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【ブラックアウト】
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目を開けた場所は医務室だった。
ベッドサイドには顰めっ面で腕を組む相良の姿。
「大丈夫か?」
怒ったような口調。
「……大丈夫じゃ…ない」
涙が溢れる。
相良はキツく眉を寄せた表情のまま強い力で奏の頭を撫でた。
「殴っといて正解だった」
「……殴ったの!?」
「あんなん殴るだろ、そりゃ。まあでも、全面的に各務の方が非を認めた分、まだ譲れる部分はあるけどな。だから安心しろ。俺とあいつの喧嘩に居合わせたお前がびっくりして倒れたってことになってるから」
ホッとする気持ちのあと、やはり気になるのは相良の身の保証。
「相良……会社で喧嘩なんてしたら……」
「本人が転んだっつうもんを誰も追求できねえよ。心配すんなって」
奏は相良の胸元のシャツをグッとつかむと、不安な気持ちを抑えようとその胸に顔を埋めた。
「あいつ…あいつ、ソウのこと、知ってた。隣の学校だったって。あたしの……あたしの、昔のことも……色々……あたし……どうしよう……」
「しゃんとしろ。おまえ、なんも悪いことしてないだろ。あいつだって、お前を傷つけようとしてるわけじゃない。わかるよな? なぁ、なんも問題ないよ」
あやすように叩かれる背に温もりを感じて、奏の目から益々涙が溢れた。
「もう、お前も子供じゃない。俺もそうだ。10年経ってるんだぞ? 例え何がどうバレたって、一方的に泣き寝入りする程、もう可愛らしくもないだろ? お互い汚い大人になってんだからさ」
相良の言葉は、いつも奏に力をくれた。
この10年もうずっと。
本当は、好きすぎるほど大好きな腕の中。
他のどこよりも安心できる場所。
「相良ぁ……相良ぁ。相良がいなきゃ、死んでた。たまにとっとと死なせてくれりゃとか思って腹もたったけど……。あーん、相良ぁ」
子供のように大泣きする奏に涙と鼻水をつけられ少し眉を顰めるも、相良は何も言わずその背を撫で続けた。
ふいに、何かの気配を感じた相良が振り返る。
入口は閉じたまま、特に変わった様子もなさそうで、気のせいかと思ったその瞬間。
「コースケ!!」
ガラリとドアが開いたそこには、鬼の形相の紗月が立っていた。
「ぎゃあああ! 何やってんの!? ちょっと、離れなさいよ!!」
紗月の声に相良は弾かれるように奏の体を押し返した。カツカツとヒールの音を立てて駆け寄った紗月が相良の胸ぐらをつかみあげる。
「やっぱりあんたたち、こういう関係だったわけね!?」
「いや……ちが…苦しい…」
奏は相良の惨状を目の当たりにし、慌ててその手に取りすがった。
「違います、副社長! これは、あれです、ほら、あの、甲子園とか国立とかでもよくある男泣きのシーン。あれと同意です。決して副社長が思ってるようなことではな……」
ゴオォと音が聞こえてきそうなオーラを纏った紗月が奏を睨みつける。
「あんたよくも! 恩を徒で返すなんて!!……おかしいと思ってたのよ、よくもよくも人の男を!!」
「ちょ、ほんとに落ち着いて副社長。そんな大声出したら社内に知れますって!」
紗月は相良から手を離すと、今度は奏のブラウスの胸をつかみあげた。
「もうどーでもいいわよ! 今からあんたの息の根を止めんだから、どうせ極刑。副社長の椅子なんて惜しくないわ」
「落ち着いて、紗月さん!」
「…そ…うです、本当に、違うんです。あ、あたし、あの、そう、もう付き合ってる人居る、居ますから、離して…」
「は!? そんなんでごまかされないんだからっ」
「本当ですって、紗月さん。あれです、企画の友部。友部朗太って知りません? ほら、ちっこくて可愛い! こないだから。な、清白っ」
「……そ……うです」
またブラックアウトするのかと覚悟を決めたとき、やっと紗月の手が緩んだ。
ベッドサイドには顰めっ面で腕を組む相良の姿。
「大丈夫か?」
怒ったような口調。
「……大丈夫じゃ…ない」
涙が溢れる。
相良はキツく眉を寄せた表情のまま強い力で奏の頭を撫でた。
「殴っといて正解だった」
「……殴ったの!?」
「あんなん殴るだろ、そりゃ。まあでも、全面的に各務の方が非を認めた分、まだ譲れる部分はあるけどな。だから安心しろ。俺とあいつの喧嘩に居合わせたお前がびっくりして倒れたってことになってるから」
ホッとする気持ちのあと、やはり気になるのは相良の身の保証。
「相良……会社で喧嘩なんてしたら……」
「本人が転んだっつうもんを誰も追求できねえよ。心配すんなって」
奏は相良の胸元のシャツをグッとつかむと、不安な気持ちを抑えようとその胸に顔を埋めた。
「あいつ…あいつ、ソウのこと、知ってた。隣の学校だったって。あたしの……あたしの、昔のことも……色々……あたし……どうしよう……」
「しゃんとしろ。おまえ、なんも悪いことしてないだろ。あいつだって、お前を傷つけようとしてるわけじゃない。わかるよな? なぁ、なんも問題ないよ」
あやすように叩かれる背に温もりを感じて、奏の目から益々涙が溢れた。
「もう、お前も子供じゃない。俺もそうだ。10年経ってるんだぞ? 例え何がどうバレたって、一方的に泣き寝入りする程、もう可愛らしくもないだろ? お互い汚い大人になってんだからさ」
相良の言葉は、いつも奏に力をくれた。
この10年もうずっと。
本当は、好きすぎるほど大好きな腕の中。
他のどこよりも安心できる場所。
「相良ぁ……相良ぁ。相良がいなきゃ、死んでた。たまにとっとと死なせてくれりゃとか思って腹もたったけど……。あーん、相良ぁ」
子供のように大泣きする奏に涙と鼻水をつけられ少し眉を顰めるも、相良は何も言わずその背を撫で続けた。
ふいに、何かの気配を感じた相良が振り返る。
入口は閉じたまま、特に変わった様子もなさそうで、気のせいかと思ったその瞬間。
「コースケ!!」
ガラリとドアが開いたそこには、鬼の形相の紗月が立っていた。
「ぎゃあああ! 何やってんの!? ちょっと、離れなさいよ!!」
紗月の声に相良は弾かれるように奏の体を押し返した。カツカツとヒールの音を立てて駆け寄った紗月が相良の胸ぐらをつかみあげる。
「やっぱりあんたたち、こういう関係だったわけね!?」
「いや……ちが…苦しい…」
奏は相良の惨状を目の当たりにし、慌ててその手に取りすがった。
「違います、副社長! これは、あれです、ほら、あの、甲子園とか国立とかでもよくある男泣きのシーン。あれと同意です。決して副社長が思ってるようなことではな……」
ゴオォと音が聞こえてきそうなオーラを纏った紗月が奏を睨みつける。
「あんたよくも! 恩を徒で返すなんて!!……おかしいと思ってたのよ、よくもよくも人の男を!!」
「ちょ、ほんとに落ち着いて副社長。そんな大声出したら社内に知れますって!」
紗月は相良から手を離すと、今度は奏のブラウスの胸をつかみあげた。
「もうどーでもいいわよ! 今からあんたの息の根を止めんだから、どうせ極刑。副社長の椅子なんて惜しくないわ」
「落ち着いて、紗月さん!」
「…そ…うです、本当に、違うんです。あ、あたし、あの、そう、もう付き合ってる人居る、居ますから、離して…」
「は!? そんなんでごまかされないんだからっ」
「本当ですって、紗月さん。あれです、企画の友部。友部朗太って知りません? ほら、ちっこくて可愛い! こないだから。な、清白っ」
「……そ……うです」
またブラックアウトするのかと覚悟を決めたとき、やっと紗月の手が緩んだ。
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