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05: 誘拐される少年の話 4
しおりを挟むそれから少年と魔王は、魔王の空間転移で中央の城に戻ってきた。
少年を浚い無体を働こうとした破落戸どもは、去り際に、少年に気づかれないようにこっそりと、えぐり取るように洞窟のある森ごと、全員もれなく魔界から消してやった。
断りもなく勝手に領地の一部を消したことで、きっと東の魔王があとで文句をいいに来るだろうが、そんな事は些細な問題でしかなかった。
それよりも重要なのは少年の方だ。
少年に与えられてる部屋のテラスに降り立っても、少年は魔王の首にしがみついたまま弱弱しく震えていた。
「レステラー様!」
「ツァイト様!」
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「ああ、ツァイト様。ご無事でよかった……」
目立った外傷などなさそうな少年の姿に、心の底から安堵したような声で少年の無事を喜び、女官はその場に膝をつくように崩れ落ちる。
震える手を口元にあてぎゅっと握りしめて涙を流すこの女官は、あの時少年の傍にいた女官だ。
自身も襲われ薬で昏倒させられて未だ本調子ではないはずなのに、少年の無事を確かめるまではと、沙汰があるまで養生しなさいという女官長の言葉に逆らってこの場にいた。
彼女の気持ちが痛いほどよくわかる女官長は、最終的には許可をだした。
「ミアさん……」
魔王の首に腕を回し、肩口に顔をうめたままだった少年は、無事を喜ぶ女官の声に少しだけ視線を向けると、小さな声で女官の名前を呼んだ。
「ああ、なんとお労しい……」
怪我はなさそうだが、服が破れ、いかにも襲われましたと言わんばかりの少年の姿に女官はショックを受ける。
「ミアさんは大丈夫……?」
「……っ、は、い……」
「ケガ、してない?」
「は、はい……傍に、いながら……お守りできず……申し訳ございません」
「ミアさんが無事でよかった。巻き込んでごめんね」
嗚咽をこらえながら、ミアと呼ばれた女官は少年に謝罪する。
だが、少年はミアを咎めもせず、ミアの無事を喜び、そして謝った。
自身の方がひどい目にあっただろうに、こちらを気にかけてくれる優しい少年に、ミアはこの後も女官として傍にいられるなら、今まで以上に誠心誠意お仕えしようと心の底から思った。
「すぐにお着替えをご用意いたします。医師も呼んで参りましょう」
「いや、医師は必要ない。俺が治す」
「かしこまりました」
「着替えを用意したら、呼ぶまで下がっていろ」
「はい、かしこまりました。では、外で控えておりますので、いつでもお呼びください」
女官長のその言葉を聞いて、魔王は少年を腕に抱えたまま歩き出す。
向かう先は浴室だ。
魔王の私室があるこの区画には、時間を気にせずいつでも入れるように湯水が絶え間なく注ぎ続けているかけ流しの浴室がある。
魔王が少年のもとに行ったとき、少年は地面に押さえつけられていた。
何をするにも、まずは汚れを落としてキレイにしてからだ。
「ツァイト、ちょっとだけ離れろ」
首に抱き着いたままの少年に声をかけるが、少年はイヤイヤと無言で首を振った。
よほど怖かったのだろう。
離れたくないとばかりに、少年がぎゅっと抱き着いてきた。
可愛い仕草に魔王の口元に笑みが浮かぶ。
安心させるように腕にすこし力を込めて抱きしめ、少年の頭頂に口づけを落とす。
「どこにもいかねぇよ。アンタの服を脱がせるだけだ。湯浴みしようぜ」
「お風呂?」
「俺が頭と身体洗ってやるよ。一緒に入ろうぜ」
少年を一人にするわけじゃないと分かり安心したのか、首に巻きついたままの少年の腕が緩む。
魔王の肩口にうめたままの顔もあげ、ほんの少しだけ少年の身体が魔王から離れた。
「ようやくアンタのかわいい顔が見えた」
「んっ」
少年に顔を近づけ、その目もとに軽く唇で触れる。
くすぐったそうに少年が小さく声をだした。
「一緒にはいるの?」
「ああ。アンタの髪の毛、砂と土で汚れてる。あと、水でもぶっかけられた? ちょっと湿ってる」
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「なに、俺の服、アンタが脱がしてくれんの?」
「……いっしょに入るんでしょ?」
「ああ、そうだな」
魔王の服の釦に手をかけ、珍しく少年の方から積極的に動いてくれる。
頬をうっすらと紅くしている少年の唇に、魔王は自身の唇を寄せた。
「うっ、んっ……」
少年の唇を痛くない程度に軽く噛むと、ほんの少しだけ少年の口が開く。
舌を差し込み、咥内を舐めて可愛がってやれば、少年の身体がびくりとふるえた。
少年の反応に満足したのか、すぐに魔王は唇を離した。
「続きは湯浴みのあとでな」
「……ば、かぁ」
二人の唾液で濡れた唇を手の甲で拭いながら、少年は余裕の表情を見せる魔王を軽くにらんだ。
魔王手ずから全身をくまなくキレイに洗われた少年は、快感を煽るような口づけをするわりに何もしてこない魔王に内心で首を傾げていた。
前に浴室でことに及んだ事もあるし、てっきりするのかと思っていた。
だが今は二人で湯舟に浸かり、魔王の膝の上に横向きに座らされているだけだ。
泳げるほど広いのに、二人でくっついている。
「レスター」
「ん?」
「オレの身体、大きくしないの?」
恐る恐る聞いてくる少年の頭を撫でて、そのこめかみに魔王は口づける。
「前にアンタ、湯あたり起こしただろ」
「あ、うん……」
「だから、今日は普通にベッドで。もうちょっとアンタの体力がついたら、またここでやろうぜ」
「っ!」
ぶわっと目に見えてわかるくらい少年の顔が真っ赤になる。
一瞬湯あたりでもおこしたのかと錯覚しそうなほどの顔の紅さだ。
かわいいなぁと、少年の反応をみて、魔王は穏やかな笑みを浮かべた。
「っと、その前に……手、出して」
顔を真っ赤に染めながら、少年は魔王のいう通りに両手を差し出す。
湯水から掬いあげるように魔王が少年の両手を持つ。
少年の白い手首に、縄の痕がくっきりと残っている。
抵抗したときにでも擦れたのか、一部は擦り切れ、内出血のように少しだけ色が変色していた。
「痕になってるなぁ。痛いか?」
「ううん。痛くはないよ」
「そうか」
魔王の両方の親指が少年の手首に残る縛られた痕をなぞる。
すると元からなにも無かったかのようにキレイに痕が消えうせた。
「すごい……」
他の小さな傷や、本人にも自覚のない打ち身などは、魔王が手ずから少年の身体を洗った時にキレイに治しておいた。
手首だけは少年も痕が残っている自覚があるし、治ったと分からせるために目の前で痕を消したのだ。
「ありがと、レスター」
そういって少年は魔王の首に抱き着いた。
魔王も少年を抱きしめ返し、その頬に軽く口づけた。
「そろそろ身体、あたたまった?」
「あ、うん」
「じゃあ、出るか」
少年を横向きのまま抱き上げ、立ち上がった魔王は、そのまま空間移動で寝室まで移動した。
途中、少年が気づかないうちに魔術で水気をとばし、いつのまにかタオルで拭いたあとのように二人の身体は乾いていた。
少年が知れば、また能力の無駄遣いだというだろう。
「わっ、ちょっ」
「続き、しようぜ」
ふわりとベッドに少年を寝かせ、その上にゆっくりと魔王が覆いかぶさった。
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