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プロローグ 反出生主義の星――エデン――
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銀河の果てに小さく美しい星があった。星の名はエデン。エデンには地球の人間とよく似た〝ヒューマノイド〟という生き物がおり、星を支配していた。楽しいこともつらいことも乗り越えて生きてきたヒューマノイドたちだったが、彼らはあるとき気がついた。
「生まれて来なければ、辛い思いをしなくてよかったのに」
その思いは思想となり、瞬く間に星に蔓延した。なぜなら救世主が現れたからだ。
救世主は世界をめぐり、人々に説いた。
「人は生まれて来ないことが幸いである。生まれて来なければ苦しむことはない。だから我々は生むのを止めよう。自分の大切な子どもに苦しみを与えるのはやめよう。そして皆で静かに滅びようではないか」
救世主の教えに多くのヒューマノイドたちは同意した。救世主の教えは「反出生主義」と呼ばれ、世界の9割以上のヒューマノイドが信じるものとなった。そこで統一議会は閣議の上「反出生主義法」を制定した。その法律は以下のような内容であった。
第一条 避妊
ヒューマノイドは生まれてくるべきではないため、今現在生存しているヒューマノイドには確実な避妊が求められる。
確実な避妊を推進するため、全星民に避妊手術を施す。
避妊を拒む者は、苦痛を世界に蔓延させようとしているものとし、国家反逆罪を適用する。
第二条 中絶
現在すでに妊娠している者、および避妊手術の失敗により妊娠してしまった者は、速やかに中絶手術を受けなければならない。もし中絶ができないほど妊娠が進行してしまっている場合は、出産後速やかに新生児は安楽死させるものとする。
第三条 絶滅
我々ヒューマノイドは本法律に則り、緩やかな絶滅を選択する。我々が絶滅した後は、これ以上世界に苦痛が蔓延しないよう。恒星破壊爆弾を発動させ、エデンを完全に破壊する。
第四条 絶滅までの過程
我々ヒューマノイドが絶滅するまでの間、なるべく苦痛を感じずに生きるため、苦痛を感じないアンドロイドを開発し、我々の衣食住などを保障させる。これはエデン最後の一人が死に絶えるまで続く。
この法律の制定後、もうこれ以上苦しみを感じるヒューマノイドが誕生しないで済むことに多くの者たちが胸を撫で下ろした。さてそんな世界に、一組のカップルがいた。男の名はアダン、女の名をリリスといった。
2人は幸せな結婚生活を送っていたが、ある日異変が起こった。リリスは妊娠したのだ。
「避妊手術を受けているはずなのに」
2人は驚いたが、アダンは優しく微笑んでいった。
「でも大丈夫。安全に中絶できる。お腹の中の子も君も苦しむことはないさ」
しかしリリスの表情は晴れなかった。膨らんだ自分の腹を撫でながらうつむいていた。しばらくしてようやく口を開く。
「ごめんなさい。すこし1人にしてちょうだい。この子に、お別れをいいたいの」
「ああ。もちろんさ。リリス、愛しているよ。もちろん、お腹の子もね」
アダンはリリスの頬に口づけると、静かに部屋を出て行った。リリスは安楽椅子に深く腰掛けながらため息をつき、顔を覆った。
お腹の中の子を苦しみの世界に生み出すべきではない。それは頭ではわかっていた。しかし、しかしだ。彼女の中の〝母親〟は、お腹の中の子を産むべきだと叫んでいた。愛する人との子を誕生させるべきだと。
しばらくうつむいていたリリスは不意に顔を上げ、何事かを決意すると美しい金色の髪を後ろでまとめ、屋敷を飛び出していった。
「生まれて来なければ、辛い思いをしなくてよかったのに」
その思いは思想となり、瞬く間に星に蔓延した。なぜなら救世主が現れたからだ。
救世主は世界をめぐり、人々に説いた。
「人は生まれて来ないことが幸いである。生まれて来なければ苦しむことはない。だから我々は生むのを止めよう。自分の大切な子どもに苦しみを与えるのはやめよう。そして皆で静かに滅びようではないか」
救世主の教えに多くのヒューマノイドたちは同意した。救世主の教えは「反出生主義」と呼ばれ、世界の9割以上のヒューマノイドが信じるものとなった。そこで統一議会は閣議の上「反出生主義法」を制定した。その法律は以下のような内容であった。
第一条 避妊
ヒューマノイドは生まれてくるべきではないため、今現在生存しているヒューマノイドには確実な避妊が求められる。
確実な避妊を推進するため、全星民に避妊手術を施す。
避妊を拒む者は、苦痛を世界に蔓延させようとしているものとし、国家反逆罪を適用する。
第二条 中絶
現在すでに妊娠している者、および避妊手術の失敗により妊娠してしまった者は、速やかに中絶手術を受けなければならない。もし中絶ができないほど妊娠が進行してしまっている場合は、出産後速やかに新生児は安楽死させるものとする。
第三条 絶滅
我々ヒューマノイドは本法律に則り、緩やかな絶滅を選択する。我々が絶滅した後は、これ以上世界に苦痛が蔓延しないよう。恒星破壊爆弾を発動させ、エデンを完全に破壊する。
第四条 絶滅までの過程
我々ヒューマノイドが絶滅するまでの間、なるべく苦痛を感じずに生きるため、苦痛を感じないアンドロイドを開発し、我々の衣食住などを保障させる。これはエデン最後の一人が死に絶えるまで続く。
この法律の制定後、もうこれ以上苦しみを感じるヒューマノイドが誕生しないで済むことに多くの者たちが胸を撫で下ろした。さてそんな世界に、一組のカップルがいた。男の名はアダン、女の名をリリスといった。
2人は幸せな結婚生活を送っていたが、ある日異変が起こった。リリスは妊娠したのだ。
「避妊手術を受けているはずなのに」
2人は驚いたが、アダンは優しく微笑んでいった。
「でも大丈夫。安全に中絶できる。お腹の中の子も君も苦しむことはないさ」
しかしリリスの表情は晴れなかった。膨らんだ自分の腹を撫でながらうつむいていた。しばらくしてようやく口を開く。
「ごめんなさい。すこし1人にしてちょうだい。この子に、お別れをいいたいの」
「ああ。もちろんさ。リリス、愛しているよ。もちろん、お腹の子もね」
アダンはリリスの頬に口づけると、静かに部屋を出て行った。リリスは安楽椅子に深く腰掛けながらため息をつき、顔を覆った。
お腹の中の子を苦しみの世界に生み出すべきではない。それは頭ではわかっていた。しかし、しかしだ。彼女の中の〝母親〟は、お腹の中の子を産むべきだと叫んでいた。愛する人との子を誕生させるべきだと。
しばらくうつむいていたリリスは不意に顔を上げ、何事かを決意すると美しい金色の髪を後ろでまとめ、屋敷を飛び出していった。
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