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前世の記憶
しおりを挟む突然ですが、前世の記憶がある人はこの世にどれくらいいるのでしょうか。
それが自分にあると自覚したのは生まれて初めて目を開けた瞬間だった。
◆◇◆◇◆
この世に生を受けて早数日。
毎日たくさん訪れる知らない人達に囲まれながらベッドに寝かされる僕の口からはおぎゃあおぎゃあと言う泣き声しか出ないのに、頭の中はそれ以上の言葉や情報が溢れ混乱していた。
例えば生まれたばかりで歩けないのに歩く方法を知っている、だけども体がそれに追いつかない。
まだ何も経験したことないはずなのに、生まれてこの方すくすくと成長し野原を走り回り、楽しい気持ち悲しい気持ち、誰かを好きになる気持ち、大切な人を失う辛さ、そして自分も儚く最後は死んで生を終える。そんなひと一人分の人生を経験してきたような記憶が小さな頭に一気に流れ込み、感情が張り裂けそうで何日も何週間も泣き続けることしかできなかった。
泣く事は思ったよりも体力が削られていく。
生まれてすぐの小さな体では当然体力が追いつかなかった。
「ラズ様、今日も泣きやみませんね……」
「お産で体力が回復しきってないお身体でありながら毎日付きっきりであやしておられるラピス様も倒れてしまいそうで心配よね……」
赤ちゃんだけどメイドたちのこんな会話も理解出来てしまうんだ。
自分のことなのに赤子の泣きスイッチを自分ではどうしようもできず、パニックでずっと泣き続けていた僕を母様や乳母は様子がおかしいとすぐに気づいてくれた。が、同じくどうしようもできず、困り果て全員で共倒れしかけた、そんな時―――抱き上げてくれた一人の少年の大きく温かな手。
その手に抱かれた瞬間、第二の稲妻が走ったかのように頭の中でごった返す情報が一斉にかき分けられ、ある一人の存在が脳裏に強く焼き付いた。
「ラズ様、大丈夫ですよ、何も怖いものはありません俺があなたをお守りします」
『翡翠様、貴方を守って死ぬのが私の幸せです、どうか泣かないで』
幼さが所々残る10歳そこらの見た目で今世の世界観にマッチした洋風な軍服に身を包む少年と、20歳くらいの見た目で和服に身を包み全身から血を流した青年の顔と声が朧気に重なる。
その人は、前世の僕―――翡翠を守って儚く散ってしまった。
翡翠には他に決められた許嫁がいたけれど、心のどこかでずっと好きだった人。
まさにその人と同じ魂を持つ人がいま目の前にいて僕を抱き上げている。
あんなに止まらなかった涙がピタッと止まった。
「初めまして、ラズ様。光栄なことにあなたの世話役を任せられましたラルドと申します」
そんな人がまた、僕の人生に関わってくる。
「よろしくお願いします」
「………ば…ぶ」
今世では、
どうか幸せに長生きして欲しい、
僕はそれを陰ながら見守りたい、
そう強く思った瞬間だった。
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