20 / 25
【可愛い消毒】
しおりを挟む
「私が、あんたのお気に入りのキーパーと被ったってこと?」
朗太は乗り出さんばかりの勢いで慌てて体の前で手を振る。
「オレっ!! 別に男が好きなわけじゃないよ!? そりゃ、一番初め奏さん見たとき、なんでかその1番のこと思い出しはしたけど、でも、代わりとかそういうわけではっ」
「そんなん、いーわ、どうでも。で、居なかったんでしょ、入った高校に」
「うん。なんか、推薦決まってたのに蹴ったって。俺は何の為に男子校行ったんだって話っすよ。家遠かったから寮だったし、ほんとマジでしばらく悶絶したもん。女の子居ねえええって。いやまあ、面白かったっていえば面白かったんだけど」
「なんでそんなバカな進路選んだの? 話もしたことないようなの追っかけて」
奏は朗太とは視線をあわさず、それでも視線の端にその姿を捉えていた。
「うーん、オレ、フィジカル良くなくて、自分より明らか下手っぴな奴にレギュラー取られたりしてクサってたんだ。でも、そのキーパー、俺よりチッコイくらいなのに、スゲーうまくて、みんなから頼りにされてて、誰より前向いてて。ああ、あの人にコーチングされて試合出てみてーって。
その人、トレ選行ってたみたいだから、上の人に色々聞いて、んで播高行くってきいたからマジで勉強必死にやって。学区外だから基礎点100も違ってて、それまでそんな勉強らしい勉強したことなかったから、頭沸いて死ぬんじゃねえかって思った」
もし自分が何事もなくあのまま学校に通っていたら、この真っ直ぐな憧れと情熱を向けられたんだなと思うと、むずかゆい気持ちになる。
「今、どーしてるんだろーなー」
憧憬を含んだ声に、心の中呟く。
もう、死んだんだ、と。
「ね。今度サッカー観にいかない?」
「奏さん、サッカー好き!?」
「カナデは、サッカー嫌い」
でも、ソウの部分が疼き出す。
そして、そうして、死んではいないのだと思い知る。
「でも……あんたと行くの、楽しそう」
……!?
自分で口に出していながら、自分で驚いた。
やはりアルコールというものは恐ろしい。
そして奏以上に驚いた顔をした朗太だったが、慌ててスマートホンを取り出すと、もの凄い勢いで開催日をチェックし、天皇杯とJリーグのホーム戦の内、結局二人の休みのあうホーム戦を見に行くことになった。
その流れをどこか他人事のように眺める奏は、やはり見た目以上に酔っていたのだろう。店を出て歩きだしたとたん、アルコールで足がふらついた。朗太が慌ててそれを支える。
「ありがと」
言いながら身を離そうとした、が──。
「あのさ、一回だけ。一回だけ、ギュッとさせて!! 各務の、ずるいからっ」
必死な口調の朗太に、目を覗き込まれる。
「……どーぞ」
ぞ、を言い終える前に、きつく抱きすくめられる。
息苦しくはあったが、酔っているせいか人の体にもたれかかるのが心地良くて、黙って身を任せた。
そして数秒の後、朗太は潔く奏を引き剥がすと満面の笑顔で笑った。
「消毒かんりょー」
奏は自然に笑顔が浮かぶのを止められず、半ば照れ隠し、右の手のひらを朗太の顔面にビタンと押し当てた。
朗太は乗り出さんばかりの勢いで慌てて体の前で手を振る。
「オレっ!! 別に男が好きなわけじゃないよ!? そりゃ、一番初め奏さん見たとき、なんでかその1番のこと思い出しはしたけど、でも、代わりとかそういうわけではっ」
「そんなん、いーわ、どうでも。で、居なかったんでしょ、入った高校に」
「うん。なんか、推薦決まってたのに蹴ったって。俺は何の為に男子校行ったんだって話っすよ。家遠かったから寮だったし、ほんとマジでしばらく悶絶したもん。女の子居ねえええって。いやまあ、面白かったっていえば面白かったんだけど」
「なんでそんなバカな進路選んだの? 話もしたことないようなの追っかけて」
奏は朗太とは視線をあわさず、それでも視線の端にその姿を捉えていた。
「うーん、オレ、フィジカル良くなくて、自分より明らか下手っぴな奴にレギュラー取られたりしてクサってたんだ。でも、そのキーパー、俺よりチッコイくらいなのに、スゲーうまくて、みんなから頼りにされてて、誰より前向いてて。ああ、あの人にコーチングされて試合出てみてーって。
その人、トレ選行ってたみたいだから、上の人に色々聞いて、んで播高行くってきいたからマジで勉強必死にやって。学区外だから基礎点100も違ってて、それまでそんな勉強らしい勉強したことなかったから、頭沸いて死ぬんじゃねえかって思った」
もし自分が何事もなくあのまま学校に通っていたら、この真っ直ぐな憧れと情熱を向けられたんだなと思うと、むずかゆい気持ちになる。
「今、どーしてるんだろーなー」
憧憬を含んだ声に、心の中呟く。
もう、死んだんだ、と。
「ね。今度サッカー観にいかない?」
「奏さん、サッカー好き!?」
「カナデは、サッカー嫌い」
でも、ソウの部分が疼き出す。
そして、そうして、死んではいないのだと思い知る。
「でも……あんたと行くの、楽しそう」
……!?
自分で口に出していながら、自分で驚いた。
やはりアルコールというものは恐ろしい。
そして奏以上に驚いた顔をした朗太だったが、慌ててスマートホンを取り出すと、もの凄い勢いで開催日をチェックし、天皇杯とJリーグのホーム戦の内、結局二人の休みのあうホーム戦を見に行くことになった。
その流れをどこか他人事のように眺める奏は、やはり見た目以上に酔っていたのだろう。店を出て歩きだしたとたん、アルコールで足がふらついた。朗太が慌ててそれを支える。
「ありがと」
言いながら身を離そうとした、が──。
「あのさ、一回だけ。一回だけ、ギュッとさせて!! 各務の、ずるいからっ」
必死な口調の朗太に、目を覗き込まれる。
「……どーぞ」
ぞ、を言い終える前に、きつく抱きすくめられる。
息苦しくはあったが、酔っているせいか人の体にもたれかかるのが心地良くて、黙って身を任せた。
そして数秒の後、朗太は潔く奏を引き剥がすと満面の笑顔で笑った。
「消毒かんりょー」
奏は自然に笑顔が浮かぶのを止められず、半ば照れ隠し、右の手のひらを朗太の顔面にビタンと押し当てた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる