上 下
147 / 204

Code 145 DGに魂を売った研究者

しおりを挟む

 その頃ヴァルハは社長室でコーヒーを飲んでから会社の地下にある研究室に足を運んだ。例の研究者、ウディスと話すためにであった。部屋の扉を開け、ノートに何かを書き込んでいたウディスに声をかける。

「ウディスか、私の部下に何を吹き込んだ、答えろ」
「これはこれは、ヴァルハ様、一体何をおっしゃっているのですか?」
「どうもこうも、私の社員をたぶらかし、危険な目に合わせただろうが」

 ヴァルハは怒りを抑えながらウディスに詰め寄る。カードについて簡潔に説明を聞いていたものの、真の効果について全く聞かされていなかったことが彼の怒りを買っていた。

「おやおや、あなた方こそ、私の研究について把握されていないのでは?」
「なんだと?」
「私の行う研究は、人の限界を超える研究。あのカードもまた、その研究に必要なものなのですよ」

 ウディスはデモライズカードの本来の用途とされた、人の限界を超え転移生物に対抗するため生み出されたことを話す。それについては偽ることなく、ありのままをヴァルハに話す。
 ウディス・マスティン・ヴァイオ、彼もまた機士国の研究機関に在籍していた時は崇高な志を持った一人の研究者であった。そんな彼を豹変させたのがDGであった。DGが持ち掛けた提案のどれもが、さらなる高みを目指す好奇心旺盛な研究者たちの心を揺さぶり、魔女セファスの仕掛けた罠も相まって、多くの研究者がDGのもとで恐ろしい研究に励み幾つもの禁断の研究成果を生み出していたのであった。

「だからと言って、社員を利用していいということにはなるわけないだろう」
「そういわれましても、あのマーティンという男が力を望んでいた。私は力添えをしたまでですぞ日ヒヒ」
「力を、望んでいた?」

 ウディスのその言葉に、ヴァルハは怪訝な顔をしていた。どういうことなのだ、あのマーティンがなぜそのようなことを?疑問が矢継ぎ早に脳内に出てくる。

「おやおや、ヴァルハ様はこの街、いや、この星で大人気のゲームのことについてご存じないのですね?異世界から来た人間には、まあ仕方のないことですが」

 ウディスの話を、ヴァルハは黙って聞いていた。ブラッドルについては知っていたものの、まだ知らないことが多いものだと勉強不足を痛感しつつ、ハーネイトから聞いたDGとの戦争についてここまで人を歪めたのかとおそれを抱いていた。

「ともかく、会社をさらに発展させるためには私の力が必要になりますぞ?いいですね?生体工学の分野でシェア1位を取るためには、手段を選んでいる暇はありませぬぞ」

 ウディスは不気味な笑いを浮かべヴァルハに対しそういう。

「……ああ、ただしこれ以上妙な真似は許さないぞ。腕は認めているが、あまり目立つような真似をしてはならん」
「ヒヒヒ、わかっておりますぞ。では私は研究の続きを……」

 ヴァルハは牽制する一言を述べてから部屋を後にした。エレベーターで一階に上がる中で彼は考え込んでいた。

「……怪しいとは前から思っていたは、あれはまずいな。しかしハーネイトの言うとおり、目を話していては何をしでかすかわからん。……何を企んでいるのか調べないとならんな」

 その後一旦社長室に戻り部屋を出たヴァルハは、改めてハーネイトと協力し、この研究者ザイオの企みを暴かなければならないと決意した。いやな予感がする。そう彼は思い、会社を出て次にマーティンの入院している病院に足を運んだ。

「すみません、マーティンという男がここに入院していると聞いたのですが、面会は可能ですかい?」
「ええ、一応できますがあなたは誰ですか?」
「ああ、私はルゴスコーポレートのヴァルハと申します。ハーネイトという男に私の社員を助けていただいたのでね」

「ほう、そなたがあのルゴスコーポレートの社長ですか。面会については30分だけですぞ。まだ彼の体は傷ついておりますからな」
「ええ、構いませぬとも」

 ホミルドは常に警戒を怠らないようにしつつも、ヴァルハに対し患者の面会を許可した。

「ヴァルハだ、大丈夫かマーティン」
「社長……!なぜこんなところに!」
「いや、お前さんを助けた男が会社にきてな、事情を説明してくれた。そのおかげで分かったのだ」

 なぜ社長であるヴァルハが直々に見舞いに来たのか驚いたマーティンは、うつむいたまま謝る。

「社長……!すみません、俺なんかのために」
「そういうなマーティン。しかし、あの夜何があったのか話せる範囲で聞かせてほしい。同じようなことはこれ以上起きてほしくないからな」

 マーティンは正直に、あのとき何があったかを話し、ヴァルハも時々うなづきながら話をすべて聞いていた。

「それで、俺はそのアイテムの実験に協力する形で、報酬に財宝のありかを教えてもらうということであれを使ったのです。妹の病を治すために、どうしてもお金が……」
「妹さんがいたのかい、それに病だと?会社の製品では治せないのか?」
「妹の病は……おそらく治せません。半年ほど前にあったある女に襲われたその後遺症だからです」

 マーティンがなぜデモライズカードを使ったのか、それは単に力を求めていたわけではない。真の理由は実験と引き換えに大量の金が彼の手元に入るからであった。医者が首を横に振るほどに、マーティンの妹ルミナの罹った病はひどかった。そんな彼女を救うために、大金を積んでどうにかしようとしていたのであった。

「それならば、あのハーネイトという男ならば妹さんを助けられるはずだ。確か魔法の名手だったはずだ。彼もそれについて自信ありげな表情だったぞ」
「あ、あの男がハーネイト?昔見た時と別人のようだったから気づかなかった……確かにそうですな。それでハーネイトが事件解決のために動き回っていると」

 マーティンの話を聞いたうえで、ヴァルハはハーネイトならばたとえ呪術的なものによる病であっても治せると説明し、マーティンは驚いていた。あの男がハーネイトだったのかと。以前顔を見た時とは全くの別人に見えていたため気づくのに遅れたのであった。

「それで、ふむ。あの研究者は偽名を使っていたのか。ウディスという名は違う。本名はザイオ・グリューンペル・アグタキスで、昔機士国で研究者をしていたと」

 マーティンは研究者ザイオのことについて詳しかった。他に協力者が数名いることも話したうえで、彼の本名と出身についても話した。

「なんだと?いつの間にそのような事件が起きていたのだ。しかし、その事件と関係があるというのならば協力しない選択肢はない。マーティンが使ったアイテムは、ハーネイト曰く人を爆弾に変えたり悪魔や魔獣に仕立て上げ街を壊す代物らしい」
「おいおい、あの男はそんなやべえもの作っていたのかよ!」

 マーティンは話を聞いて震えが収まらなかった。自分はカードが途中で離れて何もなかったから今生きているが、場合によっては死んでいた。しかもそうなる可能性を全く告げられていなかったことに彼は憤りを隠せなかった。そのうえでそう考えると奇跡が起きたのだなと思っていた。

「正確には、その研究者の元同僚らしいがな。侵略してきた宇宙人をペテンにかけてそのカードで自滅させる予定だったとハーネイトから話は聞いた」
「……そうなのか、命拾いしたよ本当に。社長、あの研究者、ほかに仲間がいるらしいです。それと、こんなものを手に入れてきたんす」

 マーティンはある資料をヴァルハに渡した。それはある建物の見取り図と場所を示す地図であった。

「これは、何かの建物の見取り図だな。しかも工場みたいだ」
「なんでも、そのカードを作ってるらしいんですよ。そこで。しかも会社の金を無断で使っているそうで……」
「そうか、わかった。これをハーネイトに届けよう。そうすればそれ以上危険なカードの製造は防げるはずだ」
「頼みます、社長」

 ヴァルハは見舞いの品を机に置いてから病室を後にした。マーティンも薄々カードについていやな予感は感じていた。だからこそどうにかして地図を手に入れ誰かに破壊してもらおうと考えたのではないか。そう思いつつホミルドのいる部屋まで向かった。

「すまなかったな、ホミルド院長さん」
「いえいえ、部下がご無事で何よりです」

 ホミルドに一礼してからヴァルハは自分の心境を彼に話した。

「しかし、とんだ厄介な出来事に私も巻き込まれたものだ。私もブラッドルという競技が気になってここまで来て、彼らに近づくためああいった商品を作っていたのだが、もし今回のことが明るみになれば会社は間違いなく倒れる」

 今回の事件が明るみになれば、会社の信用はなくなるだろう。そうなれば会社をたたむしかない。そうはさせないと決意を固めながら病院を後にして夜道を歩くヴァルハの背後に、何者かが近づいていた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦 *主人公視点完結致しました。 *他者視点準備中です。 *思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。 *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。

MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。 カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。  勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?  アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。 なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。 やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!! ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在毎日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。 前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。 やばい!やばい!やばい! 確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。 だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。 前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね! うんうん! 要らない!要らない! さっさと婚約解消して2人を応援するよ! だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。 ※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。

処理中です...