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第一章
25.破壊と創造の不死鳥!!!!
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「くぁーーーっはっはっはっは! 何を言い出すかと思えば!」
大地を震わすような大声で、シュルクが嘲笑う。
そりゃそうだろう。大した戦闘能力もない、こんな僕が、皆を助けるだなんて大それたことを言い出したんだ。
……でも、僕は、自分の中に今まで感じたことのないほどの力を感じていた。
……今までの僕は、女ではなかった。
子を産み出す可能性のない体で、魔法少女をしていた。
だけど、今は違う。
たった一輪の百合で変わってしまったことだけど、女であるか、女でないかは大きな違いとなる。
「──リリィ・ヒーリング・ワウンド!」
僕が、そう唱えた途端。……世界は百合園になった。
「な──っ!?」
瞬きする瞬間だ。その僅かな時間で、見渡す限りの花畑が広がっていた。
それらの百合は全て、傷付いたものを治癒する力を持つ。
ボロボロだったサンとレインや、瓦礫の下敷きになっていた生徒達、ガラスの破片が突き刺さっていた生徒達に……倒れていた母さんも、すでに傷一つない状態になっていた。
そして皆、一瞬のうちに怪我が治ったことと、一面に広がる百合畑に驚きの声を上げていた。
「ば、バカな!」
シュルクもまた、驚きを隠せないでいた。
……僕は、その巨体から目をそらさず、二人に声をかけた。
「サン、レイン……ごめん、なさい……」
傷付けてしまったことや、沢山迷惑と心配をかけたこと。
とても許されないことをしでかしてしまったけど、今の僕にはそうやって謝ることしかできない。
虫がいいとは解っているけど、この戦いが終わるまでは、怒りを収めて協力してもらわなければ……。
僕に、攻撃手段はないのだから。
「全く……あんたいっつも遅いんだから」
「確か前の巨大蜘蛛の時も、遅れて来てたわ」
「ご、ごめんなさい……」
いや、まさかそんな遅刻魔みたいな責め方されるとは……。
「遅れた分、しっかり働いてよ、リリィ」
「期待してんだから!」
──あぁ、二人も、僕を受け入れてくれているんだ。
言葉に秘められたその意味を知って、思わず視界が潤む。
……けど、それを流さず、キッとシュルクを睨みつけて、杖を構えた。
迷惑かけた分は、行動で示さなきゃ、ね……!
「行くよ……!」
──サンとレインに声をかけて、僕は走り出した。
シュルクを倒す手段は、一つだけ思い付いていた。
魔界にいた時、僕はシュルクの命令で多くの魔獣から魔力を吸い出し、瓶に集めていた。
一体の魔獣からは、数滴の魔力の蜜しか採れない。だから小瓶がいっぱいになるまで、数十体のも魔獣を倒していった。
そして聞いたところによると、魔獣一体につき一、二分。シュルクは人間界で本気で戦えるそう。
倒した正確な数はわからないけど、一時間も戦えないはずだ。
そして、シュルクに百合の花を植え付ければ、その時間もさらに短縮されるはず。
……取れる対抗措置がこれだけなのは心許ないけど、何も策がないよりはマシだし、逆に言えば時間さえ稼げればこちらの勝ちが確定しているんだ。
そうと解かれば、やるっきゃない!
「リリィ・テイク・ア・ルーツ!」
フルブルームリリィとなって大幅に威力が増した種の銃弾。その数も砂嵐のように視界を埋め尽くす程まで増えている。
撃ち出された種は、ヒューッと風を切りながらシュルクの巨体に向かって飛んで行く。
「うぉおおおおお!」
……が、シュルクもそれが解かっていたのだろう。全身に魔力を張り巡らし、種が体内に侵入しないようガードしていた。
僕は、シュルクの体内の魔力が動くのを、確かに"視た"。
そう、魔力が見えるということは、僕には魔女化した時の力がまだ残っているということだ。
だから。
「……オープン・ザ・ブラックリリィ・ドア」
あの時の衝動を、あの時の悦びを思い返せば、自然と扉を開ける呪文が紡がれる。
鍵状のステッキが"黒く"輝き、僕のドレスを黒く……髪を白く染め上げて行く。
「り、リリィ!?」
「大丈夫」
大丈夫……この黒は、純黒ではない。例えるなら、炭。どこまでも黒く見えるが、燃え尽きれば灰になるどこまでも暗い灰色だ。
「いくよ……スプラウト・アンド・ブルーム!!」
間髪入れず、種を発芽させていく。
百合はひげ根で……そして流石にシュルクの皮膚を突き破る程の力もない。しかし、視界が悪くなるほどの量の種から一斉に根が生えたら。
「なにぃっ!?」
まるで蜘蛛に捕らえられた虫のように、根に絡め取られたシュルク。
藻掻けばもがくほどほど余計に根が絡まっていく。
「くすくす……捕まえたっ」
その哀れな姿に、思わず愉悦の笑みが溢れる。
……っと、危ない危ない。この姿の時は性格もブラックリリィに近付くみたいだ。
「サン、レイン、お願い!」
「う、うん……」
「リ、リリィ……?」
「大丈夫大丈夫! ほら早く!」
敵から魔力を吸えない以上、これらの百合根を維持してるのは全て僕の魔力だ。
その必死さが伝わったのか、二人とも表情を引き締めて攻撃を始めた。
「ウィンド・ボード!」
レインがそう唱えると、風が渦を巻いてサンの前に現れた。
サンが地を蹴り、その風の塊を踏んだ瞬間、その姿がブレた。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
ドップラー効果を発生させながら、サンがシュルクに向かって飛んでいくのが見えた。
どうやらレインが風の足場を発生させて操作しているらしい。
「こんな物ぉぉぉっ……!」
ブチブチと音を立てて根を引きちぎっていくシュルク。しかしそのスピードは明らかに遅い!
数えるならば、一、二秒。その間に数十メートルの距離を詰めたサンは、一閃。
浅くだが確かに傷を付けた。
「かっっっったぁ!?」
悲鳴を上げたのはサンの方で。
あの刀をしても浅い傷しか付けられないとは……やっぱりかなり頑強だ。
「鬱陶しい! 死ねぇ……っ!」
そのまま宙にいるサンを、木の幹のように大きくなったシュルクの腕が襲いかかる。
その巨体の見かけによらず、かなり早い!
レインが風の足場を操作して何とかかわしているけど、このままじゃ不味い!
「レイン、借りるよっ!」
僕は返事を待たず、杖を握りしめて遠方を睨みつけるレインの腰のホルダーから、銃を抜き出す。
「喰らえっ!」
ダダダダダダッと、トリガーを引いている間、フルオートで弾が出続ける。
それは上手くシュルクの顔面に当たり、その隙にサンが離脱した。
「ふ、ふふふ……!」
しかしどうしてまた、銃を撃つのは楽しいな!!
ダメージは大したことなさそうだけど……顔に霰が当たっているくらいの痛みは感じているらしい。
苦悶に歪む魔人の表情は、何ともそそられる……!
「リ、リリィ落ち着いて!」
「いや、このまま注意を引いていてもらいましょう! 今の内にやるわよ」
「う、うん……え、いいの?」
後ろからごちゃごちゃ聞こえて来るけど、ぶっちゃけどうでもいい。
──あぁ、もっと痛がってくれないかなぁ?
僕が、どんどん狙いを定めて、目や開いた口の中目掛けて撃つことに夢中になっていると、サンとレインが動き出した。
二人で手を繋いで、走り始めたのだ。
そしてその速さは、先の風の足場に匹敵するほどだ。
二人の繋いだ手から、魔力が高速で行き来しているのが見える……まさか、サンの身体強化魔法をレイン共有しているのだろうか!
「行くよ!」
「えぇ!」
そう声をかけ合い、二人は跳んだ──。
「サン・シャイン!」
「レイン・ブレッシィド!」
その呪文が唱えられれば、赤と青の魔力が混ざり合って行く……。
二人は眩い光に包まれ、その光が大翼を形作る。
「死と誕生!」
「破壊と再生!」
「日が沈み、日が昇る!」
「灰に還り、再び生まれる!」
火と水の鳥は、暗い雲に大穴を開けて……太陽の光を浴びてキラキラと輝きながら雷のように降ってきた。
「ぐぅ、小癪なっ……!!」
「「破壊と創造の不死鳥!!!!」」
本来ならば、互いに打ち消し合う火と水。しかし赤と青の双翼は、どこまでも均衡を保っていて。
一人では決してなし得ない……そして、二人の息がピッタリ合っていなければ、魔法は消えて地に墜ちていただろう……。
(……あぁ、綺麗だなぁ)
何故かその光景に涙が流れてきて……。
「「いっけぇぇぇえええ!!!!」」
「うぉぉぉおおお!!!!」
シュルクの胸元に不死鳥のくちばしが突き刺さり──
──激しい均衡の末、ついに貫いたのだった。
大地を震わすような大声で、シュルクが嘲笑う。
そりゃそうだろう。大した戦闘能力もない、こんな僕が、皆を助けるだなんて大それたことを言い出したんだ。
……でも、僕は、自分の中に今まで感じたことのないほどの力を感じていた。
……今までの僕は、女ではなかった。
子を産み出す可能性のない体で、魔法少女をしていた。
だけど、今は違う。
たった一輪の百合で変わってしまったことだけど、女であるか、女でないかは大きな違いとなる。
「──リリィ・ヒーリング・ワウンド!」
僕が、そう唱えた途端。……世界は百合園になった。
「な──っ!?」
瞬きする瞬間だ。その僅かな時間で、見渡す限りの花畑が広がっていた。
それらの百合は全て、傷付いたものを治癒する力を持つ。
ボロボロだったサンとレインや、瓦礫の下敷きになっていた生徒達、ガラスの破片が突き刺さっていた生徒達に……倒れていた母さんも、すでに傷一つない状態になっていた。
そして皆、一瞬のうちに怪我が治ったことと、一面に広がる百合畑に驚きの声を上げていた。
「ば、バカな!」
シュルクもまた、驚きを隠せないでいた。
……僕は、その巨体から目をそらさず、二人に声をかけた。
「サン、レイン……ごめん、なさい……」
傷付けてしまったことや、沢山迷惑と心配をかけたこと。
とても許されないことをしでかしてしまったけど、今の僕にはそうやって謝ることしかできない。
虫がいいとは解っているけど、この戦いが終わるまでは、怒りを収めて協力してもらわなければ……。
僕に、攻撃手段はないのだから。
「全く……あんたいっつも遅いんだから」
「確か前の巨大蜘蛛の時も、遅れて来てたわ」
「ご、ごめんなさい……」
いや、まさかそんな遅刻魔みたいな責め方されるとは……。
「遅れた分、しっかり働いてよ、リリィ」
「期待してんだから!」
──あぁ、二人も、僕を受け入れてくれているんだ。
言葉に秘められたその意味を知って、思わず視界が潤む。
……けど、それを流さず、キッとシュルクを睨みつけて、杖を構えた。
迷惑かけた分は、行動で示さなきゃ、ね……!
「行くよ……!」
──サンとレインに声をかけて、僕は走り出した。
シュルクを倒す手段は、一つだけ思い付いていた。
魔界にいた時、僕はシュルクの命令で多くの魔獣から魔力を吸い出し、瓶に集めていた。
一体の魔獣からは、数滴の魔力の蜜しか採れない。だから小瓶がいっぱいになるまで、数十体のも魔獣を倒していった。
そして聞いたところによると、魔獣一体につき一、二分。シュルクは人間界で本気で戦えるそう。
倒した正確な数はわからないけど、一時間も戦えないはずだ。
そして、シュルクに百合の花を植え付ければ、その時間もさらに短縮されるはず。
……取れる対抗措置がこれだけなのは心許ないけど、何も策がないよりはマシだし、逆に言えば時間さえ稼げればこちらの勝ちが確定しているんだ。
そうと解かれば、やるっきゃない!
「リリィ・テイク・ア・ルーツ!」
フルブルームリリィとなって大幅に威力が増した種の銃弾。その数も砂嵐のように視界を埋め尽くす程まで増えている。
撃ち出された種は、ヒューッと風を切りながらシュルクの巨体に向かって飛んで行く。
「うぉおおおおお!」
……が、シュルクもそれが解かっていたのだろう。全身に魔力を張り巡らし、種が体内に侵入しないようガードしていた。
僕は、シュルクの体内の魔力が動くのを、確かに"視た"。
そう、魔力が見えるということは、僕には魔女化した時の力がまだ残っているということだ。
だから。
「……オープン・ザ・ブラックリリィ・ドア」
あの時の衝動を、あの時の悦びを思い返せば、自然と扉を開ける呪文が紡がれる。
鍵状のステッキが"黒く"輝き、僕のドレスを黒く……髪を白く染め上げて行く。
「り、リリィ!?」
「大丈夫」
大丈夫……この黒は、純黒ではない。例えるなら、炭。どこまでも黒く見えるが、燃え尽きれば灰になるどこまでも暗い灰色だ。
「いくよ……スプラウト・アンド・ブルーム!!」
間髪入れず、種を発芽させていく。
百合はひげ根で……そして流石にシュルクの皮膚を突き破る程の力もない。しかし、視界が悪くなるほどの量の種から一斉に根が生えたら。
「なにぃっ!?」
まるで蜘蛛に捕らえられた虫のように、根に絡め取られたシュルク。
藻掻けばもがくほどほど余計に根が絡まっていく。
「くすくす……捕まえたっ」
その哀れな姿に、思わず愉悦の笑みが溢れる。
……っと、危ない危ない。この姿の時は性格もブラックリリィに近付くみたいだ。
「サン、レイン、お願い!」
「う、うん……」
「リ、リリィ……?」
「大丈夫大丈夫! ほら早く!」
敵から魔力を吸えない以上、これらの百合根を維持してるのは全て僕の魔力だ。
その必死さが伝わったのか、二人とも表情を引き締めて攻撃を始めた。
「ウィンド・ボード!」
レインがそう唱えると、風が渦を巻いてサンの前に現れた。
サンが地を蹴り、その風の塊を踏んだ瞬間、その姿がブレた。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
ドップラー効果を発生させながら、サンがシュルクに向かって飛んでいくのが見えた。
どうやらレインが風の足場を発生させて操作しているらしい。
「こんな物ぉぉぉっ……!」
ブチブチと音を立てて根を引きちぎっていくシュルク。しかしそのスピードは明らかに遅い!
数えるならば、一、二秒。その間に数十メートルの距離を詰めたサンは、一閃。
浅くだが確かに傷を付けた。
「かっっっったぁ!?」
悲鳴を上げたのはサンの方で。
あの刀をしても浅い傷しか付けられないとは……やっぱりかなり頑強だ。
「鬱陶しい! 死ねぇ……っ!」
そのまま宙にいるサンを、木の幹のように大きくなったシュルクの腕が襲いかかる。
その巨体の見かけによらず、かなり早い!
レインが風の足場を操作して何とかかわしているけど、このままじゃ不味い!
「レイン、借りるよっ!」
僕は返事を待たず、杖を握りしめて遠方を睨みつけるレインの腰のホルダーから、銃を抜き出す。
「喰らえっ!」
ダダダダダダッと、トリガーを引いている間、フルオートで弾が出続ける。
それは上手くシュルクの顔面に当たり、その隙にサンが離脱した。
「ふ、ふふふ……!」
しかしどうしてまた、銃を撃つのは楽しいな!!
ダメージは大したことなさそうだけど……顔に霰が当たっているくらいの痛みは感じているらしい。
苦悶に歪む魔人の表情は、何ともそそられる……!
「リ、リリィ落ち着いて!」
「いや、このまま注意を引いていてもらいましょう! 今の内にやるわよ」
「う、うん……え、いいの?」
後ろからごちゃごちゃ聞こえて来るけど、ぶっちゃけどうでもいい。
──あぁ、もっと痛がってくれないかなぁ?
僕が、どんどん狙いを定めて、目や開いた口の中目掛けて撃つことに夢中になっていると、サンとレインが動き出した。
二人で手を繋いで、走り始めたのだ。
そしてその速さは、先の風の足場に匹敵するほどだ。
二人の繋いだ手から、魔力が高速で行き来しているのが見える……まさか、サンの身体強化魔法をレイン共有しているのだろうか!
「行くよ!」
「えぇ!」
そう声をかけ合い、二人は跳んだ──。
「サン・シャイン!」
「レイン・ブレッシィド!」
その呪文が唱えられれば、赤と青の魔力が混ざり合って行く……。
二人は眩い光に包まれ、その光が大翼を形作る。
「死と誕生!」
「破壊と再生!」
「日が沈み、日が昇る!」
「灰に還り、再び生まれる!」
火と水の鳥は、暗い雲に大穴を開けて……太陽の光を浴びてキラキラと輝きながら雷のように降ってきた。
「ぐぅ、小癪なっ……!!」
「「破壊と創造の不死鳥!!!!」」
本来ならば、互いに打ち消し合う火と水。しかし赤と青の双翼は、どこまでも均衡を保っていて。
一人では決してなし得ない……そして、二人の息がピッタリ合っていなければ、魔法は消えて地に墜ちていただろう……。
(……あぁ、綺麗だなぁ)
何故かその光景に涙が流れてきて……。
「「いっけぇぇぇえええ!!!!」」
「うぉぉぉおおお!!!!」
シュルクの胸元に不死鳥のくちばしが突き刺さり──
──激しい均衡の末、ついに貫いたのだった。
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