幼女な主人と下僕の話

桜花

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ベティとヴィンス

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「何をしているのですかお嬢さま」

出会いから2年がたち、俺は18にお嬢さまは6つになった。
最近のお嬢さまは始まった勉強にいやいやを繰り返している。
つまんない、おもしろくない、意味ないもん
この3つでひたすら勉強から逃げている。
教養のない自分が言えたことではないから特に口を挟むことはしていなかったがいい加減教師陣や侍女たちが可愛そうである。
俺は今日も勉強から逃げ出したお嬢さまを木の上に見つけるとゆっくりと近づいた。
そして冒頭である。

「お勉強つまんない。わかんないし、おもしろくない。なんでやらなきゃいけないのかもわかんない」
頬を膨らませてそっぽを向くお嬢様に思わず笑ってしまえば非難がましい視線を向けられた。
慌てて笑いを隠し木の上のお嬢様へと両手を伸ばせばその腕は無視された。
「ヴィンセントなんて知らないもん」
尚も頬を膨らますお嬢さまとお嬢さまの自分を呼ぶ名前に俺はやはり笑ってしまう。
「ベティ、おいで」
俺の言葉にお嬢さまはやっとこっちを見たと思えば静かに俺の広げた両腕へと降りてきた。
「俺はもとの学がないから偉そうなことは言えなけれどこの屋敷に来て旦那さまに教育係をつけて頂いてからのことはとても役に立っているよ」
腕に抱いたお嬢さまへ話しかければもぞりと動いた。
「例えば?」
腕の中から上目遣いに尋ねられる。
「礼儀作法や勉学、芸術に体術の稽古をつけてもらったよ。そのおかげで今こうしてベティの専属として1番近いところにいられる」
腕の中のお嬢さまがくすくすと笑いをもらせば俺の腕の中から地面へと降りた。
「お勉強頑張るわ。ヴィンスが私の専属で恥ずかしくないような主人になるわ」
俺の正面に立ち告げたお嬢さまはそのまま屋敷の中へと消えて行った。

俺とお嬢さまは人目のないところではお互いに愛称で呼び合っている。それは出会った頃から変わらない。


出会った当初自分でベティだと名乗った彼女を普通にベティと呼んでしまった俺は気づいた後慌ててそのことを謝った。結果としてそのままベティと呼ぶことを申し付けられたのだけれども。
その後さらに驚いたことにご家族はベティのことを『リズ』と呼んでいることを知った。
はじめからベティだと名乗った彼女にてっきりみんながそう呼んでいるのだと思った俺はその事実に再び慌ててベティの元へ行き何故かと問うた。
「わたしのことをベティってよぶのはヴィンスだけよ。特別ね」
特に理由も説明されずそんなふうに笑われたら更なる追求などできるはずもなくそれ以降ベティと呼ぶようになった。
ただやはり主人と従者。身分が違うので人前ではお嬢さまとヴィンセントと呼び合っている。
ただ家人の前では呼び方を間違えることも多々ある。
特に食事時などベティから「ヴィンス」と呼ばれれば癖で「ベティ」と返してしまい慌てて訂正すれば旦那さまと奥さまにまるで微笑ましいものでも見るように笑われる。
後から執事長にこってり絞られるのだが、なんだか楽しそうなお嬢さまやご家族を見ていれば間違っても悪いことばかりではないなんて思ってしまうのだ。

さて、いつまでこんな風にベティをベティと呼ぶことが許されるのかわからない。
最有力貴族であるクラーク公爵家。その1人娘であるベティ。そう遠くないうちに身分の釣り合う婚約者殿が現れることだろう。
それでも、ベティからお前はいらないと言われるその日までは俺は忠実なる幼い主人の下僕である。
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みんなの感想(1件)

いっくん
2021.07.10 いっくん

とても、面白かったです‼️ぜひ、僕の作品も読んでみてください‼️

解除

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