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Code81 ハーネイトの欠点とバイザーカーニアの動向
しおりを挟む「行っちゃったけど、正直まだ頭の中が混乱しているわよ」
「そうですね姉さん。ハーネイト、確かに父さんとどこか似ているわ。でも血は繋がっていない。首にあるあざがないもの」
「でも私たちの跡を継いで、魔法の研究と発展に貢献し続けた姿は正にジルバッドそのもの。やだ、なぜか涙出ちゃった」
ミカエルとルシエルは、二人の悪魔から聞いた話から父のことを思い出し、特にミカエルが泣きそうになっていた。やはり父さんは父さんであったと。最後まで信念を貫き通した人だとわかり、無性に彼女は涙が込み上げてきたのであった。
「さあ、相棒。どうするんだ、この先。下手に仕切られてもかえって危ないぜ」
「あ、ああ。やはり、一人で戦った方が……」
その言葉を聞いた伯爵は、静かにハーネイトのもとに駆け寄ると、あごに強烈なアッパーカットを繰り出しハーネイトを空高く吹き飛ばした。そしてハーネイトは力なく地面に背中から激しく着地した。さらに倒れた彼に伯爵は迫り、胸ぐらをつかみ睨みつけた。
「っつ……」
「何してるのよ伯爵! 」
「リリー、少し黙っていろ。なあハーネイト、俺が聞きたいのはその言葉じゃねえんだよ。どうして欲しいのか、ちゃんと言えよ。囮になれだの、後ろを守れだの、従える分には従うぜ。だからもう、弱気になるなよ。俺のライバルさんよ」
「もう、伯爵ったら荒いわね。でも……もう少し私たちのこと、信じて頼ってほしい。先生、私はいなくならないよ。ずっとそばにいるから」
「師匠、至らないところがあれば厳しく教えてください。あの話を聞いて、どこまであなたに近づけるかはまだ分からないけれど、それでも、使ってください」
伯爵は珍しく激怒しながらも、自身らをもっと使えと強く言い、リリーも困った顔をしつつも同様の意見を、そしてリシェルは自身の体験と彼の体験を重ね合わせつつも、高みを目指すために力を使ってほしいと意思を示した。それにつられるかのように、DG元幹部とエレクトリールも思っていたことを正直にぶちまけた。
「私たちがどうこう言える立場でないのは重々承知の上ですが、もう少し胸を張って生きてほしい」
「ハーネイト、あなたはいい仲間に巡り合えた。しかしそれを活かしきれていないの。みんなあなたに頼られたい、認められたいから危険な戦いにもこうして集まっているのでは?……あまり、言えた義理じゃないけれど……」
「ハーネイト、俺は、従う。戦いやすいやり方、やってほしいから、命令、出してくれ」
「しょうがないですね。私が参謀でないとダメなようです。ハーネイトさん、前は任せます。だからどの戦いでも、無事に帰ってきてください。あなたのような人が目の前で消えるのは嫌です」
リリエットたちの言葉がそうして一つ一つ、彼の胸にゆっくりと刺さっていく。もう一人じゃない、そう分かっていてもどこか孤独だと感じていた。けれどそれは、自身から壁を作っていたんじゃないか、傷つきたくないから離れていたんじゃないかと彼は思い知らされた。
「みんな、本当に身勝手というか。……わかった。私の意見を伝える。私は、強い敵と戦って勝ちたい。みんなが倒せないような存在でも、私ならば有効打を与えられる。いつもそうして、みんなの生きる希望を紡いできた。だから、みんなは戦いの邪魔をするものすべてを取り払ってほしい。わがままで……。済まない、みんな」
ハーネイトのその言葉にやれやれとした表情をしながらも、内心話を聞いた人全員は喜んでいた。彼の戦いを見ながら、自身も戦えることに。
多くの人を率いる将としての言葉にしては問題点が多い命令であるが、一人一人が街を単騎で滅ぼす、またはそれ以上の強者揃いである彼らならば、その破天荒な作戦も有効に働くのであった。
「問題ないですぜ、師匠!もとより俺は後方支援専門だし。師匠は周りに気を使いすぎっすよ。もう少しわがままでも構いませんって」
「いいわよ、私も支援タイプだしあなたに前で派手に戦ってほしいわ」
「無茶苦茶ではあるが、だがマスターは多くの脅威を退けた実績はある。承知いたしました。その命、承りますぞ。あの英雄伝説の力、世界を脅かす輩に見せつけてください」
「それが、ハーネイト様のお考えなのでしたら、私はそれに従うまでです。しかし、必要とあらば私を傍においてください」
彼の言葉を聞き、南雲と風魔も賛同する意思を示した。ハーネイトのこの作戦が今後どこまで通用するのか、それはまだ未知数であった。
力を恐れ眼を背けてきた罪とも向き合うことができた。そして人を信じることの大切さを改めて学び前へ踏み出した。彼に残る足りないものは、上に立つ覚悟と、自身における真実。この二つであった。
「……ああ。みんな、頼んだ」
ハーネイトは静かに、全員にそう伝えた。内心ではすべてが納得したものではなかったが、それでもやるしかないと心に決めた彼であった。
「本当に、相棒には手を焼かされるぜ」
「それも彼の魅力でしょ?さあ、ここで新しいことが分かったけれど車に戻ってから話の整理をしましょ?」
「そうすねリリーちゃん。片付けの方もよさそうですし、順番にまとめていきましょうよ」
みんなが車に戻ろうとした時、ハーネイトはシャムロックたちの姿がすでにないことに気づいた。
「あれ、シャムロックたちは?」
「あの人たちはすでに車の方に戻っています。ハーネイト様」
「そうか、急ごう。さて、ユミロは一旦戻ってほしい」
「うむ」
ハーネイトはそうしてユミロをペンの中に戻してから、全員を連れてベイリックスに戻った。そして全員が乗り込んだのを確認して、彼らを乗せたベイリックスは今度こそミスティルトシティに向かうのであった。
彼らが移動を開始する少し前、古代人が作り上げた都市のひとつ、ゴッテスシティにあるバイザーカーニアの本部において、ロイ首領とその部下が話をしていた。
「これがあいつらからの報告書か、む、魔法を悪用する輩ね。ジルバッド様が生きていれば、即刻粛清対象でしょうね」
「怖いこと言わないでくださいなロイ様。その魔法使いの行方は完全にはつかめていません。申し訳ありません」
綺麗で物が少ない社長室のような部屋に、一人の幼い少女と、やぼったい眼鏡を付けたセミロングの女性が話をしていた。
「仕方ない。ハーネイトでさえもてこずる相手じゃ、な。各地からの報告も、思わしくないものが多い。西大陸関連が特にそうだが、北大陸でもDGの活動は活発になりつつある。もっとも、いくつかの研究拠点が壊滅状態だというのが解せぬ」
ロイは神妙な顔をして、報告書の文章を目で追いながら何が起きているのかを瞬時に頭に叩き込んでいた。
「何でも謎の白い服の戦士がその近くで目撃されてますね」
「ハーネイトとは違う何かか、気になる。こんな時に魔法協会の連中は無能か、まったく」
「だからこそ、私たちが動かないとですね!」
「そうじゃなあ。どうせ協会の時代遅れ爺どもは使い物にならん。そういうわけで、引き続き頼むぞ」
「はい、ロイ様!」
眼鏡をかけたロイの部下である女性、フラフィナの言葉を聞き、ロイは命令を出した。それを聞きフラフィナは元気よく返事をして退出した。
「さて、どう動こうかね。ハーネイト先輩、あなたならどうしますか」
心の中でロイは、ハーネイトのことを思いながらこの先の行方を心配していた。BK首領とハーネイトの関係はとても深い物であり、付き合いもかなり長い。だからこそ、人一倍彼の性格や人柄を理解し、その上で心配していたのであった。
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