ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ロストソードの使い手編

九十三話 空の過去

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 僕達はゴンドラに乗り、起動させると宙に浮かび上がり街へと向かった。
「それにしてもソラくん。暴走して迷惑かけないようにするためとはいえ、森の奥に行き過ぎじゃない? それならせめて、どこにいるかくらい教えてよ」
「距離を置いたほうが依存から脱却出来ると思ったからな。それに教えたら、愛理が来るだろ」
「そんな事は……いえ否定出来ないわね」

 不服そうにするも、少し考えるとすぐに納得したように頷く。
「でもまぁ、アヤメさんか日景くんには言うべきだったかもな」
「……アヤメさんにも言ってなかったんですね」
「ああ。情報源は極力減らした方がいいからな」
「あたし、信用されなさすぎじゃない? ソラくんとはいえ、ショックなのだけど」

 ガクリと肩を落とす。心なしかツインテールも弱々しく垂れている。

「いや、信用し過ぎてたんだ。長く一緒だからな。でも、お前は俺の想像を超えてくれたんだ」
「そ、そんなに想ってくれたのね……!」

 ころっと明るい表情に変わり、元気を取り戻す。何だか微笑ましくて暫く眺めたくなる。

「……ところでソラくん。これからどうするの? またどこか遠くに行っちゃうの?」
「そうする理由はもうないんだが……暴走してしまうからな。正直、悩んでいる」
「……そうよね。けれど、もう一緒にいれる時間は少ないわ。だから傍にいたい」

 離れるのを怖がる子供のように林原さんの手を握る。

「……」

 それを受けて彼女の手を見つめながらの思考を巡らせている。

「もしかしたらアヤメさんがそういうのを防ぐマギアを開発してたりしませんかね。もしくは、このマギアで何とかするって手もあるんじゃないですか?」
「そ、そうよ! ユーぽんの言う通りよ。それなら良いんじゃない?」
「……だな。また森に行ってもそっちに迷惑をかけてしまう。あの店に戻るよ」

 その言葉を聞くと、モモ先輩は瞳を煌めかせて笑顔を浮かべた。

「やった! 一緒に帰りましょ、あたし達のお家に!」




 
 僕達はゴンドラを降りてから真っ直ぐ家へと向かった。その間、離れていた反動かモモ先輩は林原さんにベッタリで幼さのある姿に何だか微笑ましさがあった。けれど、最近僕に向けていたものを同じ熱量で他の人に向けていて、どこかモヤッとする自分も微かにいて。まぁすぐにかき消したのだけど。
 そして特に何か起きるわけでもなく、店に着いた。
「ただいまー」
「お、皆おかえり~」

 入るとカウンターで暇そうにしていたアヤメさんが、出迎えてくれる。店内にはお客さんもおらず、僕達だけだ。

「その顔。空の未練の一つは解決したみたいだね」
「まぁ。彼女達のおかげで」
「それは良かったよ~。ま、最近の様子を見てたらそうなるだろうなって思ってたけどさっ」

 アヤメさんは我が子を見るような視線を林原さんに送っていた。

「依頼はちゃんと終わらせたわ。それに、もうわかると思うけれど、原因の霊はソラくんだったわ」
「お疲れ様~。ある程度予想は出来てたけど、やっぱり空だったんだね」
「分かっていたなら教えてくれれば良かったのに」
「不確定だったし、そっちに気を取られちゃうかもって思ったからさ」

 その答えを聞くとモモ先輩は軽くため息をついた。

「まぁいいわ。こうして、やる事もしっかりやって無事にソラくんも連れ戻せたしね」
「そうそう! 一件落着だよ~」

 そう二人はやり切った感じを出しているけれど、林原さんは浮かない顔をしていて。それを気になったのかコノが尋ねる。

「どうかしましたか?」
「……迷惑をかけまいと離れたのに、結果的に他の人や森の魔獣達に迷惑をかけてしまった。どう謝れば良いか……」
「林原さん……」
「だいじょーぶ。もう魔獣達は戻れるし、狩りの人達の件だってカバーしてる。それで十分じゃないかな」
「そう、だろうか」
「うんうん。そんなに気になるならカバーしてくれた三人にお礼言うだけで良いと思うよ。それに、君は先が短いんだから気にし過ぎず前を向いた方がいいよ~」
「……わかった」

 重りを下ろしたように息を吐くと、僕達に向き直って。

「改めてありがとう」

 表情に差はあまりないけれど、少なからず穏やかな感じだった。僕達は頷いてそのお礼を受け取る。

「これでもうだいじょーぶだね。いやー、臨時収入も入って最高だね~」
「え、お金貰ってるんですか?」
「そりゃ当然でしょ。依頼だもん」

 当たり前でしょと顔がそう悠然と語っていた。確かにそうなのだけど、何だかマッチポンプ的な気がして。

「……」

 林原さんも同じ気持ちらしく複雑な顔つきになっていた。

「それよりも、疲れてるでしょ。立ち話もここまでにして部屋で休みなよ~」

 そう言われるとさっきまでの疲れがどっと押し寄せてきた。早く横になりたい。

「ねぇその事なんだけど、ソラくんはどうしよう。今は、コノハが部屋を使ってるから」
「だったら、ちょっと狭くなるかもだけど優羽くんの部屋を一時的に使えば良いんじゃない?」

 全員から僕へと視線が集まる。

「もしあれなら、あたしと一緒に――」
「なんなら、ハヤシバラさんが使っていた部屋ですし、コノがユウワさんの部屋に移るというのは――」


「僕は大丈夫ですよ。それに、男同士の方が落ち着けると想いますし」

 二人の提案に被せるようにそう肯定しておく。

「いいのか? だが、もし暴走したら」
「……アヤメさん、何か抑えられるマギアとかありますか?」
「うーん、ごめんなさい。まだ霊に効果あるのはそのマギアだけなんだ~。もしあれなら、寝る時とか万が一の時にそれを使うって感じはどうかな?」

 やはりアヤメさんとはいえ、霊関連は難しいらしい。それならロストソードの必要性がないしね。

「わかりました。じゃあそれでいきましょう」
「本当に、大丈夫か?」
「はい。だいじょーぶ、です」
「ありがとう」

 話がついて僕達はそれぞれ疲労感をたずさえて、それを解消すべく部屋へと入った。



 しばらくしてから僕達はアオを除いて皆で夕食をし、それからお風呂に入り、就寝の時間となった。
「随分、寝心地良さそうなベッドだな」
「あはは……ですね」

 ぬいぐるみひしめくベッドにそう言われる。

「でも、林原さん本当に良いんですか? 敷布団はあるとはいえ、そこで」
「問題ない。流石にそこまで迷惑をかけられない。それに、そこのぬいぐるみ達にも歓迎されないだろうしな」
「そ、そんな事は……」

 林原さんは、アヤメさんが持っていた敷布団を床に敷いてそこで寝る事になった。

「それじゃあ電気消すぞ」
「は、はい」

 パチっと明かりが消える。僕はベッドに腰掛けて、薄っすらと布団に横になる林原さんも確認する。

「じゃあ頼めるか」
「はい」

 僕はコノから受け取ったゲーム機型のマギアで魔法のロープを林原さんに放った。たちまち彼の身体を束縛する。

「苦しくないですか?」
「ああ、大丈夫だ」

 声も普通な感じで、そこまでキツイ感じでは無さそうだった。少し安心する。
 それから僕はベッドに身体を預けてぬいぐるみに埋もれた。

「……あの、もしかして。ウルブの村で同じ部屋にいた時って、あそこで寝てなかったんですか?」

 いつも僕が先に寝ていたし、夜に目が覚めた時、いつと部屋に林原さんはいなかった。

「ああ。今回と同じだ。だから外で一夜を過ごしていた」
「その……怖くないんですか? 霊とはいえ」
「もう慣れている。それに、霊だしな」

 平然とした様子でいるのだけど、本当に凄いと思った。エルフの村で過ごしたのだけど、やはりまだ文明的な生活に適応しているので、想像も出来ない。

「凄い……ですね」
「そうでもない。それに意外と開放感があって良いものだぞ。魔獣はいるけどな」
「……僕には無理そうです」
「ふっ……そうか」

 そこから会話が止まり静かになる。けれど、僕はあまり眠気がなく、林原さんもまだ起きている様子でいて。

「……なぁ。良ければでいいんだが」
「はい」

 そう林原さんは少し言いづらそうにしながら話しかけてきて、タメを作ってから続きを口にする。

「ミズアと君との関係を教えてくれないか?」
「僕とアオの……?」
「ああ。彼女からは多少は君との事を聞いていたが、詳しくは知らなくてな。君達の事をもっと知りたいと思ったんだ。彼女を救えるのは君だが、一応、俺が未練を持つ人間だからな」
「……わかりました」

 僕はモモ先輩と同じように教える。僕達の出会いから、彼女を追うように自ら飛び降りてこの世界で再会するまで。その間、林原さんは静かに聞き届けてくれた。

「……という事で今に至ります」
「話してくれてありがとう。二人の関係はよく分かった」

 長く話していたので少し喉が渇いてしまい、唾を大きく飲み込んだ。

「俺と同じで君も自ら命を絶ったんだな」
「……じゃあ林原さんも」
「ああ」

 感情の起伏のない肯定だったけれど、その衝撃も相まって胸が痛んだ。彼がそうしていたなんて、正直想像していなかった。

「ロストソードの使い手の全員……そういう過去を持ってるんですね」
「そうだ。そういう人間が呼ばれているんだ、この世界にな」
「その……聞いてもいいですか?」

 正直、冷静で強い林原がどうしてと気になってしまった。自分が話したからじゃないけど、尋ねるハードルは下がっていて。

「構わない」

 林原さんはちょっと間を置いてから、言葉を繋いでくれる。

「……彼女がいたんだ、年下の。ただ、その子は……平たくいうとメンヘラ的でな。彼女は俺に依存して俺もまた依存していた。……その時の俺は、彼女に引っ張られるようにメンタルがおかしくなっていたんだ」

 平静を務めているのだけど、やはりそういった過去だからか、言葉の節々が震えていた。

「一緒にいればいるほど徐々に精神が蝕まれて苦しくなっていった。それがエスカレートしていって最終的に彼女から頼まれたんだ。生きるのが苦しいから一緒に死んでと。永遠に一緒にいようと」
「……」
「ま、それでこの世界に来たんだ。……永遠じゃなかったな」

 その話に出てきた彼女さん、それはどうしてもあの人と結びつけてしまう。

「あの……その彼女さんって何だか……」
「愛理に似ている、だろ? 俺も驚いた、彼女程ではないが依存体質の女の子にまた依存されるなんてな」
「だから……未練を?」
「ああ。同じ過ちを繰り返したくなかった。だから本当に感謝している。おかげで愛理も俺も救われた。本当にありがとう」
「い、いえ」

 口調はいつにもまして柔らかさがあって。確かな喜びが伝わってきて、僕も嬉しくなった。

「……だがまだ一人、ミズアが過去に囚われている」
「はい」
「……日景くん。何度も言うが、ミズアを救えるのは君だけだ。だが、何か協力出来ることがあれば遠慮せず言ってくれ。全力でサポートする」
「……ありがとうございます」

 その言葉だけでとても勇気になる。

「俺は、君達の未練が断ち切れるのを願っている」
「……」

 そこで会話は終わり、夜の静かさが蘇り次第に微睡みの中へと誘われた。近くに林原さんがいると思うと、夜の寂しさが薄れてすぐに眠気に身を委ねられて。すぐに意識は夢の中へと吸い込まれた。
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