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【八つ当たり】
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仕事中、何度か朗太と目があった。
部署が違うのでそうそう会うこともないが、一度など目があった瞬間ニッコリと微笑まれたので、鬼を殺さんばかりの勢いで睨みつけてやった。
業務がずれ込み、食堂で少し遅いランチをとる奏のスマートホンがガタガタと震え硬質な音を立てる。
『夕方会えませんか? 東口の三角ビルにあるカンガワって店で待ってます』
相変わらず飾り気のない文章のみのLINE。
そして、夕べ送られてきていたLINEへの返信をしていなかったことを思い出した。
それに連なるように思い浮かべるのは、ワールドカップ記念キーホルダーのついた鍵のこと。
朗太との関係を慮ってそうしたのだろうが、なんだか相良に切り捨てられたようで切なくなった。
そもそもは二人の関係が特殊で、恋人同士でも親類縁者でも同居人間ですらない人間が合鍵を持っていることがおかしいのだ。
そうは言っても。
ついつい朗太に八つ当たりしたくなる。
『空けるのは次の日曜では?』
こちらから送るのも、愛想なしの文字だけの内容。
『釣り、まずかったですか? 仲間内で言ったら怒られた。釣りはないだろと。怒ってる?』
まさかの文面に目を見開く。
『誰にも私のこと言ってないでしょうね!!!?』
言ってたら刺し違えてでも殺す。
もうあんな好奇の目にさらされるのは耐えられない。
過去を暴かれた高校時代の苦しさは忘れていない。
絶対一生忘れることなんてできない。
『言ってない。約束だから。でも女の人と釣りに行ったこと自慢したかったんです。ごめんなさい』
ここで初めて頭を下げるスタンプが貼られ、挙句ペコリと腰を折る朗太自身が浮かんで図らずも少し笑を浮かべてしまった。
『そんなことしなくても、あんただったら生きてるだけで自慢できるのに』
『清白さんがオレを認めてくれたら、そんな気にもなれるかも。じゃあ、夕方店で』
『行くとは言ってない』
『行かないとも言われなかったから待ってます。では』
はあ?
くそっ、こいつ。
「じゃあ、いかないっと」
文字を打ちながら思わず口の中で呟いてしまった。
最後の返信には、もう何も返されず。
……むかつく奴。
押し付けがましことこの上ない。
絶対に行くものかと心に誓って、まだ残っていた皿の中身を一気に口に詰め込んだ。
部署が違うのでそうそう会うこともないが、一度など目があった瞬間ニッコリと微笑まれたので、鬼を殺さんばかりの勢いで睨みつけてやった。
業務がずれ込み、食堂で少し遅いランチをとる奏のスマートホンがガタガタと震え硬質な音を立てる。
『夕方会えませんか? 東口の三角ビルにあるカンガワって店で待ってます』
相変わらず飾り気のない文章のみのLINE。
そして、夕べ送られてきていたLINEへの返信をしていなかったことを思い出した。
それに連なるように思い浮かべるのは、ワールドカップ記念キーホルダーのついた鍵のこと。
朗太との関係を慮ってそうしたのだろうが、なんだか相良に切り捨てられたようで切なくなった。
そもそもは二人の関係が特殊で、恋人同士でも親類縁者でも同居人間ですらない人間が合鍵を持っていることがおかしいのだ。
そうは言っても。
ついつい朗太に八つ当たりしたくなる。
『空けるのは次の日曜では?』
こちらから送るのも、愛想なしの文字だけの内容。
『釣り、まずかったですか? 仲間内で言ったら怒られた。釣りはないだろと。怒ってる?』
まさかの文面に目を見開く。
『誰にも私のこと言ってないでしょうね!!!?』
言ってたら刺し違えてでも殺す。
もうあんな好奇の目にさらされるのは耐えられない。
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『言ってない。約束だから。でも女の人と釣りに行ったこと自慢したかったんです。ごめんなさい』
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『清白さんがオレを認めてくれたら、そんな気にもなれるかも。じゃあ、夕方店で』
『行くとは言ってない』
『行かないとも言われなかったから待ってます。では』
はあ?
くそっ、こいつ。
「じゃあ、いかないっと」
文字を打ちながら思わず口の中で呟いてしまった。
最後の返信には、もう何も返されず。
……むかつく奴。
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