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第3話 いつまでも共に
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それから僕は毎年夏になると祖父の家に行き、ひまわりと遊ぶようになった。しかしただ1度だけ、夏以外にひまわり島に行ったことがある。それは春。桜の舞い散る中学2年生のときだった。祖父の葬式に出るため、僕はひまわり島に訪れた。
遺族側の席に座った僕はぼんやりとしていた。弔問客は途切れることを知らず、島中から人が来ているようだった。寡黙な祖父だったが、人から好かれる人だった。……僕も好きだった。やがてセーラー服を着たひまわりが弔問に来ると、僕を気遣わしげに見た。僕は、彼女の目を見ることができなかった。
◆◆◆
夜になった弔問客が減ると、僕は制服姿のまま海に向かった。1人砂浜に座り込み、ぼんやりと暗い海を眺める。寡黙な祖父と過ごした日々を思い出していると後ろから声がした。
「こんなところにいた」
僕が振り返ることも返事をすることもしないでいると、声の主、ひまわりは僕の隣に座った。ひまわりは何も言わず、静かに、辛抱強く僕が口を開くのを待った。だから僕は思考の回らないまま、口を開いた。
「……僕、じいちゃんのこと好きだった」
「うん」
「……でも、ちゃんと伝えられなかった」
「大丈夫、ちゃんと伝わってたと思うよ」
「どうして?」
ひまわりは僕の手を優しく握る。
「言わなくても伝わる想いってあるでしょ?」
ひまわりの顔が少しだけ赤い。
「そう、だね。でも僕は、言わないで後悔するなんてこと、もうしたくないな」
僕はひまわりの手を握り返す。
「ひまわり」
「うん」
「僕は、ひまわりが好きだ」
「知ってたよ。ずっと」
「じいちゃんが、あの家を僕のために遺してくれたんだ。だから、僕が大人になったら、一緒にあの家で暮らしたい」
「わかった。待ってるね」
「ひまわり……」
ひまわりはそっと僕の身体を抱きしめた。ふわりと、彼女のやさしいにおいを感じた。
「ずっと一緒にいたい」
「うん、ずっと一緒だよ」
そこでようやく僕は涙を流すのだった。
遺族側の席に座った僕はぼんやりとしていた。弔問客は途切れることを知らず、島中から人が来ているようだった。寡黙な祖父だったが、人から好かれる人だった。……僕も好きだった。やがてセーラー服を着たひまわりが弔問に来ると、僕を気遣わしげに見た。僕は、彼女の目を見ることができなかった。
◆◆◆
夜になった弔問客が減ると、僕は制服姿のまま海に向かった。1人砂浜に座り込み、ぼんやりと暗い海を眺める。寡黙な祖父と過ごした日々を思い出していると後ろから声がした。
「こんなところにいた」
僕が振り返ることも返事をすることもしないでいると、声の主、ひまわりは僕の隣に座った。ひまわりは何も言わず、静かに、辛抱強く僕が口を開くのを待った。だから僕は思考の回らないまま、口を開いた。
「……僕、じいちゃんのこと好きだった」
「うん」
「……でも、ちゃんと伝えられなかった」
「大丈夫、ちゃんと伝わってたと思うよ」
「どうして?」
ひまわりは僕の手を優しく握る。
「言わなくても伝わる想いってあるでしょ?」
ひまわりの顔が少しだけ赤い。
「そう、だね。でも僕は、言わないで後悔するなんてこと、もうしたくないな」
僕はひまわりの手を握り返す。
「ひまわり」
「うん」
「僕は、ひまわりが好きだ」
「知ってたよ。ずっと」
「じいちゃんが、あの家を僕のために遺してくれたんだ。だから、僕が大人になったら、一緒にあの家で暮らしたい」
「わかった。待ってるね」
「ひまわり……」
ひまわりはそっと僕の身体を抱きしめた。ふわりと、彼女のやさしいにおいを感じた。
「ずっと一緒にいたい」
「うん、ずっと一緒だよ」
そこでようやく僕は涙を流すのだった。
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