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31: お出かけする二人の少年の話 3
しおりを挟む「それにしても、ツァイトさぁ、ホントよく外出の許可が下りたよなぁ……。おれ、てっきりだめだって言われると思ってた」
「はは、なにそれ」
あともう少しで城門へと到着するというところで、ノイギーアがぽつりと洩らした。
隣を歩いていたツァイトは、声をだして笑う。
ノイギーアとツァイトの外出は、以前から行きたいなという話だけはしていたが、いつ行くなどといった具体的な計画はたてていなかった。
しかし、明日の昼まで休みになったとツァイトに告げると、どういう話の流れか、これから城下町へお出かけしようとなった。
そしてそれをツァイトが魔王に伝えに行くと、なぜかツァイトの外出許可が下りてしまった。
てっきりツァイトの身辺警護の関係で魔王に却下されるかと思っていたのに。
驚きである。
天気は良好。
暑くもなく、寒くもなく、時折頬を撫でる風が心地よい。
絶好のお出かけ日和だった。
「レスターそんなに意地悪じゃないよ?」
「けどさ、魔王様、すっげー過保護そうじゃん。あんまり想像できないけど、お前を甘やかしまくってるのはさ、この前調理場でケーキ作ってんの見て何となくわかったし。おれなんかと行くのは危ないとか何とか言って、絶対反対されると思ってたんだけど」
「たしかにちょっと急だったかもしれないけど、別にレスター反対しなかったよ」
すこし考えてはいたが、すぐにいいよと言ってくれた。
魔界では、血も涙もない、情の欠片も持ち合わせない冷酷な魔王と恐れられているレステラーだが、彼は、ツァイトにだけはひどく寛大で、寛容で、甘かった。
今回の突然の城下町へ出かけたいというツァイトの要求も、反対されることなくすんなりと許可をもらえた。
注意されたのは、常にフードをかぶること。
人間界ではツァイトの色は平凡でも、ここ魔界ではひどく目立つからだ。
そして、人間界とは違い、人間にとっては魔界は大変危険だということ。
ずっと神経を張り詰めている必要はないが、そのことを忘れずに頭にいれておけとレステラーはツァイトに言った。
最後には、何かあれば助けにいくから心配するな、とも。
「まあ、でも人間界とは違うからノイくんから離れちゃダメだとも言われたけどね」
「いや、まあ、おまえを一人にするわけにはいかないから、そうなんだろうけども……期待に押しつぶされそう」
「なんかオレ、すぐはぐれちゃうんだよねー。よそ見するからかな?」
ツァイトはあっけらかんと言ってのけた。
人間界でも人ごみに出ると、何度もレステラーとはぐれた経験がある。
だからよくレステラーはツァイトと手をつなごうとする。
子ども扱いするなと、いつも怒って断っているのはツァイトの方だ。
そんなツァイトだが、一応自覚はしている。
人間界にいる間は、すぐにレステラーがツァイトを見つけてくれるので、これといって危機的状況には陥ってこなかったが、ここは魔界。
なにがあるか分からない。
まるで一種の特技か何かのように自慢げに話すツァイトに、ノイギーアは口を開けてぽかんとツァイトを見た。
だがその内容を理解するととたんに焦りだした。
「いやいやいや! それはヤバイだろ。っていうか、聞いてねーよ」
「うん、だって今いったし」
「ツァイト、おまえ絶対に余所見なんかするなよ。おれに黙って急にどこか行くなよ。立ち止まるなら絶対一声かけろよな!」
いいか、わかったなと隣を歩くツァイトに何度も念を押す。
万が一ノイギーアがツァイトとはぐれてしまい、ツァイトが心ない魔族に襲われ怪我でもしたら、一緒にいたノイギーアの明日はどう考えても無い。
ありえそうな状況を想像して、ノイギーアの背筋にぶるりと寒いものが走った。
ノイギーアの必死の迫力に押されて、ツァイトは何回も首を縦に振って頷いた。
いま二人は仲良く並んで会話をしながら、城下町へと向かって、城の敷地内を歩いていた。
いつもの料理人の制服ではなく私服に着替えた魔族の少年ノイギーアと、フードをかぶり亜麻色の髪を隠した人間の少年ツァイト。
見た目が同じくらいの少年二人は、最近仲が良くなって一緒にいるが、二人だけで城以外の場所に行くのは今日が初めてだ。
今から行こうとしている城下町は、意外にすぐ近くにある。
城門をぬければすぐだ。
もちろん中央の大地で一番の規模の町だ。
ただ魔王が住む中央の城が桁違いに広く、城と城下町とを隔てている門が城の建物がある部分からものすごく遠いので、二人はまだ城の敷地内から出られていなかった。
城下町へと出るために城門へと向かって歩いていると、途中、城へと向かう豪華な馬車――というにはツァイトの知る馬とは少し違う動物に引かれた乗り物が、大きな音を立ててひっきりなしに通るのを目撃した。
見た目は普通の馬なのに、蹄の周辺が青白い炎で包まれている馬がいる。
額に角を生やしている馬もいた。
「ねえ、ノイくん……あれは?」
「あー、あれはお貴族様の馬車だな」
「え、馬車でくるの?」
「そう、そう。だってここ、空間移動が使えないからなぁ」
「あ、なるほど」
魔族は空間移動ができるので、移動は全てそれで行われるように思われがちだが、実際は違う。
普段はそれで良くても、魔王が住まう城ともなると、幾重にも強固な結界が張り巡らされているので、空間移動が阻まれる。
この城で空間移動できるのは魔王であるレステラーだけだ。
「まあ、でも、おれたちでも基本歩きだぞ? 辻馬車ならともかく、家紋入りの馬車を持ってるのはお貴族様だ」
「へー。そこは人間界でも同じだね」
「それに、おれたち庶民が空間移動ばっかり使ってたら、すぐ魔力がなくなる」
「そうなの?」
「移動距離が遠くなればなるほど、魔力をごっそり持ってかれるんだ。魔王様ともなれば、そんなの関係ないんだろうけどな」
体力、気力、魔力、どれも無限ではないから、魔族といえど空間移動ができなくなる時もある。
そのため、徒歩以外の他の移動手段も人間界とたいして変わらず発達していた。
横目でそれを見ながら、ノイギーアがいつも使用している、城内で従事する者専用の出入り口を通って二人は城の外に出た。
ふわりと風が頬を掠めた。
「うわぁ……」
扉をくぐって外に一歩でた途端、ツァイトが感嘆の声をあげた。
城門で隔てた内と外では、その様子ががらりと違っていた。
今までいた城門の内側とは違い、外は活気に満ちあふれていた。
城門からまっすぐのびる大きな道の両側には、たくさんの店が立ち並び、大勢の人――ここでは魔族が行き交っている。
左右にも道がのびていて、人通りは多い。
その光景は人間界のものとそう変わりはなかった。
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