上 下
105 / 204

Code103 脱走合成獣討伐作戦・後編

しおりを挟む


「だ、誰だ」
「なぜ気づかなかったのかしら。え、ちょっと、待って!」
「ん、その声はまさか……」

 男とエレクトリールが顔を合わせた時、二人の間にすさまじい衝撃が走った。

「お、お父さん!?」
「エレクトリール!」
「え、ええ?状況が呑み込めないんだけど。確かエレクトリールは親に勘当されたと聞いたけど、なぜ?」

 二人は突然の再会に体が硬直していた。そしてそれ以上に、リシェルの表情も凍り付いたように固まっていた。
 そしてエレクトリールはトレーラーの屋上にいた男の顔をまじまじと見つめていた。10年ほど前、突然姿を消した父親の顔を思い出しながら彼女は、恐れを抱くかのように彼から目を背けていた。

「どういうことだこれは」
「父さんこそ一体ここで何やっているの!」
「宇宙戦艦が白い男とDGの戦いに巻き込まれて、修理のためにこの星に来たのだ」
「宇宙戦艦、ってどういうことですか!?」

 リシェルは二人の話の展開についていけず呆然としていた。まずなぜこの男が誰にも気づかれずにこのベイリックスの屋根の上にいたのか、そして同僚であるエレクトリールとの関係があることに頭を悩ませていた。

「ああ、娘よ。儂もあの事件の後DGを討伐するために独自の軍団を作っての、敵の宇宙船を沈めていたのだよ。宇宙快賊としてなヌハハハハ!そしてのう、お前を、叱りに来た」

 男はそう言い、笑いつつも魔獣たちの群れを見ていた。

「そうなるとは、薄々覚悟していました。しかし母さんも心配していましたよ。本当に父さんはいつもやることが破天荒なのですから」
「それはエレクトリールもだろう」
「はあ、もう。なんでこんなところが似ちゃうのでしょうか。いえ、その前にあの魔獣たちを倒しましょう。お叱りは、それから受けます」

 リシェルの言葉にエレクトリールは少しだけむくれつつ、エレクトリールはイマージュトリガーを用いて巨大なレールガンを召喚する。

「吹き飛びなさい!」

 そう彼女が叫び、レールガンに瞬時に帯電させそのまま弾丸を猛スピードで発射した。その弾丸は魔獣のそばをかすめ、その衝撃で肉体が消し飛び絶命をもたらした。

「エレクトリールはマジで強いな!俺も負けてられねえ!」

 今度はリシェルがアルティメッターを構え、右から左へ魔力を圧縮した魔閃(ディスティロ)を魔獣の群れに対し薙ぎ払うように斉射する。その一撃は大地を破壊し魔獣の集団を一気に減らすことに成功した。

「相変わらずすさまじい破壊力ですね。しかしなぜ同じ技なのに呼び方が違うのですか?」

 エレクトリールの質問に対しリシェルは彼女の方を向いて笑いながらこう言った。

「魔銃士の誇り、ってやつさ」
「誇り、ですか」
「お前さん、面白い技使うな」
「リシェルです。エレクトリールのお父さん」
「リシェルか、まあよい。さあ、わしも仕掛けるとするかね」

 横から魔閃について興味津々な表情をする男に対しリシェルは名乗りながら再度魔閃を冷静に発射した。それは的確に確実に、合成獣の命を奪っていく。彼の狙撃術はあらゆるところでも精度が落ちず、合成獣の進軍による地面の振動も、乗車している車の振動さえも全く影響なく攻撃を続けていた。

「あらら、もうほとんどが消滅したわね。仕事ないかしら」
「監視は必要ですよ姉さん」
「そうねえ、まだ少し加勢は必要みたいね。帯電の柱 必罰の雷。豪に聞け音を見て悟るが良い、不可避の紫電が命を貫く!大魔法が61の号「神速紫電」」
「私も行きます、魔王は笑う そして遊ぶ。天地を返し、震わせ壊す。魔の戯れに舌を噛み自害するがいい!大魔法が14の号「魔皇天地陣」」

 城での戦闘に引き続き、魔女の姉妹二人が連携して魔法を上空から発動する。魔法詠唱の隙を飛行できる召喚獣によりカバーするこの戦術は実に有効で、それぞれが発動した魔法が魔獣の群れを蹴散らし命を奪っていく。
 ミカエルの放つ神速紫電は手のひらから無数の、紫色の電撃を放出し続ける技である。そしてルシエルの魔皇天地陣は一転範囲内にいる目標を天に飛ばしては天井の魔法陣にぶつけは跳ね返し続け物理的に命を奪う魔法であった。

「俺たちのこと忘れんな!醸せ、サルモネラブレイザー!」
「冥府の門 死者の世界。生は死を乗り越えることなく数多の霊が命を吸い尽くす!大魔法が2の号「無冥生殺陣」」

 ミカエルとルシエルの攻撃に合わせて、合流した伯爵。そしてリリーも連携攻撃を敢行し端の方にいる魔獣たちをまとめて撃殺していく。伯爵の放つサルモネラブレイザーは直線状にいた魔獣たちの肉体を腐敗させながらその生命力を吸収していく。リリーは伯爵が捉え逃した魔獣たちに死の魔方陣による凶悪な罠をプレゼントした。一方で地上の方でも各員が大暴れしていた。

「蹴散らせ、イジェネート忍法・黒塊! 」
「白道白銀剣(びゃくどうはくぎんけん) 」

 敵陣をかく乱するかのように南雲と風魔が連携し、イジェネート能力で確実に魔獣たちの命を奪っていく。南雲はかく乱するように動きつつ手から黒い球を打ち出し、触れた合成獣を内側から串刺しにする。そして風魔は腕を構え、手のひらから非常に細く長い銀色の剣を射出、そして薙ぎ払い連続で突きまくり蹂躙した。
 特に風魔の白銀剣は破格であり、その伸縮速度は光ともいえ、長さも限界まで細くした針のような状態であれば30kmまで理論上は伸ばせるという恐るべきものであった。しかもモーションなしで打てるので、ハーネイトも彼女の白銀剣は相手にする際苦手としていた。

「相変わらず皆さん派手に戦いますねえ」
「俺らはトレーラーの護衛だ」
「私も出るか。ミレイシア、シャムロック。守りは任せた」
「仕方のないお方ですなあ、気を付けるのですぞ!」
「では、参る」

 そうして車外にミロクが勢いよく飛び出す。その姿は残像ですらなく、魔獣の群れに飛び込むないなや、次の瞬間切り抜けた魔獣たちの体が無数に引き裂かれて爆散する。無影のミロクと言う異名はこの常人では目で捉えることなど遥か敵わないほどのスピードと的確に敵の弱点を切り裂く技術にあった。その一連の動作で残存する魔獣の群れの3分の1が消滅した。

「本当に、あれは人間か?」
「分からぬなあ、しかし研究し甲斐はありそうだ」

 ボルナレロとホミルドは車内からミロクやミカエルたちの戦闘を見ていた。

「うわあ、もうほとんどいないし。と言うかボガーノードの技変わっているな。私も、最後の一仕事行きますか」
「ならば、わしもやろうかねフハハハ!」
「だ、誰だあの人は。まあいい、残りはあれだけだな。……創金術発動、イメージするは、壮大なる剣の舞台!……剣庭(ブレイドガーデン)」
「野郎ども!あの地点に一撃ぶっ放せ!」

 ハーネイトは手を天に突き出し、振り下ろしながら詠唱する。すると爆走する魔獣たちの足元から突然鋭い剣がいくつも出現し、無慈悲に肉体を貫く。その光景はまるで串刺し公を地でいったのかのようであった。剣陣よりも範囲が広いこの剣庭(ブレイドガーデン)は、こういう時にこそ真価を発揮する。そしてトレーラーの屋上にいる男は何やら命令を出す。すると上空から巨大な戦艦の艦首が紫色の時歪門から現れ、巨大な主砲数門を右の奥側にいる魔獣たちにむける。そして強烈な閃光を放ちながらエネルギーイオンレーザー砲をぶっぱなし、まばゆい光の帯は鮮やかに空をかき切り地形ごと直撃した個所を崩壊させた。

「ここに集うは、人外ばかりか」
「それはあなたもでしょう、シャムロック」
「ああ、そうだったな。しかしそうでもしないとあの大軍を止めるのは難しい。それをまとめ上げる主殿にはまことに感服する」
「まあ、その点については流石と言っておきましょうか。どうも戦闘が終わったようです。問題は、いきなり上空に現れたあれですね」

 シャムロックとミレイシアは戦闘の光景を見た感想をそれぞれ述べて、車内に先に入っていった。

「あーあ、もう終わりか。もう少しやれるかと思ったが」
「そうですねえ、気が合いますね」
「さて、ホテルに戻ったら彼らに話をしないといけないな」
「そうですね、父さん。しっかり話を聞かせてもらいますからね」

 リシェルはそういうとその場にあおむけになり、エレクトリールとその父と言う男は魔獣たちの命が散った大地をしばらく見ていた。

「あの男、エレクトリールと似たような力を使えるみたいだな。俺のと変わらない感じだった。後で話を聞こう。敵ではなさそうだ。みんな戻るぞ!」
「あ、ああ!」
「って俺もまたその直し方かよ!」
「せめて私くらい外においてよぐすん。幼馴染にそんな扱いしていいのかしら?」
「私は悲しい。もう少し待遇の改善を……」

 ハーネイトの術で4人は召喚ペンに吸い込まれ、ハーネイトたちもシャムロックと合流した。

「せめてベイリックスがもう少し広ければね……すまない」
「トラブルはあったが、どうにかなったな」
「やれやれだぜ。まあ結果オーライだ」
「これで、必要な研究者に機材、データ、そして生の情報を手に入れた。これからが本番だ」

 ハーネイトは全員をトレーラーの部屋内に集め、作戦はこれから本格的になると説明しながらソファーに力なくもたれかかった。

「では、ミスティルトに戻りますぞ」
「早く寝たいわね」
「ああ。着いたらしばらく寝よう」

 そうして一行はミスティルトに戻るのであった。二人の研究者に加え、敵上級幹部のボガーノード、執行官予備役であり、魔法使いの影響を強く受けていたヴァンという男。そして支援砲撃を行った、エレクトリールが父と言う謎の男について話をするためである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう
ファンタジー
大陸最大の王国である『ファーレン王国』 そこに住む少年ライトは、幼馴染のリリカとセエレと共に、元騎士であるライトの父に剣の稽古を付けてもらっていた。 ライトとリリカはお互いを意識し婚約の約束をする。セエレはライトの愛妾になると宣言。 愛妾を持つには騎士にならなくてはいけないため、ライトは死に物狂いで騎士に生るべく奮闘する。 そして16歳になり、誰もが持つ《ギフト》と呼ばれる特殊能力を授かるため、3人は王国の大聖堂へ向かい、リリカは《鬼太刀》、セエレは《雷切》という『五大祝福剣』の1つを授かる。 一方、ライトが授かったのは『???』という意味不明な力。 首を捻るライトをよそに、1人の男と2人の少女が現れる。 「君たちが、オレの運命の女の子たちか」 現れたのは異世界より来た『勇者レイジ』と『勇者リン』 彼らは魔王を倒すために『五大祝福剣』のギフトを持つ少女たちを集めていた。    全てはこの世界に復活した『魔刃王』を倒すため。 5つの刃と勇者の力で『魔刃王』を倒すために、リリカたちは勇者と共に旅のに出る。 それから1年後。リリカたちは帰って来た、勇者レイジの妻として。 2人のために騎士になったライトはあっさり捨てられる。 それどころか、勇者レイジの力と権力によって身も心もボロボロにされて追放される。 ライトはあてもなく彷徨い、涙を流し、決意する。 悲しみを越えた先にあったモノは、怒りだった。 「あいつら全員……ぶっ潰す!!」

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

本条蒼依
ファンタジー
主人公 山道賢治(やまみちけんじ)の通う学校で虐めが横行 そのいじめを止めようと口を出した瞬間反対に殴られ、後頭部を打ち 死亡。そして地球の女神に呼ばれもう一つの地球(ガイアース)剣と魔法の世界 異世界転移し異世界で自由に楽しく生きる物語。 ゆっくり楽しんで書いていけるといいなあとおもっています。 更新はとりあえず毎日PM8時で月曜日に時々休暇とさせてもおうと思っています。 星マークがついている話はエッチな話になっているので苦手な方は注意してくださいね。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。 神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。 どうやら、食料事情がよくないらしい。 俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと! そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。 これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。 しかし、それが意味するところは……。

処理中です...