上 下
119 / 204

Code117 ハイディーン救出

しおりを挟む
 伯爵たちが戦っている少し前、ハーネイトはウルグサスと共に追われている男の救助に入ろうとしていた。

「ニャルゴ、来て!」
「ううむ、我の背に乗れ」
「ああ、モード、ウルムシュテルム!ウルグサス、邪魔するものは蹴散らしてほしい」
「荒いな扱いが、まあ良い、迅速にな」

 そうしてハーネイトは呼び出したニャルゴの背に乗るとウルグサスから飛び降り、地面に降り立つと瞬時にその男を回収し背に乗せた。ついでに追ってに対し、ハーネイトは素早く魔法を詠唱する。

「焔(ほむらび)の刃 光々として消ゆ 万象燃やし進む一撃と為し 野望砕け、決意の大炎火!大魔法31式・却火砲(きゃっかほう)」

 ハーネイトは右手だけで印を組みながら、手を突き出す。すると灼熱轟々と燃え滾る炎の球が放たれ、それが地面に着弾するとまばゆい閃光を伴った大爆発を起こし、迫っていたDGの兵士や機械兵たちを瞬時に吹き飛ばしたのであった。
 そうして周囲を確認したのち、足元から魔力を放出しつつ空高く飛翔して、ウルグサスの背中にニャルゴと飛び乗った。黒き嵐ことニャルゴはその身を竜巻のごとく風をまとい突撃することもできれば、優雅勝つ丁寧な身のこなしで人を乗せて走ることもできる。こういった場面でニャルゴの速さと正確性が役に立つ。ハーネイトはニャルゴを最も信頼のおける使い魔としてみていた。だったら最初からこのニャルゴで各地を駆け回ればよかったのではないかと思う人もいるだろうが、ニャルゴの特性を熟知していた彼は移動において今回は使わないようにしようと考えていたからである。

「もう終わったのか。早いな」
「ああ。さあ、ようやく見つけた。ハイディーン」

 ハーネイトは、追われていた男の正体をすでに龍の背中の上から見て見抜いていた。彼の目の前にいる白衣を着た男こそ、デモライズカードを開発した張本人であった。彼は研究所の中である情報を手に入れ、それをどうしても伝えたくて盗んできた際に、追手のDG兵たちに見つかったという。そしてハイディーンはうつむきながらも、彼に恨み言を言った。地獄で何かを見てきたような表情、そして視線がハーネイトの体にひどく突き刺さる。

「お前は、いつも俺を見てくれなかったな」
「それは……」

 かつて機士国に在籍していた際、ハーネイトは多くの科学者に支援を行ってきた。しかしハイディーンらにはあまり支援を行ってこなかったのであった。それは研究の内容が非人道的であり、一歩間違えれば人類の危機を招くものであったからであった。人を変身させ異世界からの脅威に立ち向かう力を与える。けれどその力を制御できなければ暴走し、どれだけの被害が出るのだろうか、そう考えたハーネイトは彼の研究にはどうしても協力できなかったのであった。

「俺だってな、お前みたいに星に迫る侵略者に対して戦いたかったさ。だが俺らはその力がない。だからああして研究をしていたわけだ。あんな化け物と戦えるのはお前ぐらいだよ」

 ハイディーンは幼い時に侵略魔に両親を殺され、その後親戚のうちに引き取られた。その中で彼は両親を殺した存在を憎み続け、どうすれば勝てるのかをずっと考えていた。そして見つけたのが、一時的に同じようなものになり対抗すればという考えに行きついていた。そしてハイディーンはもっと別の目的もあったと告げる。

 「俺はお前さんが、人を斬れないのを前から知っていた。だからこそ、少しでも悪い奴らを気にせず倒せるように、相手の醜悪さに応じて張り付けた対象を醜い化け物に変えればスパッとやってくれるんじゃないかってな」

 ハイディーンはわずかな付き合いの中で、ハーネイトが甘い点を見抜き、彼なりにハーネイトの悩みをどうにかしようと得意分野で支援しようとしていた。しかしハーネイトはその本質までを理解できず、その研究を恐れていたのであった。そして自身の甘さがつくづくいやになり、彼はハイディーンに謝ったのであった。

「……俺の、せいで。甘さが招いたのか。……済まなかったハイディーン。余計な手間と気遣いをかけさせてしまった」
「……その言葉が聞けただけでも、いいさ。それと、DGの話はいろいろ聞いていると思うだろうが、霊界人と戦争屋は別々の派閥にあれど、どちらも凶悪だ。そこで俺は戦争屋の方の派閥の人間、つまり徴収官側に罠を仕掛けた。おそらく彼らはそれを使うだろうが、使ってきたなら、確実に殺せ。DGの悪行の数々は知っているだろ?」
「……分かった。元に戻せないデモライズカードの件はボノフという徴収官を倒した時に見ている。現に倒してきた」
「なら話は早いな。あんたが昔から優しいのは知っている。多くの悪人を改心させてきたこともだ。だが、今回だけは鬼になってくれ。全員が貴様のよき理解者になるわけではない」

 ハイディーンはハーネイトのもとにつく代わりに、条件を提示してきた。確実に奴らの息の根を止めること。それであった。彼自身もそうして戦争屋の集団を罠にはめた。あとはハーネイトに託したい。そう彼は考えていたのであった。そして時に非情に徹しろとハーネイトを諭したのであった。そうしなければ守れないものもある。彼の危うさをハイディーンは指摘した。
 ボルナレロたちと同期であるハイディーンは、彼ら以上にハーネイトのことをよく見ていた。確かにやさしく、柔らかい態度は多くの人を魅了し、その一方で勇ましく戦うその姿は鬼神そのものである。しかしその二面性が危うい、そう考えていたが故に、今ここで気を付けてほしい。そう願い彼は伝えた。口はやや悪くぶっきらぼうなこの男だが、内心彼のことを誰よりも心配していたのであった。

「鬼か……。そうだな。まだ、俺は覚悟が足りなかったようだな。ハイディーン、ありがとう。さあ、今からこの足で敵拠点を制圧しに行くから、一旦ある空間の中にいてほしい」
「あ、ああ。あの空間か。わかった、あとのことは、託そう。それとハーネイト、魔女は壮大な罠を張り、待ち構えている。くれぐれも用心してくれ。それが伝えたかったことだ」

 そうして、ハーネイトは彼の頭に手をかざし、異界空間に彼を転送した。

「これで心残りはなくなった。ウルグサス、星を守るためには、非情に徹したときもやはり必要ですか?」
「そう、だな。それで守れるのならば、そうした方がよい時もある」
「そう、ですか。……やりあわなければいけないか。魔女の罠か、想定はある程度していたが……って、そうなると伯爵たちが危ない!急いでくれ」

 ハーネイトはハイディーンの言葉から嫌な予感を感じ、ウルグサスにそういい策をかんがえながら目的地である敵の本拠地へ向かっていた。そのころ敵の本拠地ではそれぞれ制圧していた部隊が合流しつつあった。

「しかし、エヴィラをどうにか確保したが敵の抵抗がぬるすぎる。まるで中に入って来いと言わんばかりではないか」
「そうですな。幾らハーネイト殿が戦力の補給ラインをぶち壊しても、ここまで兵力が少ないとは拍子抜け、ですな!」
「だからこそ気を付けないと。ハーネイトがよこした手紙の中には魔法協会が壊滅したとの報告があったわ。それと関係、あるのかしら。だとしたら、これは……」

 一番塔を制圧し、サルモネラ伯爵は先に塔にたどり着いていた怪盗たちやルズイークたちと合流した。しかし、南雲と風魔は例の忍と対峙したままその場から動いておらず、その様子を全員で見ていたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス
ファンタジー
悪役貴族であるルイス・ヴァレンタイン。彼にはある目的がある。 それは、永遠の眠りにつくこと。 ルイスはこれまで何度も死に戻りをしていた。 死因は様々だが、一つだけ変わらないことがあるとすれば、死ねば決まった年齢に戻るということ。 何度も生きては死んでを繰り返したルイスは、いつしか生きるのではなく死ぬことを目的として生きるようになった。 そして、一つ前の人生で、彼は何となくした自殺。 期待はしていなかったが、案の定ルイスはいつものように死に戻りをする。 「自殺もだめか。ならいつもみたいに好きなことやって死のう」 いつものように好きなことだけをやって死ぬことに決めたルイスだったが、何故か新たな人生はこれまでと違った。 婚約者を含めたルイスにとっての死神たちが、何故か彼のことを構ってくる。 「なんかおかしくね?」 これは、自殺したことでこれまでのストーリーから外れ、ルイスのことを気にかけてくる人たちと、永遠の死を手に入れるために生きる少年の物語。 ☆第16回ファンタジー小説大賞に応募しました!応援していただけると嬉しいです!! カクヨムにて、270万PV達成!

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。 世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。 意味がわからなかったが悲観はしなかった。 花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。 そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。 奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。 麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。 周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。 それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。 お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。 全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。

転生魔王NOT悪役令嬢

豆狸
ファンタジー
魔王じゃなくて悪役令嬢に転生してたら、美味しいものが食べられたのになー。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

ドナロッテの賛歌〜女騎士の成り上がり〜

ぷりりん
ファンタジー
結婚を諦めたドナロッテは、必死な思いで帝国初の女騎士になった。 警衛で城の巡回中に怪しい逢瀬の現場を目撃し、思わず首を突っ込んでしまったが、相手はなんと、隣国の主権を牛耳る『コシモ・ド・マルディチル』とその元婚約者であった! 単なる色恋沙汰から急転して、浮かび上がってくる帝国の真相と陰謀。真実を調べるべく、騎士の勲章を手放し、ドナロッテはコシモと南下することに同意した。道中、冷酷公爵と噂のコシモの意外な一面を知り、二人の絆が深まってゆくーー ※再構築再アップ

処理中です...