紡ぎ奏でるのは

藤瀬すすぐ

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【読めない行動】

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「どういうつもり?」
「どういうって、昨日? いや今朝か? のお礼とお詫びに」

 ニッコリ笑う朗太は今日は休日の筈だ。それでも会社の敷地内で奏を待つつもりだったからか、ちゃんとジャケットを着込んでいる。
 礼や侘びなら───別段されたくもないが、週明けのタイミングでも構わないのに、わざわざ時間を割く律儀さも奏をイラつかせた。

 それともそこまでして口止めをしたかったのかもしれない。奏は適当に大きく頷くと、体の横で理解したとばかり両手を軽く手をあげた。

「よし。OK。あんたの気持ちは十分伝わった。こちらこそわざわざどーも。とにかく、誰にも言わないから、じゃ、これで」

 慇懃無礼に頭を下げ、その場を立ち去ろうをした奏の前に、止まれとばかり腕が差し出された。

「ダメだよ、そんなの。ご飯行こう。奢らせて」
「お気持ちだけで。遠慮じゃないから。ほんと気にしなくていいから」
「ええー、なんか警戒してる? 大丈夫だよ。オレ合意の下でしかエッチしないから襲ったりしませんって。昨日のも、オレ襲ってないんでしょ?  ね? それに今日は酒飲まないし、あ。なんだったら他の女の子呼ぶ? さっき声してたし。ちょっと呼んで……」
「あーあーあー、止めて止めてっ!! 何すんの!? わかった。わかったからっ!!」

 冗談じゃない。
 彼女らにこんな話を聞かれでもしたらっ。

「あはは。んじゃあ、いきますか。何食べたい? 今日はちょっとくらいのムリもしますよー。あ、車あっちです」
「ラーメン屋でいいわよ、そんなもん」
「えー、なにそれ、奢りがいないなー。ああ、じゃあ中華どう? うん。少し離れてるけど、いいとこあるんだ。そーしよそーしよ」
「ちょっとっ! 離れて歩いてっ」

 社員用の駐車場までの道。いくら休日とはいえ誰の目に留まるかわからない。妙な詮索をされるのはごめんだ。

「わー。すっげ傷つく」

 口を尖らせて拗ねる朗太をほんの少しでも可愛いと思ってしまったのは、昔飼っていた飼い犬におやつをやらなかったときと被って見えたからだと、自らに言い聞かせる。

「目立つの嫌なの。あんたなんかと歩いてたら、絶対見られる」
「ひゃは。願ったり叶ったり。……嘘です。すみません」

 睨む奏に朗太が小さく頭を下げた。

「あ、俺の車、C-2ですから。先行ってます。けど逃げたらあしたロジ管まで迎えに行きますからね」

 ロジ管とはロジテクス管理課の略で、奏の所属する物流部の中の担当部署だ。

「逃げないわよ」

 朗太の行動が読めず、ただひたすらに酒に飲まれた自分を恨めしく思うのだった。
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