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後日談
しおりを挟む「はい、完治おめでとうございます。お顔の方も綺麗に治って本当に良かった」
「ありがとうございます」
私はどうやら教会の医院に居たらしい。
長らく彼としか一緒にいなかったから他人と会うのは少し怖い。
「ただ、右目の視力はもう元には戻らないですね、見えない訳では無いと思いますが、片目は隠した状態で生活した方が良いかも知れません」
「それは、何故でしょうか?」
「片目の視力が悪い状態で両目で生活していると頭痛が起きてしまうんですよ、遠近感にも問題がありますし、隠した方が安全です」
なるほど、確かにその通りだ。
距離感が全く掴めない。まあ一人で歩けるような体ではないから大した問題でもないけれど。
でも両目が見えなくなったら彼と会話が出来なくなるし、何か手を考えておかないと。
「ところで、貴方のお母様のお話なのですが」
心臓が大きく跳ねたような気がした。
「私には、母の考えが理解出来ません。だからどうして私たちをこの教会に頼んだのか、それも……」
全て、彼から聞いた。
お母様は私を助けてくれたのだと。
わざわざ私たちを受け入れてくれる場所を用意し、隠し通路の先で目の前のこのお医者様を遣わしてくれたらしい。
そんなお母様の考えが私には全く理解できなかった。
「いえ、私がお話したいのはそんな事では無いのです」
「えっと、では何のお話なので?」
「貴方のお母様の過去についてです。口止めはされているのですけれど、私は貴女に知っておいて欲しいのです」
「口止めされているのに、ですか?」
「はい」
理由は、と尋ねようとして、私はやめた。
きっと聞いた方が早いからだ。
「ねぇ、一緒に聞いてくれるかい?」
彼は懐からスッと紙を取り出した。
『もちろんですよ』
とても用意がいい事で。
「分かりました、お聞きしましょう。もちろん彼も一緒に」
分かりました、と言って、お医者様は話を始めた。
*
まず、貴女はお母様のお名前をご存知ですか?
そうですか、いえ、貴女の境遇は知っていますから、知らなくても無理はありません。
貴女のお母様の名はシャルルと言いまして、ご存知の通り名家の生まれでした。
数え歳で享年45歳、貴女を産んだ当時は25歳です。
子を成すのも、結婚をするのも遅い人だったのに、亡くなるのは早い人でしたね……。
そもそもシャルルと私がどういう関係だったのかという話ではあるんですけど、私とシャルルはいわゆる幼馴染というやつでして、5歳からの腐れ縁で、私の1番の親友です。
さて、名家と言いましても様々ですが、シャルルの家は特別に古く、また正統な血統で、時代が時代なら一国の王家になるかも知れなかった血統でした。
えっ? 私ですか? 私は普通のお家でしたよ。
代々医療の最先端を走る優秀な家系です。
自分で優秀というと何だか恥ずかしいですけど。
まあ、私のお家はシャルルのお家専属の医師だったので、私がシャルルの代の当主という事になりますね。
別に偉くもなんとも無いのであまりかしこまらないで下さいね。お体にも触りますから。
産まれたての貴女をとりあげたのも私でした。
誰にも言えませんでしたけど、実は私は貴女が産まれた時からアルビノの子だと分かっていたんですよ。
アルビノが何か、ですか? そうですね、簡単に説明すると遺伝子疾患のある生き物の総称ですね。
生き物にはある程度決まった遺伝子の情報が体の中に存在します、それがどういう訳か親の遺伝子からは産まれようのない瞳、肌、髪の子が生まれることがあるんです。
もっと簡単に言うならアルビノとは病気なんですよ。
体に必要な遺伝子の情報が欠損する病気です。
白いカラスなどがいい例ですね。
そして、貴女もその病気でした。
誤魔化せるものでは無かったです。だから私はすぐに貴女を隔離しました。
病気だから、もしかしたら死んでしまうかもしれないと言って。
貴女のお父様は大層お怒りになりましたが、私は医者でしたのでなんとでもなりましたけど。
そうですね、隔離した理由は貴女には少しだけ説明したと聞かされていますが、改めてどうしてアルビノの子が災いの子と言われているのかについてお話しましょう。
少しだけ古いお話しになります。
先程、世が世なら一国の王家、と言う話をしましたよね?
その世が世ならの部分、何故シャルルのお家は王家になれなかったのか、というお話なのです。
それは凄惨なんて言葉じゃ言い表せない程の命が消えてしまったからなのです。
シャルルのお家はその時最も力を持った貴族だったのですが、この国は珍しく王というものを据えずに国を回す珍しい政治体制を取っていましてね。
力のある貴族たちが話し合い、方策を練り、国民に告げた後に国民から賛否を取るのです。
過半数の賛成で可決になると、割と分かりやすく荒れにくい方策の作り方でした。
そんな時の1番力を持った貴族、つまりシャルルのお家に1人の女性が訪れました。
その女性は旅の吟遊詩人と名乗ったそうです。
はい、そうですね。ちょうど貴女の髪と瞳に良く似た色だったと伝えられています。
そこからが、この国の地獄の始まりでした。
嶺麗しい旅の吟遊詩人、その手並みを見せて貰おうとシャルルのお家は沢山の貴族を集めたパーティにその女性を招いたのです。
彼女は詩を謳う前に独特の香りの香を焚きました。
珍しい物好きの貴族たちはそれを止めず、吟遊詩人は詩を謳い始める。
独特な色香を撒き散らし、薄幸の美女はつらつらと自分の生い立ちを、見てきたこの世の地獄を謡い、あっという間に貴族達の心を掴みました。
この時に焚いた香というのが非常に厄介な代物でして、興奮作用、幻覚症状、そして強い中毒性を持ったものだったのです。
今では断絶され、国に持ち込むだけで縛り首になるような代物ですよ。
全く、本当に迷惑な話です。
後の事は簡単に想像できると思いますが、国の貴族の殆どがその香にやられてしまって、香と謡の為に彼女に貢物ばかりをする始末。
いつしか貴族達だけではなく、国民にも流れ始め、人口の3分の1が死ぬまで流通は止まりませんでした。
その香を流していた本人は正気を保った貴族に首を切られたと聞きますが、その詳細は不明です。
そうやって大元を絶ったことで事件は幕を下ろすのです。
どうですか? 白髪で瞳の色が違う女性は災いを引き入れる、そんな言い伝えが出来た事にも納得が行く理由だと思いませんか?
何せ、万を超える死人が出たのですから。
えっ? それだと貴女を生かしておいた理由が分からない?
そうですね、当然の疑問ですよね。でもちゃんと理由があるのですよ。
本当はこれも秘密だったのですけどね。
では話を元に戻しましょうか、貴女を隔離出来た、それも人の目に触れないように出来たのはほんの一月ほどでした。
その間に、私とシャルルは話し合いをして一つの結論を出したのです。
先の言い伝えに一つ話を付け加えようと。
貴女がアルビノである事を知っていたのは当時は私とシャルルの二人だけ、他の名家にはもちろん貴女のお父様にすらバレていませんでした。
ですので、無知な貴女のお父様を騙して、貴女が産まれた事を此処で隠してしまおうと決めたのです。
貴女のお父様は婿に来た他国の貴族でしたからね。
特別臆病で品がなく、下衆や外道と言った言葉が何よりも似合う男でしたから手玉に取るのは簡単でした。
はい? 私が貴女のお父様が嫌いだったのか、ですか?
もちろん嫌いですよ、好きになれる要素が皆無でしたから。
ゴホン、話を戻しますよ。
まずは言い伝えを歪曲して伝え、この事が他の名家にバレれば没落するのは確実だと伝えたのです。
当然、貴女のお父様はそんな子供は殺してしまえと言いました。
しかし、殺してもどのみち災いは降り掛かるのだと、逆に殺してしまえば取り返しのつかない事になると、私たちはあの人を脅しました。
馬鹿なあの男はそれを信じ、どうすれば良いのかとシャルルに詰め寄りました。
「あの子の手足を切り落として、地下の部屋で生かし続けましょう。そうすれば誰にもバレずそして災いも訪れる事は無い、そう思いませんか?」
これしか無かった。そうは言いません。
他にやりようはあったかもしれませんけど、私たちの周囲はこの言い伝えを本気で信じる者ばかりでした。
貴女を死んだ事にして国から逃す、そんな案も出ましたが成功する見込みは殆ど無かったので私とシャルルは……。
はい、そうです、私が貴女の両手足を切りました。
シャルルと共にその罪を被ると誓いを立てています。
もし貴女が望むなら私も両手足を切り落とす覚悟はあります。
そう、ですか。貴女は優しい子に育ったのですね。
えっ? そうじゃない? 彼と一緒だから?
いきなり惚気られても困りますよ、胸焼けしそうです。
貴女が生きている理由は理解出来ましたか?
納得は出来ないかもしれませんけど、私は、いや、シャルルは貴女の事を……。
そう、ですよね。
それも分かっています。貴女の言っている事は正しいですよ、でも、貴女が今も生きているのは、シャルルが頑張ったからだと言うことだけは覚えておいて下さい。
そうじゃなきゃ、シャルルが、浮かばれませんから。
*
あの人、泣いてた。
泣きたいのはこっちの方だって言うのに。
今更、愛されていたんだなんて、そんな事を言われても困る。
一度も顔を見に来なかったくせに。
痛くて泣いていた時、優しくしてくれなかったくせに。
涙を堪えていると、優しく彼が頭を撫でてくれた。
「君は私のお母様の顔を見た事があるんだよね? どんな人なんだい?」
私の言葉に彼は少しだけ眉を寄せると、すごい速さで紙に書き込んで行く。
『お嬢様、もしかして貴女は凄い勘違いをしているかもしれません』
「えっ?」
『ボクと交代で貴女のお世話をしていた人が奥様、つまり貴女のお母様ですよ』
「うそ、だって、彼女はメイド長で自分の事はそう呼べって」
『ボクは交代の時のルールでボク以外の人間がお嬢様のお世話をしている時の内容を教えて貰えなかったんです。
残りの仕事は見れば分かりますし、そもそも途中で作業を中断されている事なんて一度も無かったので引き継ぎが必要なかったんです。
お嬢様が奥様の事をご存知でなかったと気づけず、申し訳ありません』
「そんな、でも、でも彼女は逃げるって、危ないからあの屋敷から離れてひっそりと暮らすって」
『お嬢様、少しだけ此処で待っていて下さい。すぐに戻ります』
「待って!」
私の制止も聞かずに、彼は走り去ってしまう。
突然の事に何がなんだか全く理解出来なかった。
メイド長が私のお母様?
じゃあ、なんでそれを教えてくれなかったんだろう?
混乱していると、彼は言った通りすぐに戻ってきた。
『ボクがあの屋敷を離れる時、三通の手紙を貰いました。
一通はお嬢様から、二通目は奥様から、三通目は奥様からお嬢様に向けてのものです。
お嬢様はメイド長なる人物にボクの事をお願いしたんですよね?
ですが、ボクが手紙を受け取ったのは紛れもなく奥様からです』
二通の手紙に目を通すと、筆跡でメイド長の書いた物だと分かった。
じゃあ本当に? あの鉄仮面の女のメイド長が私の、お母様?
お母様から私宛の手紙がいま目の前にある。
便箋は切られていなかった。
「キミは、この中身を読まなかったのかい?」
『はい、旦那様と違って、奥様はお嬢様に対して嫌な感覚を感じた事が無かったので』
「そう、なんだ」
読みたいと思うし、読みたくないとも思った。
どうしたら良いのだろうか、私は、お母様を許せるのだろうか?
理由があった事は理解出来た。私に興味が無かった訳ではない事も、納得は出来ないけれど理解は出来る。
でも……。
『お嬢様、読んでから考えても良いんじゃないですか?』
「どうして、そう思うんだい?」
『読んでみて、それで納得出来ないのならそれはそれで構わない、ボクの知ってるお嬢様ならきっとそう言うと思います。
それに、お嬢様にはボクが付いています。
それでも不安ですか?』
「まったく、そんな事を言われたら読まない訳にはいかないじゃないか」
だけど、その通りだ。彼と一緒ならなんて事はない。
お母様の手紙を読んだからといって彼がいなくなるわけじゃないんだ。
それなら怖い事なんて一つも無い。
『少し偉そうでしたかね?』
「ううん、そんなキミもカッコいいと思う」
そう返すと、思いも寄らない返しだったのか、珍しく彼の顔が真っ赤になった。
いつかの仕返しにはなったかなと、私は小さく笑う。
「じゃあ、お母様の手紙を読もうか」
彼は頷き、便箋を綺麗に開けた。
『私は、貴女に謝る資格も愛していると伝える資格も親と名乗る資格もありません。
それは重々承知の上で、貴女にこうして筆を取ることをお許し下さい。
申し訳ありませんでした。
貴女の事を、貴女の手足を守れなかったのは全て私の責任です。
私が家の権力に胡座をかいていたせいで、私は貴女を無事にこの国から逃す事も、五体満足でこの国で生きてもらう事が出来ませんでした。
手足を失ってまで、貴女が生きたいと言う保証などどこにもありませんでした。
それでも、貴女をそんな風にしてまで生かしたのは、私のエゴです。
どんな状態でも、どんな状況でも、私は貴女に生きて欲しかったのです。
だから貴女が被った苦痛、怒り、悲しみ、そういった負の感情は全て私に向けて下さい。全てを知って、尚も私と共謀してくれたあの子には罪はありません。
何卒、恨みや憎しみは私だけに留めて頂けたら幸いです。
こんな事を書いた後に、こうした文を書くのは正直気分はあまり良くないですが、これが最後だと思いますのでお許し下さい。
貴女と共に過ごした最初の一月は私が得られた最高の財産でした。
笑い、泣いた貴女を抱けた事は私に取っての最高の幸せでした。
私が貴女の母となれたのは、その一月だけ。
ですので、その一月の間に送らせて頂いた貴女の名をここに記しておこうと思います。
この名を名乗るかどうかは貴女次第です。
最後の最後まで押し付けがましくて本当に申し訳ありません。
出来る事なら、私が不幸にしてしまった貴女の事を、貴女が愛し、貴女を愛している方と共に取り返して下さい。
その事だけを、私は心の底から祈らせて頂きます。
私の愛しい、シャーロットへ』
全てを読み終わってみると、内容は実にシンプルなものだったという感想を抱いた。
謝罪と言い訳、その二言に尽きる。
くだらないとは思わない。
むしろ悲しいとすら思う。
わざわざ自分の身分を隠してまで私の世話をして、色々な軋轢があったに違いない。
当然だ、厄介者の相手をしていれば他の事に回せる時間など減って行く。
彼女は決まって夜間の担当を担っていてくれた。
そうすると、当然お父様は良い顔をしないだろう。
その挙句が自らの死だとは、哀れに他ならない。
……でも、お母様? 何故貴女は私の前で自分が母だと言ってくれなかったのですか?
どうして悪いと思っているのに直接謝ってくれなかったのですか?
当然私だって最初は怒り、怒鳴り散らすだろう。
強い拒絶だってした筈だ。
でも、貴女が私にした事を罪だと感じたなら、私からの罰を、叱責を受けるべきだったのではないですか?
そうして、少しずつ和解して、仲良くなれば、こんなに悲しいと、思う事だって……。
「ねえ、私の事を抱きしめて?」
私がそう頼むと、彼は小さく頷いた。
苦痛に涙を流したこと、嬉しくて涙を流したことはあった。
悲しみで流す涙は、そのどの涙よりも冷たくて心が凍りつきそうだった。
*
「いま思うとね? メイド長がお母様だと気づくチャンスはあったと思うんだ」
夕焼けを見ながら、私は独白するように呟いた。
「だってそうだろ? なんで災いの子だって言われて厄介者扱いされてる私に文字を教えたり、礼儀作法から言葉遣い、他にも色んな知識を詰め込む必要があるんだい?」
彼は何も言わずに私の頭を撫でている。
ほんのり温かくて気持ちがいい。
「必要なんて無かった、でも覚えさせた。本人は暇つぶしと言ったり、気を紛らわせるためだと言ってたけどね、あの教育は全部、私の為だったんだね」
本は良いものです、誰かの体験や考えや妄想が記してある、それは自分の会えない人物と会話をしていると考えられます。
メイド長は、お母様はそう言っていた。
それもきっと沢山の知識を詰め込ませるに頑張って考えたフレーズだったのかな?
考えれば考えるほど、おかしいと思える事が増えて行く。
小さな矛盾や不思議な会話、そして時折持ってくる家の問題の解決。
あれは私のお願いを通しやすくする為の建前だっただろうか?
散らかってしまった思考を振り払うように、私は何度か首を振った。
「ダメだ、思考が纏まる気がしない」
『すぐに答えを出そうとするのは貴女の悪いクセですよ』
「そうだね、その通りだよ」
『でも、良かったですね』
「何がだい?」
『名前、ちゃんとあったじゃないですか』
「そう、だね。そんな話しもキミとした」
『あの時は名前を決めてしまおうかなんて二人で考えましたけど、結局物語に出てくる名前とかが1番に浮かんで来てしまったから止めたんでしたね』
「ふふ、カッコいい名前とか可愛い名前とかも沢山考えたね」
『でも、どれもしっくりと来なかった』
「うん」
『お嬢様、もうお嬢様はお嬢様ではない訳ですし、お名前を呼んでもよろしいですか?』
私は少しだけ考えて、小さく頷いた。
『シャーロット、愛してますよ』
「んん!?」
『ちゃんと伝えて無かったですからね』
「そう、だね。はぁ、やっぱりキミはいじわるだよ。 私に恥ずかしい思いばかりをさせる」
『シャーロットは言ってくれないんですか?』
「私のはお預けだ! キミの名前がまだ決まっていないだろ!」
『なるほど、ではシャーロットがつけてくれるのを待ちましょう』
大事な宿題が出来てしまった。
名付けるなんて、私に大それた事が出来るのだろうか?
突然不安が押し寄せてくる。もちろん名付けの事だけではない、これからの事や彼の事についてだ。
「ねぇ、キミはいつまで私の側に居てくれるんだい?
私はもうキミと離れてしまったら生きてなんて行けない。
キミの代わりなんて誰もいないし、私にとってキミだけが私の全てだ。だから、だからね? 私は怖いんだ。キミが居なくなってしまう事が」
本当はこれからの事なんかどうでもいいのかも知れない。
私は本当に彼が居ないと駄目になってしまったようだ。
今は彼が居なくなる事を考えるだけが怖くて仕方ない。
何も言ってくれなかったお母様のように、何も言わずに死んでしまったお母様のように、唐突に消えてしまうかもしれない事が堪らなく怖いのだ。
フと、彼の方を見ると何故か満面の笑みを浮かべていた。
「こら! 私は真面目な話をしているんだぞ!」
そう叱っても、彼は笑みを消す事は無かった。
『すいません、とても嬉しくて、つい』
「嬉しい?」
『シャーロットにボクが居ないとダメだって言って貰えて、ボクは幸せです』
「……まったく! 変人め、こんな面倒な女に好かれてキミはもう逃げられないからな。
キミが居なくなったら私は本当に死んでしまうんだからな!」
そういうと、彼は深く頷いた。
『承知しました、約束は必ず守ります。
だからシャーロットも約束して下さい。
ボクも貴女と同じなんです、貴女無しでは生きて行けない。
だからボクの事を捨てたりしないで下さい。
シャーロットに捨てられたら、ボクは生きて行けないから』
「ふん、可愛い事を言ってくれるじゃないか、まあ安心したまえ、私からキミを捨てる事も突き放す事も絶対あり得ないのだからね」
すると、彼はイタズラっ子のように笑って一枚の紙を差し出した。
『一度、捨てられていますけどね』
「むう、やっぱりキミはいじわるだ!」
お母様、沢山考えてみたところ、結果として私はどうでも良いのではないのかと思いました。
許すとか許さないとか、愛する資格とか謝る権利とか、そんな事はどうでもいいのです。
貴女が守ってくれたこの命は、貴女がくれた彼との時間は、私がずっと望んで止まなかったもの。
少しだけ複雑に考えすぎていただけで、私は最初からお母様の事を恨んだり、憎んだりはして無かったようです。
だから、私はお母様に届くように祈ります。
私はいま幸せです、と。
決して貴女の事を恨んでなどいないです、と。
そして、
私の為に頑張ってくれて、ありがとう。
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