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第15話 洪水
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ガンと会った日から十日、大雨が降り続き、海は大荒れに荒れていた。それを受けてアルファは、海に近いアルトンの別荘から避難することを決めた。帰りがけにガンの家に寄り、大人数を動員すれば箱舟が造れることを確認し、一路帝都に避難もとい戻ることにしたのだった。馬車に揺られること数時間、眠ってしまったマリアをアリスに任せ、アルファは、一人宮殿に向かうことにした。ローゼスに謁見し、箱舟建設を推し進めるかの判断を仰ぐためだ。すでに手紙で謁見を申し込んでいたため、アルファはスムーズに謁見の間に通された。
「久しいな、アルファ。新婚旅行は楽しめたか? と聞きたいところだが、その表情は、それどころではなかったようだな」
「はい。詳細は手紙に書きましたが、箱舟の設計図を入手いたしました。それと時を同じくして降り始めた大雨、マリアの予知した未来が現実になっているかのようです」
「ふむ、宮廷魔術師にも占わせてみたが、やはりこの雨は異常らしい。貴様も感じているだろう、アルファ。精霊が騒いでいるのを」
「はい、陛下」
ローゼスも感じ取っているなら、やはりあれは――悪い予感を思い出して内心穏やかにはなれないまま、アルファは言葉を待った。
「アルファ、正式に命じる。ガンと貴様を頂点として箱舟の建造を進めよ。責任は余が取る」
「いえ、責任はこの僕が……」
「アルファ。皇帝とは臣民のためになる策を練り、責任を取るためにいるのだ」
「陛下……」
「取り越し苦労で済めばよい。急ぎ箱舟を建造するのだ」
「はっ、すぐにガン爺のところに向かいます」
「頼むぞ。余は臣民たちを不安にさせないために最後までここを動けないのでな。箱舟ができ次第、臣民の避難を始めよ。余は最後でよい」
「いえ、最後は僕です。陛下の騎士ですからね」
そういって、アルファは笑みを見せた。
「……わかった。それでこそ余の騎士だ」
◆◆◆
「そこー! 手を抜くなー! 気を抜いたら持ってかれるぞー!」
大荒れの海の街で、ガンの威勢の良い声が響く。皇帝の全権委任を受けたアルファからガン及びアルトンの街に、ガンを大将、アルファを監察官として箱舟を建造するよう命令が下った。一部の者は裏町のガンが指揮を取ることに反発したが、多くの者はその腕は認めており、皇帝の命令と割り切って従うことにした。もちろんそこには報酬が良かったという理由も含まれているのだが……。
アルファはアルトンの高台にある宿の一室を借り、マリアを伴っては毎日建造の様子を視察していた。そして今日も現場を取り仕切るガンの下を訪れる。
「ガン爺、進捗はどうですか?」
「アル坊に嬢ちゃん、まあまあってとこだな。設計図はすさまじくよくできていて、人間業とは思えない早さで建造できそうだ! だがこの嵐だからな……」
レインコートを着て金槌を振るう船大工たちを、ガンは見渡す。アルファとマリアもそれに倣った。宮廷魔術師たちも加わり、大嵐を抑えながら急ピッチで建造は進められていた。
「あとどのくらいかかりますか。この嵐では、ここもそう長くはもたない」
アルファは心配そうに尋ねる。すでに街の住人は箱舟建造に参加する船大工を除いて避難していた。宮廷魔術師たちが抑えても抑えても完全には抑えきれない嵐が、海や河川の増水を起こし、帝都すら危うい状況が続いているからこその心配だった。
「今は交代しながら夜通しやってるからな、順調にいけば2週間ってところ……」
そこで街の入口の方から走って来た警備の兵が「アルファ卿ー!」と大声を出しながら走って来た。
「助けてくだ……!」
そこまで言ったところで兵は弓矢に打たれ、倒れた。倒された兵の来た入口の方から武装した一団が馬に乗って駆け込んできた。100人ほどはいようか、最初は数えようとしたアルファも、結局は面倒に数えるのをやめていた。100人を率いる先頭の男が叫ぶ。
「聖なる箱舟を我ら教団の手に!」
「……箱舟教団の残党か。邪魔はさせない」
アルファはレインコートをマントのようにはためかせると、腰に下げていた剣を引き抜き、敵に向かって駆け出す。狙うは敵の指揮官だった。アルファは風の精霊に働きかけ、精霊たちを剣にまとわせると横に振った。すると嵐が意志を持ったように、箱舟教団の残党たちに襲い掛かり、アルファに向かって降り注いだ弓矢もろとも吹き飛ばした。ただ指揮官らしき先頭の男は吹き飛ばされることなく、呪文を唱え、あろうことか嵐を燃やしてみせた。
「騎士アルファか。てめえが魔法を使うとは聞いたことがねえな」
馬から降りた男は、諸刃の剣に炎をまとわせてアルファに切りかかった。アルファは静かに自身の剣で受け止める。
「今のは魔法ではない」
「なに……?」
アルファの言葉に一瞬隙を見せた男は、アルファの蹴りを受けて地面を転がった。魔術と魔法は違う。魔術は呪文や魔導書などによって定式化されており、ある程度魔力がある者が学べば使えるようになる。対して魔法は生まれつき魔力が高い者が呪文の詠唱などをせずに自然現象を操ってみせる、より原始的で奇跡に近いものである。男は転がりながら、距離を取り、アルファの言葉を考える。確かにアルファが嵐を操ったとき、魔法特有の膨大な魔力の奔流が感じられなかった。
(いったい奴はなにをしたんだ⁉)
勝負は相手の理解できない手札が多い方が、相手を動揺させた方が勝つ。アルファはあっという間に相手の剣を叩き切った。相手が魔術を使うときに魔導書を用いなかったことから、剣が魔道具だとアルファは見切り、それを破壊した。アルファの予想は的中したらしく、剣を失った男は「ひいぃいい」と情けない声を上げ、逃げ出そうと背中を向ける。しかしそこに生き残りの警備の騎士たちが駆けつけ、取り押さえられた。
「ふう」
アルファは軽い運動のあとのように小さく息を吐くと、マリアのところに戻った。ガンはアルファの勝利を疑っていなかったらしく、戦いを見物するでもなく、建造作業に加わっていた。アルファが隣に来ると、マリアはいぶかしむような目で彼を見つめた。
「アルファ、君は魔法を使えないし、魔術も苦手じゃなかったのかい?」
「ああ、そのとおりだ」
「ならさっきのはなんだ!」
「秘密だ。ほら、帰るぞ」
おいっという声を背中で聞き流しながら、アルファは宿への道を歩いていった。
◆◆◆
それから一週間、箱舟教団の残党が“偽物の箱舟”を燃やそうとするなどトラブルも多かったが、ガンたち船大工たちの決死の努力により、予定よりも早く箱舟が完成した。もちろん豪華客船よりもはるかに大きな箱舟を突貫工事で完成させられたのは、宮廷魔術師たちの協力も大きかった。箱舟完成の報告を受けたローゼスは、臣民に箱舟への緊急避難命令を出した。
ほどなくしてほとんどの臣民はわずかな荷物と共に箱舟に避難した。ローゼスはその様子をアルファ、マリア、ガンと共に、ガンがかつて作った大型船の上から見守っていた。
「それにしても、ガン。見事である。短時間でこれほどのものを作りあげるとは」
「へ、へい。ありがたいお言葉で、陛下」
かつてはローゼスを坊主などと呼んでいたガンではあるが、さすがに皇帝になった今は慣れない敬語を使った。
「マリア、これで臣民は助かるのだな」
「はい、陛下。箱舟に乗った民は助かります」
「陛下、もういいでしょう。陛下もそろそろ箱舟に……」
アルファがそう声をかけたとき、光が天空を切り裂いた。それは天使降臨の合図……。
〈人類は滅ぼす。それが主の意志〉
降臨したミカエルはそう言うと、箱舟にむかって剣を振るった。すると光の刃が飛び、箱舟を狙う。その一撃はなんとか宮廷魔術師たちが防いだが、空を飛ぶミカエルを迎え撃たんと飛び立つ宮廷魔術師たちは、次々とミカエルに切られていった。
それを見たアルファは腰の剣に手をかけ、一歩前に進んだところでマリアに腕を掴まれた。
「行くなアルファ、死ぬぞ」
マリアには“視えて”いた。大雨の中ミカエルに刺されるアルファの姿が。そんなマリアを振り返ったアルファは笑みを浮かべると、彼女の唇を奪う。突然のことに目を見開くマリアをしり目に、アルファは強制的に“リエゾン”を果たした。途端、マリアの身体から力が抜けていく。
「行きます。陛下」
「死ぬなよ。これは命令だ」
「はっ」
マリアの魔力で風の精霊に働きかけたアルファは、ふわりと浮き上がり、そのままミカエルに突進し、袈裟懸けに切りかかった。もちろんミカエルは、それを余裕の表情で受け止めた。つば競り合いの中、ミカエルは言う。
〈……精霊魔術か。なぜ前回の戦いで使わなかった?〉
「教わっただけで使っていなかったからな。練習が必要だったんだ。お前に勝つために」
切り札が早くも見破られたことに、アルファは心の中で舌打ちをする。精霊魔術とは、精霊に愛された者だけが扱うことのできる魔術である。少ない魔力で精霊と感応し、その力を行使するものだ。かつてローゼスと放浪の旅をしていたとき、仙人のような男からアルファは精霊に愛されていると言われ、少しだけ精霊魔術の手ほどきを受けた。しかし魔力の極端な少なさゆえに実戦で使用することはこれまでなかった。しかし“リエゾン”で魔力の底上げがされるならば切り札として使えるだろうと、薬物で魔力の底上げをし、こっそり練習をしていたものだった。
ミカエルはアルファの剣を弾き、距離を取ると再び“リエゾン”を破ろうと、アルファの周り全方位に光の剣を出現させ、それを一斉に射出した。しかし精霊に守られているアルファは風の結界を展開して、剣をすべて破壊すると、お返しとばかりに荒れ狂う空の力を操り、台風をミカエルにぶつける。
〈ちっ……!〉
光の結界で台風の威力に耐えるミカエルだったが、その結界は台風と相殺されて消えてしまう。その隙を逃さずアルファはミカエルを倒そうと、一気に距離を詰める。当然ミカエルは剣を使って防御しようとした。しかし“リエゾン”したアルファにはその動きが事前に“視えて”いた。だからアルファはミカエルの腹部に剣を刺すことに成功した。ミカエルは何事も発することなく、増水し氾濫を起こしている川に落ちていった。アルファは大型船を振り返り、心配そうに見守るマリアとローゼスに、笑顔で親指を立ててみせた。
「久しいな、アルファ。新婚旅行は楽しめたか? と聞きたいところだが、その表情は、それどころではなかったようだな」
「はい。詳細は手紙に書きましたが、箱舟の設計図を入手いたしました。それと時を同じくして降り始めた大雨、マリアの予知した未来が現実になっているかのようです」
「ふむ、宮廷魔術師にも占わせてみたが、やはりこの雨は異常らしい。貴様も感じているだろう、アルファ。精霊が騒いでいるのを」
「はい、陛下」
ローゼスも感じ取っているなら、やはりあれは――悪い予感を思い出して内心穏やかにはなれないまま、アルファは言葉を待った。
「アルファ、正式に命じる。ガンと貴様を頂点として箱舟の建造を進めよ。責任は余が取る」
「いえ、責任はこの僕が……」
「アルファ。皇帝とは臣民のためになる策を練り、責任を取るためにいるのだ」
「陛下……」
「取り越し苦労で済めばよい。急ぎ箱舟を建造するのだ」
「はっ、すぐにガン爺のところに向かいます」
「頼むぞ。余は臣民たちを不安にさせないために最後までここを動けないのでな。箱舟ができ次第、臣民の避難を始めよ。余は最後でよい」
「いえ、最後は僕です。陛下の騎士ですからね」
そういって、アルファは笑みを見せた。
「……わかった。それでこそ余の騎士だ」
◆◆◆
「そこー! 手を抜くなー! 気を抜いたら持ってかれるぞー!」
大荒れの海の街で、ガンの威勢の良い声が響く。皇帝の全権委任を受けたアルファからガン及びアルトンの街に、ガンを大将、アルファを監察官として箱舟を建造するよう命令が下った。一部の者は裏町のガンが指揮を取ることに反発したが、多くの者はその腕は認めており、皇帝の命令と割り切って従うことにした。もちろんそこには報酬が良かったという理由も含まれているのだが……。
アルファはアルトンの高台にある宿の一室を借り、マリアを伴っては毎日建造の様子を視察していた。そして今日も現場を取り仕切るガンの下を訪れる。
「ガン爺、進捗はどうですか?」
「アル坊に嬢ちゃん、まあまあってとこだな。設計図はすさまじくよくできていて、人間業とは思えない早さで建造できそうだ! だがこの嵐だからな……」
レインコートを着て金槌を振るう船大工たちを、ガンは見渡す。アルファとマリアもそれに倣った。宮廷魔術師たちも加わり、大嵐を抑えながら急ピッチで建造は進められていた。
「あとどのくらいかかりますか。この嵐では、ここもそう長くはもたない」
アルファは心配そうに尋ねる。すでに街の住人は箱舟建造に参加する船大工を除いて避難していた。宮廷魔術師たちが抑えても抑えても完全には抑えきれない嵐が、海や河川の増水を起こし、帝都すら危うい状況が続いているからこその心配だった。
「今は交代しながら夜通しやってるからな、順調にいけば2週間ってところ……」
そこで街の入口の方から走って来た警備の兵が「アルファ卿ー!」と大声を出しながら走って来た。
「助けてくだ……!」
そこまで言ったところで兵は弓矢に打たれ、倒れた。倒された兵の来た入口の方から武装した一団が馬に乗って駆け込んできた。100人ほどはいようか、最初は数えようとしたアルファも、結局は面倒に数えるのをやめていた。100人を率いる先頭の男が叫ぶ。
「聖なる箱舟を我ら教団の手に!」
「……箱舟教団の残党か。邪魔はさせない」
アルファはレインコートをマントのようにはためかせると、腰に下げていた剣を引き抜き、敵に向かって駆け出す。狙うは敵の指揮官だった。アルファは風の精霊に働きかけ、精霊たちを剣にまとわせると横に振った。すると嵐が意志を持ったように、箱舟教団の残党たちに襲い掛かり、アルファに向かって降り注いだ弓矢もろとも吹き飛ばした。ただ指揮官らしき先頭の男は吹き飛ばされることなく、呪文を唱え、あろうことか嵐を燃やしてみせた。
「騎士アルファか。てめえが魔法を使うとは聞いたことがねえな」
馬から降りた男は、諸刃の剣に炎をまとわせてアルファに切りかかった。アルファは静かに自身の剣で受け止める。
「今のは魔法ではない」
「なに……?」
アルファの言葉に一瞬隙を見せた男は、アルファの蹴りを受けて地面を転がった。魔術と魔法は違う。魔術は呪文や魔導書などによって定式化されており、ある程度魔力がある者が学べば使えるようになる。対して魔法は生まれつき魔力が高い者が呪文の詠唱などをせずに自然現象を操ってみせる、より原始的で奇跡に近いものである。男は転がりながら、距離を取り、アルファの言葉を考える。確かにアルファが嵐を操ったとき、魔法特有の膨大な魔力の奔流が感じられなかった。
(いったい奴はなにをしたんだ⁉)
勝負は相手の理解できない手札が多い方が、相手を動揺させた方が勝つ。アルファはあっという間に相手の剣を叩き切った。相手が魔術を使うときに魔導書を用いなかったことから、剣が魔道具だとアルファは見切り、それを破壊した。アルファの予想は的中したらしく、剣を失った男は「ひいぃいい」と情けない声を上げ、逃げ出そうと背中を向ける。しかしそこに生き残りの警備の騎士たちが駆けつけ、取り押さえられた。
「ふう」
アルファは軽い運動のあとのように小さく息を吐くと、マリアのところに戻った。ガンはアルファの勝利を疑っていなかったらしく、戦いを見物するでもなく、建造作業に加わっていた。アルファが隣に来ると、マリアはいぶかしむような目で彼を見つめた。
「アルファ、君は魔法を使えないし、魔術も苦手じゃなかったのかい?」
「ああ、そのとおりだ」
「ならさっきのはなんだ!」
「秘密だ。ほら、帰るぞ」
おいっという声を背中で聞き流しながら、アルファは宿への道を歩いていった。
◆◆◆
それから一週間、箱舟教団の残党が“偽物の箱舟”を燃やそうとするなどトラブルも多かったが、ガンたち船大工たちの決死の努力により、予定よりも早く箱舟が完成した。もちろん豪華客船よりもはるかに大きな箱舟を突貫工事で完成させられたのは、宮廷魔術師たちの協力も大きかった。箱舟完成の報告を受けたローゼスは、臣民に箱舟への緊急避難命令を出した。
ほどなくしてほとんどの臣民はわずかな荷物と共に箱舟に避難した。ローゼスはその様子をアルファ、マリア、ガンと共に、ガンがかつて作った大型船の上から見守っていた。
「それにしても、ガン。見事である。短時間でこれほどのものを作りあげるとは」
「へ、へい。ありがたいお言葉で、陛下」
かつてはローゼスを坊主などと呼んでいたガンではあるが、さすがに皇帝になった今は慣れない敬語を使った。
「マリア、これで臣民は助かるのだな」
「はい、陛下。箱舟に乗った民は助かります」
「陛下、もういいでしょう。陛下もそろそろ箱舟に……」
アルファがそう声をかけたとき、光が天空を切り裂いた。それは天使降臨の合図……。
〈人類は滅ぼす。それが主の意志〉
降臨したミカエルはそう言うと、箱舟にむかって剣を振るった。すると光の刃が飛び、箱舟を狙う。その一撃はなんとか宮廷魔術師たちが防いだが、空を飛ぶミカエルを迎え撃たんと飛び立つ宮廷魔術師たちは、次々とミカエルに切られていった。
それを見たアルファは腰の剣に手をかけ、一歩前に進んだところでマリアに腕を掴まれた。
「行くなアルファ、死ぬぞ」
マリアには“視えて”いた。大雨の中ミカエルに刺されるアルファの姿が。そんなマリアを振り返ったアルファは笑みを浮かべると、彼女の唇を奪う。突然のことに目を見開くマリアをしり目に、アルファは強制的に“リエゾン”を果たした。途端、マリアの身体から力が抜けていく。
「行きます。陛下」
「死ぬなよ。これは命令だ」
「はっ」
マリアの魔力で風の精霊に働きかけたアルファは、ふわりと浮き上がり、そのままミカエルに突進し、袈裟懸けに切りかかった。もちろんミカエルは、それを余裕の表情で受け止めた。つば競り合いの中、ミカエルは言う。
〈……精霊魔術か。なぜ前回の戦いで使わなかった?〉
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ミカエルはアルファの剣を弾き、距離を取ると再び“リエゾン”を破ろうと、アルファの周り全方位に光の剣を出現させ、それを一斉に射出した。しかし精霊に守られているアルファは風の結界を展開して、剣をすべて破壊すると、お返しとばかりに荒れ狂う空の力を操り、台風をミカエルにぶつける。
〈ちっ……!〉
光の結界で台風の威力に耐えるミカエルだったが、その結界は台風と相殺されて消えてしまう。その隙を逃さずアルファはミカエルを倒そうと、一気に距離を詰める。当然ミカエルは剣を使って防御しようとした。しかし“リエゾン”したアルファにはその動きが事前に“視えて”いた。だからアルファはミカエルの腹部に剣を刺すことに成功した。ミカエルは何事も発することなく、増水し氾濫を起こしている川に落ちていった。アルファは大型船を振り返り、心配そうに見守るマリアとローゼスに、笑顔で親指を立ててみせた。
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