紡ぎ奏でるのは

藤瀬すすぐ

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【想定外なのは】

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「ごめん、オレ、覚えてなくて、その……」

 ベッドの軋む音とともに奏の体が大きく揺れた。
 朗太が慌てて身を起こしたらしい。

 くくー。たっまんねーっ。

 耳に届く必死な声に、どうしてもその慌て慄く姿が見たくて、たまらずシーツからそろりと目だけを出して朗太を見た。
 真っ青に引き攣る顔を予想し、それを見ればゲロを吐きかけられた怒りも少しは和らぐだろうと思ったのに。それなのに。

 え?
 ……笑って……るの、か?
 はあ?

 予想に反して、どうにもニヤケそうになるのを堪えているようにしか見えない。

 ……衝撃が強すぎたか?
 中出しのくだりは流石に言い過ぎだったか。

 戸惑う奏を見て朗太は慌ててその緩んだ顔を引き締める。

「ごめんなさいっ! 本当に誠実さの欠片もないよね。本当に、本当にごめんなさいっ!!……オレ……あの……」

 照れたように、体の割に大きな片方の手のひらで顔を覆うと、言いにくそうに一旦口を閉じて指の間から上目遣いで奏を見た。

「オレ、無理矢理……連れ込んだんじゃないんだよね?」

 お。なんだ?
 とりあえずは見境なく処女を強姦したって話じゃなくてホッとしたのか?
 だから笑ったのか?
 まあ、どっちがどうかといえば、無理矢理連れ込んだのはこっちとも言えるんだけど。
 
 そこはとりあえず、小さく頷いておく。

 流石に犯罪者にまでしてやるのは可哀想だから仏心だ。

 「……オレ、清白すずしろさんの…初めての相手って…こと……で」

 いよいよ両手で顔を覆う朗太の声が上ずる。そして次の瞬間、頭を抱えると布団の上に埋まるようにして呻いた。

 よしよし。
 いい反応だ。
 そういうのを待って───

「何やってんだー!! オレはあーーーーー!!!!!」

 ビハインドでのフリーキックを外してしまったサッカー選手ばりの悔やみよう。

 もの凄いストレートだな、おい。ちったあオブラート活用しろよ。まあ確かに? 嫌がる反応を望んではいたけど、そこまでされたら何かやっぱムカつく。

「あーーーーーっ! なんも覚えてねーっっ!!! オレ、清白さんとあんなことやこんな……ああああっ」

 何?
 バイ菌扱いですか?
 おーい気遣えよ、もっとさあ。
 そりゃあ、覚えてねーよな。何もなかったんだもん。あんたゲロ吐いてフラフラで、そこに転がっただけだもん。それにあんなグダグダに酔ってたら、例え寝込みを襲うにも勃たなかっただろうよ。

 あんたはねえ、フリーキックを決められなかったんじゃなくて、オウンゴール決めたんだよ。
 自分で撒いた種だから、どこにも怒ってくとこないよな。
 ふふん。
 いや、種は撒いてないのか。オモロ。

「くそーーーーー」

 しかし腹立つな、こいつ。悶絶しすぎ。
 無理矢理ヤられたって言えば良かったか?
 もっと嫌がらせのいい言葉はないものか。

 奏はシーツで胸元を隠し、肘で上体を支えて、布団に突っ伏す朗太に体を近づけた。

「友部さん……やっぱり遊びだっ──」
「清白さん!!」
「た……!!?」

 いきなり身を起こした朗太に剥き出しの肩を掴まれて、それはそれは素敵なアイドル顔で真っ直ぐに見られた。

「オレ……オレ……、何ていうか、覚えてなくて、あの……呆れてなかったら、よかったら、えーと、仕切り直しということで、もう一回ヤらせて!!!」

 …………は?

 いや、おまえ。
 クズかよ。
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