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第17話 墓荒らし
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アルファの帰還から3か月、帝国は平和な時を過ごしていた。復興も進み、「誰もが笑顔で暮らせる世界」が実現したかのようだった。それはアルファたち騎士にとっても変わらなかった。
麗らかな陽気の中、皇帝ローゼスは色とりどりのバラが咲き誇る庭園で丁寧に煎れられたロイヤルミルクティーを飲んでいた。お茶の相手としてアルファとマリアが対面に座り、ローゼスの斜め後ろには護衛としてイグニスがいた。
「しかしアルファ、お前が無事で本当によかった」
「またその話ですか、陛下」
「大事なことではないか。予にとっては唯一無二の親友が帰って来てくれたのだからな」
「臣下を……」
「友と呼ぶなであろう。その言葉は聞き飽きたぞ」
いつものやり取り、日常に、マリアとイグニスは噴き出した。アルファは憮然としていたが、皆の顔には笑顔があった。そのことには、あまり笑わないアルファも嬉しく思うのだった。
「む、だれか来るぞ。アルファ」
未来を見たマリアがアルファにささやく。それを受けてアルファは「失礼いたします」と言ってから席を立った。ここには剣を持ち込めない。だが素手でもローゼスとマリアを守り抜く自信があった。しかし姿を見せたのは書簡を持った兵士だった。下級兵士は直接皇帝に奏上したり、ものを渡したりできない。だからアルファが受け取り、中を改めた。アルファの眉が少しだけ動く。
「陛下」
アルファはローゼスの前で片膝をつき、書状を捧げる。それを受けてローゼスが書状の文章を確認する。
「……先代皇帝の陵墓が荒らされた?」
ローゼスは決して先代皇帝のことを父とは呼ばない。公であれ、私であれ先代皇帝と呼ぶ。幼い頃から父とは思っていないことの現れだ。
「ふぅむ」
ローゼスは顎に手を当てて少し考えた。
先代皇帝は、能力的に明らかにローゼスに劣る次男を次の皇帝にしようと暗躍し、皇帝と帝国の権威を失墜させた張本人であり、民のことを何も考えない男だった。民に恨まれ、最期は民によって討たれた。多くの臣民に恨みを買っているため、その墓は厳重に秘匿され、場所に至ってはローゼスとアルファ、そして一部の貴族しか知らないはずなのだ。
その墓が荒らされたとなれば事件だ。しょうじき先代皇帝の墓が荒らされようと、民の多くはどうでも良いと思うだろうし、ローゼスもどうでも良いのだが、何もしないというのは皇帝の権威に関わる。それでなくともローゼスが皇位を受け継ぐ際、内乱が起きかねないほど権威は下がっていたのだ。また逆戻りして血を流すわけにもいかなかった。
「……仕方ない。アルファ、マリア。急ぎ陵墓にむかい、本件を調査せよ」
「はっ」
アルファとマリアはローゼスに向かって頭を下げた。
「なおここだけの話だが、そこまで本気で調べる必要はない。デートだと思ってのんびりするがよい」
「陛下……」
アルファの「怒りますよ」という意味の込められた声にローゼスは楽しそうに笑うのだった。しかしローゼスもアルファも予想していなかった。この墓荒らし事件を皮切りに、帝国を震撼させる「不死者事件」が発生するということを。
つづく
麗らかな陽気の中、皇帝ローゼスは色とりどりのバラが咲き誇る庭園で丁寧に煎れられたロイヤルミルクティーを飲んでいた。お茶の相手としてアルファとマリアが対面に座り、ローゼスの斜め後ろには護衛としてイグニスがいた。
「しかしアルファ、お前が無事で本当によかった」
「またその話ですか、陛下」
「大事なことではないか。予にとっては唯一無二の親友が帰って来てくれたのだからな」
「臣下を……」
「友と呼ぶなであろう。その言葉は聞き飽きたぞ」
いつものやり取り、日常に、マリアとイグニスは噴き出した。アルファは憮然としていたが、皆の顔には笑顔があった。そのことには、あまり笑わないアルファも嬉しく思うのだった。
「む、だれか来るぞ。アルファ」
未来を見たマリアがアルファにささやく。それを受けてアルファは「失礼いたします」と言ってから席を立った。ここには剣を持ち込めない。だが素手でもローゼスとマリアを守り抜く自信があった。しかし姿を見せたのは書簡を持った兵士だった。下級兵士は直接皇帝に奏上したり、ものを渡したりできない。だからアルファが受け取り、中を改めた。アルファの眉が少しだけ動く。
「陛下」
アルファはローゼスの前で片膝をつき、書状を捧げる。それを受けてローゼスが書状の文章を確認する。
「……先代皇帝の陵墓が荒らされた?」
ローゼスは決して先代皇帝のことを父とは呼ばない。公であれ、私であれ先代皇帝と呼ぶ。幼い頃から父とは思っていないことの現れだ。
「ふぅむ」
ローゼスは顎に手を当てて少し考えた。
先代皇帝は、能力的に明らかにローゼスに劣る次男を次の皇帝にしようと暗躍し、皇帝と帝国の権威を失墜させた張本人であり、民のことを何も考えない男だった。民に恨まれ、最期は民によって討たれた。多くの臣民に恨みを買っているため、その墓は厳重に秘匿され、場所に至ってはローゼスとアルファ、そして一部の貴族しか知らないはずなのだ。
その墓が荒らされたとなれば事件だ。しょうじき先代皇帝の墓が荒らされようと、民の多くはどうでも良いと思うだろうし、ローゼスもどうでも良いのだが、何もしないというのは皇帝の権威に関わる。それでなくともローゼスが皇位を受け継ぐ際、内乱が起きかねないほど権威は下がっていたのだ。また逆戻りして血を流すわけにもいかなかった。
「……仕方ない。アルファ、マリア。急ぎ陵墓にむかい、本件を調査せよ」
「はっ」
アルファとマリアはローゼスに向かって頭を下げた。
「なおここだけの話だが、そこまで本気で調べる必要はない。デートだと思ってのんびりするがよい」
「陛下……」
アルファの「怒りますよ」という意味の込められた声にローゼスは楽しそうに笑うのだった。しかしローゼスもアルファも予想していなかった。この墓荒らし事件を皮切りに、帝国を震撼させる「不死者事件」が発生するということを。
つづく
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