紡ぎ奏でるのは

藤瀬すすぐ

文字の大きさ
上 下
6 / 25

【読めない行動】

しおりを挟む
「どういうつもり?」
「どういうって、昨日? いや今朝か? のお礼とお詫びに」

 ニッコリ笑う朗太は今日は休日の筈だ。それでも会社の敷地内で奏を待つつもりだったからか、ちゃんとジャケットを着込んでいる。
 礼や侘びなら───別段されたくもないが、週明けのタイミングでも構わないのに、わざわざ時間を割く律儀さも奏をイラつかせた。

 それともそこまでして口止めをしたかったのかもしれない。奏は適当に大きく頷くと、体の横で理解したとばかり両手を軽く手をあげた。

「よし。OK。あんたの気持ちは十分伝わった。こちらこそわざわざどーも。とにかく、誰にも言わないから、じゃ、これで」

 慇懃無礼に頭を下げ、その場を立ち去ろうをした奏の前に、止まれとばかり腕が差し出された。

「ダメだよ、そんなの。ご飯行こう。奢らせて」
「お気持ちだけで。遠慮じゃないから。ほんと気にしなくていいから」
「ええー、なんか警戒してる? 大丈夫だよ。オレ合意の下でしかエッチしないから襲ったりしませんって。昨日のも、オレ襲ってないんでしょ?  ね? それに今日は酒飲まないし、あ。なんだったら他の女の子呼ぶ? さっき声してたし。ちょっと呼んで……」
「あーあーあー、止めて止めてっ!! 何すんの!? わかった。わかったからっ!!」

 冗談じゃない。
 彼女らにこんな話を聞かれでもしたらっ。

「あはは。んじゃあ、いきますか。何食べたい? 今日はちょっとくらいのムリもしますよー。あ、車あっちです」
「ラーメン屋でいいわよ、そんなもん」
「えー、なにそれ、奢りがいないなー。ああ、じゃあ中華どう? うん。少し離れてるけど、いいとこあるんだ。そーしよそーしよ」
「ちょっとっ! 離れて歩いてっ」

 社員用の駐車場までの道。いくら休日とはいえ誰の目に留まるかわからない。妙な詮索をされるのはごめんだ。

「わー。すっげ傷つく」

 口を尖らせて拗ねる朗太をほんの少しでも可愛いと思ってしまったのは、昔飼っていた飼い犬におやつをやらなかったときと被って見えたからだと、自らに言い聞かせる。

「目立つの嫌なの。あんたなんかと歩いてたら、絶対見られる」
「ひゃは。願ったり叶ったり。……嘘です。すみません」

 睨む奏に朗太が小さく頭を下げた。

「あ、俺の車、C-2ですから。先行ってます。けど逃げたらあしたロジ管まで迎えに行きますからね」

 ロジ管とはロジテクス管理課の略で、奏の所属する物流部の中の担当部署だ。

「逃げないわよ」

 朗太の行動が読めず、ただひたすらに酒に飲まれた自分を恨めしく思うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...