2 / 2
ベティとヴィンス
しおりを挟む「何をしているのですかお嬢さま」
出会いから2年がたち、俺は18にお嬢さまは6つになった。
最近のお嬢さまは始まった勉強にいやいやを繰り返している。
つまんない、おもしろくない、意味ないもん
この3つでひたすら勉強から逃げている。
教養のない自分が言えたことではないから特に口を挟むことはしていなかったがいい加減教師陣や侍女たちが可愛そうである。
俺は今日も勉強から逃げ出したお嬢さまを木の上に見つけるとゆっくりと近づいた。
そして冒頭である。
「お勉強つまんない。わかんないし、おもしろくない。なんでやらなきゃいけないのかもわかんない」
頬を膨らませてそっぽを向くお嬢様に思わず笑ってしまえば非難がましい視線を向けられた。
慌てて笑いを隠し木の上のお嬢様へと両手を伸ばせばその腕は無視された。
「ヴィンセントなんて知らないもん」
尚も頬を膨らますお嬢さまとお嬢さまの自分を呼ぶ名前に俺はやはり笑ってしまう。
「ベティ、おいで」
俺の言葉にお嬢さまはやっとこっちを見たと思えば静かに俺の広げた両腕へと降りてきた。
「俺はもとの学がないから偉そうなことは言えなけれどこの屋敷に来て旦那さまに教育係をつけて頂いてからのことはとても役に立っているよ」
腕に抱いたお嬢さまへ話しかければもぞりと動いた。
「例えば?」
腕の中から上目遣いに尋ねられる。
「礼儀作法や勉学、芸術に体術の稽古をつけてもらったよ。そのおかげで今こうしてベティの専属として1番近いところにいられる」
腕の中のお嬢さまがくすくすと笑いをもらせば俺の腕の中から地面へと降りた。
「お勉強頑張るわ。ヴィンスが私の専属で恥ずかしくないような主人になるわ」
俺の正面に立ち告げたお嬢さまはそのまま屋敷の中へと消えて行った。
俺とお嬢さまは人目のないところではお互いに愛称で呼び合っている。それは出会った頃から変わらない。
出会った当初自分でベティだと名乗った彼女を普通にベティと呼んでしまった俺は気づいた後慌ててそのことを謝った。結果としてそのままベティと呼ぶことを申し付けられたのだけれども。
その後さらに驚いたことにご家族はベティのことを『リズ』と呼んでいることを知った。
はじめからベティだと名乗った彼女にてっきりみんながそう呼んでいるのだと思った俺はその事実に再び慌ててベティの元へ行き何故かと問うた。
「わたしのことをベティってよぶのはヴィンスだけよ。特別ね」
特に理由も説明されずそんなふうに笑われたら更なる追求などできるはずもなくそれ以降ベティと呼ぶようになった。
ただやはり主人と従者。身分が違うので人前ではお嬢さまとヴィンセントと呼び合っている。
ただ家人の前では呼び方を間違えることも多々ある。
特に食事時などベティから「ヴィンス」と呼ばれれば癖で「ベティ」と返してしまい慌てて訂正すれば旦那さまと奥さまにまるで微笑ましいものでも見るように笑われる。
後から執事長にこってり絞られるのだが、なんだか楽しそうなお嬢さまやご家族を見ていれば間違っても悪いことばかりではないなんて思ってしまうのだ。
さて、いつまでこんな風にベティをベティと呼ぶことが許されるのかわからない。
最有力貴族であるクラーク公爵家。その1人娘であるベティ。そう遠くないうちに身分の釣り合う婚約者殿が現れることだろう。
それでも、ベティからお前はいらないと言われるその日までは俺は忠実なる幼い主人の下僕である。
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とても、面白かったです‼️ぜひ、僕の作品も読んでみてください‼️