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第18話 先代皇帝の陵墓にて
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「いやあ、楽しみだね、デート」
「デートではない。調査だ」
アリスの操る馬車の中で、アルファとマリアはそんなやり取りを繰り返していた。
「しかし皇帝の言葉を忘れたのか?」
「陛下だ。それにこの件はすぐに民衆にも知れ渡る。そうなる前に調査を終わらせなければ……」
「いいじゃないか適当で。どうせ誰も敬っていない人間の死骸が1つ無くなっただけだろ?」
「それでもだ。それに少なからず復活を望む者も……」
そこでアリスの小さな笑い声が飛び出た。
「も、申し訳ございません……。でも、お二人のやり取りが懐かしくて。旦那様がお帰りになったんだなって実感して……」
アリスは少しだけ涙を見せながら笑っている。そんな姿に、アルファとマリアも顔を見合わせて、笑った。
アルファは生真面目であまり笑わないことで有名な男だった。しかし彼はマリアからリラックスすることを学んだ。だから笑顔も増えた。まあ、まだジョークは勉強中の堅物に変わりはないのだが……。
そんな人物たちを乗せて、馬車は街はずれに向かって進んでいった。
◆◆◆
「しかし、こんな森の中にあるのか、先代皇帝の墓は」
マリアの魔術で認識疎外の結界の張られた馬車は森の奥地へと進んでいった。そこはちょうど、ローゼスの構える城から見下ろす位置にある。それはまるで復活しないよう監視しているかのようでもあった。
「ああ。本来は城の裏側にある山に歴代皇帝が祀られ、現皇帝陛下を守護するという形を取るのだが……」
「親子で争った上、臣民の人気もないからこんなさみしい場所に。アルファ、君の墓は日の当たる場所に立ててあげるよ」
「……」
「黙るなよ。そこは君のことは僕が看取るよ! と言うところだ、ろ?」
そこでマリアも気づいた。別の認識疎外の結界を通り抜けたことを。
「ついたぞ。先代皇帝の陵墓だ」
アルファは先に馬車を降り、マリアが降りるのに手を貸した。朴念仁のくせにこういうところはマナー通りだよなあと思うマリアだった。
「しかし、これが先代皇帝の陵墓か。ずいぶんと荒らされているな」
マリアの言葉は皮肉だった。実際は大して荒らされてもいないし、結界すら壊れていなかった。しかしそこは先代皇帝が眠る場所とは思えないほど簡素な墓で、一本の大木の前に木でできた十字架があり、今はそれも倒れていた。しかしそれ以外はさして荒れた様子もなく、まるで土葬した遺体が這い出たかのように見えた。
「これはどういうことでしょう。ここを管理している神父様の話では、ある日忽然とご遺体が消えたそうですが」
アリスがメモを確認しながら、アルファにそう告げる。
「ふむ」
アルファはローゼスと似たしぐさで顎に手を当てる。この2人は幼い頃より一緒にいたせいか、しぐさがどこか似ている。そのままのポーズでアルファは空になった墓穴を覗き込むが、すぐに気配に気づいて後ろを振り返る。
「誰だ!」
同時に気配に気づいたマリアは少しジャンプしてアルファの隣に移動し、アリスは少し不慣れな手つきでナイフを2つ取り出し両手に構えた。
それに対する茶色のローブを着た細身の人影は、フードを深々とかぶり、血色の悪い唇だけが見えた。細身の身体から、おそらく女性だとアルファたちが想像するより早く、人影は女性らしい高い声を出した。
「帝国に、ロゼに危機が迫っています」
「……陛下に?」
(いや、その前にこの女は陛下をなんと呼んだ……? ロゼという愛称を知っているのは……)
アルファの思考をマリアが遮る
「待てアルファ、そんな未来は……」
「ワタクシたちにはあるのです。未来を隠す術が」
「なんだと? お前たちは何者だ?」
マリアが訝しそうな目を向ける。人間にそんな術が使えるとは思えない。天使たちの行動すらマリアは見通していた。そんな彼女の眼をごまかすとはいったい……。
思考の波に飲まれそうなマリアの横でアルファは、腰の剣を抜いた。
「どうやら普通の魔術師ではないようだな。ここで起きたことを知っているのか?」
「はい。先代皇帝、ラナンキュラス陛下は蘇ったのです。不死鳥の力によりて……」
「……詳しく聴かせてもらおうか。ただし、牢屋の中でな!」
アルファは風の精霊の力を借りて一瞬で動き、ローブの女性の首元に剣を押し付ける。その時吹いた一陣の風によって、女性のフードが脱げた。そしてアルファは目を見開くことになる。
「お前……」
「……久しぶりだね。アルファ君」
「……リリエル、なのか」
つづく
「デートではない。調査だ」
アリスの操る馬車の中で、アルファとマリアはそんなやり取りを繰り返していた。
「しかし皇帝の言葉を忘れたのか?」
「陛下だ。それにこの件はすぐに民衆にも知れ渡る。そうなる前に調査を終わらせなければ……」
「いいじゃないか適当で。どうせ誰も敬っていない人間の死骸が1つ無くなっただけだろ?」
「それでもだ。それに少なからず復活を望む者も……」
そこでアリスの小さな笑い声が飛び出た。
「も、申し訳ございません……。でも、お二人のやり取りが懐かしくて。旦那様がお帰りになったんだなって実感して……」
アリスは少しだけ涙を見せながら笑っている。そんな姿に、アルファとマリアも顔を見合わせて、笑った。
アルファは生真面目であまり笑わないことで有名な男だった。しかし彼はマリアからリラックスすることを学んだ。だから笑顔も増えた。まあ、まだジョークは勉強中の堅物に変わりはないのだが……。
そんな人物たちを乗せて、馬車は街はずれに向かって進んでいった。
◆◆◆
「しかし、こんな森の中にあるのか、先代皇帝の墓は」
マリアの魔術で認識疎外の結界の張られた馬車は森の奥地へと進んでいった。そこはちょうど、ローゼスの構える城から見下ろす位置にある。それはまるで復活しないよう監視しているかのようでもあった。
「ああ。本来は城の裏側にある山に歴代皇帝が祀られ、現皇帝陛下を守護するという形を取るのだが……」
「親子で争った上、臣民の人気もないからこんなさみしい場所に。アルファ、君の墓は日の当たる場所に立ててあげるよ」
「……」
「黙るなよ。そこは君のことは僕が看取るよ! と言うところだ、ろ?」
そこでマリアも気づいた。別の認識疎外の結界を通り抜けたことを。
「ついたぞ。先代皇帝の陵墓だ」
アルファは先に馬車を降り、マリアが降りるのに手を貸した。朴念仁のくせにこういうところはマナー通りだよなあと思うマリアだった。
「しかし、これが先代皇帝の陵墓か。ずいぶんと荒らされているな」
マリアの言葉は皮肉だった。実際は大して荒らされてもいないし、結界すら壊れていなかった。しかしそこは先代皇帝が眠る場所とは思えないほど簡素な墓で、一本の大木の前に木でできた十字架があり、今はそれも倒れていた。しかしそれ以外はさして荒れた様子もなく、まるで土葬した遺体が這い出たかのように見えた。
「これはどういうことでしょう。ここを管理している神父様の話では、ある日忽然とご遺体が消えたそうですが」
アリスがメモを確認しながら、アルファにそう告げる。
「ふむ」
アルファはローゼスと似たしぐさで顎に手を当てる。この2人は幼い頃より一緒にいたせいか、しぐさがどこか似ている。そのままのポーズでアルファは空になった墓穴を覗き込むが、すぐに気配に気づいて後ろを振り返る。
「誰だ!」
同時に気配に気づいたマリアは少しジャンプしてアルファの隣に移動し、アリスは少し不慣れな手つきでナイフを2つ取り出し両手に構えた。
それに対する茶色のローブを着た細身の人影は、フードを深々とかぶり、血色の悪い唇だけが見えた。細身の身体から、おそらく女性だとアルファたちが想像するより早く、人影は女性らしい高い声を出した。
「帝国に、ロゼに危機が迫っています」
「……陛下に?」
(いや、その前にこの女は陛下をなんと呼んだ……? ロゼという愛称を知っているのは……)
アルファの思考をマリアが遮る
「待てアルファ、そんな未来は……」
「ワタクシたちにはあるのです。未来を隠す術が」
「なんだと? お前たちは何者だ?」
マリアが訝しそうな目を向ける。人間にそんな術が使えるとは思えない。天使たちの行動すらマリアは見通していた。そんな彼女の眼をごまかすとはいったい……。
思考の波に飲まれそうなマリアの横でアルファは、腰の剣を抜いた。
「どうやら普通の魔術師ではないようだな。ここで起きたことを知っているのか?」
「はい。先代皇帝、ラナンキュラス陛下は蘇ったのです。不死鳥の力によりて……」
「……詳しく聴かせてもらおうか。ただし、牢屋の中でな!」
アルファは風の精霊の力を借りて一瞬で動き、ローブの女性の首元に剣を押し付ける。その時吹いた一陣の風によって、女性のフードが脱げた。そしてアルファは目を見開くことになる。
「お前……」
「……久しぶりだね。アルファ君」
「……リリエル、なのか」
つづく
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