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運命の番sideクオーツ

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「クオーツ様、兵からラズ様の視線が気になって訓練に支障が出ると声が上がっております」
 
「……はぁまったくあの子は」
 


 ◆◇◆◇◆
 
 
 
 執務室に篭って午前中の公務に向かっていると、耳に入ってきた側近からの報告。
 この類の苦情は数ヶ月に一回の頻度で上がってくる。あの子が王城で暮らすようになって早十数年、発作のような暴走は留まるところを知らなかった。
 
 
「今日も?」
「はい、炎天下の中いつもの場所で楽しそうににやにやされてます」
「はぁ…夫である私のそばで私を見つめていればいいものを」
「それはラズ様つまらないかと」
「トール……減給するよ」
「申し訳ありません、つい真実が口を出ました気をつけます」
 
 
 涼しい顔で謝罪するトールという名の側近を冷めた視線で睨むも付き合いの長さから彼には全く通用しない。この国のトップである国王の自分に失礼極まりない態度をとる数少ない人物のうちの一人。
 私と同年に生まれたトールは双子の弟マリンと共に幼い頃から王城に仕え、共に過ごしてきた。
 
 トールは私の側近として、マリンはラズの側近としていつ何時何が起きても即対応できるよう配置している。
 
 
「はぁ、いいや。疲れたし休憩がてら愛するラズの顔でも見に行こうかな」
「午後も予定が詰まっていますので手短にお願いします」
「それはラズ次第かな」
 
 
 側近の大きなため息を背中に浴びながら悠々と執務室を後にした。
 
 
 目的地に向け廊下を歩いていると作業中であったメイド達がこぞって手を止め、脇によけ、頭を下げる、見慣れた光景。
 この世に生まれた瞬間から次期国王と定めを受け、誰もが頭を垂れ思うがまま自分に逆らう者など皆無の人生だった。
 欠点など何もない。
 当然の如く早い段階から第二の性はアルファとして出現し、恵まれた容姿、勉学も剣技も、何事もソツなくこなしてきた。
 つまらない人生。
 このまま適当に政略結婚で相手を決め子供を成し終わっていくのだと幼いながらに人生を達観していた。
 
 そんな私の色のない濁った世界が一人の男の子との出会いで一気に色付いた。

 
 
 見つけた、僕の運命おめが―――。

 この子は僕のだ。

 
 
 触れた瞬間、1歳の幼子に抱くにはありえない激しい感情が全身を駆け巡り、今すぐそのうなじを噛みたい自分のものにしたいという強い衝動に駆られた。
 それ以来、ラズが私の全てであり、唯一の弱点。
 一々彼の言動が私の心を激しく揺れ動かす、今までにない感情を与えてくれていた。
 
 しかし、私がいくらその想いを伝えようとも彼の視線の先には常に別の男がいる。

 出会ったその日の宣言通り毎日彼の屋敷に通い口説き嫉妬に駆られながら、それでも運命は運命。
 結果として今、彼の番は私でありこの国の王妃。
 国王の隣に立つ唯一無二の存在として国民全てに知れ渡っている。


 
 
「ラズ、また私以外の男を見てるの?」
「……僕が所構わず男漁りしてるみたいに言うのやめろよ聞こえが悪い。僕が見てるのはラルド様だけ」
「うん、それが許せないなぁ」
「へ~」
 
 
 私が話しかけているというのに一切こちらを見ない生意気な妻。
 定位置と化している騎士団の訓練所が見渡せる木々の内の一本の大木にベタっと張り付き、にやにや眺めている姿は不審者としか思えない。
 
 ビクともしない後ろ姿を眺めながら、フリルが施されたシャツの襟足から覗く噛み跡をじっと見つめる。
 
 
「ラズ」
「……なに」
 
 
 何かを感じ取ったのか、ビクッと肩を跳ねさせ、そろりそろりと顔だけをこちらに向けてくる。そんな彼にニコッと微笑み、もう一度「戻ろう」と伝えた。
 態度は悪いが頭は悪くない子だ。いま逆らうのは得策じゃないと察すると顔には不満ありありの表情を貼り付けながらも差し出した手を渋々握り返してくれる。
 その手をギュッと握ると未練を断ち切るかのようにぐいっと引き寄せ歩き出した。
 
 
 
 そろそろ彼の発情期がやってくる。
 
 私だけを求めてくれる至福の時間。
 
 
 
「……甘いもの食べたい」
「すぐに用意させよう」
 
 
 
 かわいい私のラズ。
 髪の毛一本爪の欠片までキミの全ては私のもの。
 
 何度キミの視線の先にいる男を殺そうと思ったか、数しれない。
 けれどそれをしてしまったら今度こそ完全にキミに嫌われてしまうから……まだしない。
 
 
 どうか私の我慢の糸が切れないよう、気をつけておくれ。
 
 
 
 
 
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