噛まれそうになったあの恐怖。
 
 泣き叫ぶ僕を見てにまぁと笑っていたあの悪魔のような顔が頭から離れなかった。
 
 
 
 
「ラズ様」
 
「っ」
 
 
 名前を呼ばれ、はっと気付く。
 未だ繋がったままのマリンの手を無意識のうちに軋むほど強く握りしめていた。
 
 
「……ごめ、マリン……クオーツ、呼んで」
 
「はい、既にトールを通して呼んでます」
 
 
 今日クオーツが公務で忙しいのはわかっていた。昨夜ベッドの中でしつこい程充電させてと長時間粘着されたから。
 それでも、頭の中で警鐘がなるほど、ストレスがピークに達していた。
 
 
 
 呼吸が浅く、息がしずらい。
 
 今すぐ番のフェロモンに包まれたい、安心したい、抱きしめて欲しい。
 
 早く、早く、早く―――
 

 みるみるうちに脚の力が抜けていき立っているのも限界でマリンに支えられる僕を見つめるローズ様の口元は扇子で隠れているものの目が嘲笑っている。たとえ違ったとしても長年の経験から僕はそう感じてしまう。

 

 嫌だ…怖い……誰か……助けて

 
 誰か―――

 
 
 
「ラズ様?」

 
「っ、―――ラルド、様……」

 
 
 天の声ならぬ、推しの声
 
 耳と頭がそれを認識した途端、必死に張っていた緊張がぶわっと解ける感覚に視界は一気に水の膜で覆われた。
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

処理中です...