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ロストソードの使い手編

七十六話 コノハと桃奈

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「……という事があったんです」
「ふーん、なるほどね」

 僕達はイシリスの街に向かう空飛ぶゴンドラの中にいた。座っている両隣には僕を挟み込むような形でコノとモモ先輩がいて、向かい側にサグルさんがいる。

「だから、そろそろ機嫌を直して欲しいんですけども」

 右側からは圧倒的な負のオーラが漂っている。誤解を解くため、街に着く間に今までの出来事をモモ先輩に話していた。しかし、終えても不機嫌さは変わらず、なんならさらに悪くなった気もする。

「ユーぽんがとっても頑張っていたんだってよくわかったし、話を聞いていてより好きになったわ」
「す、好きって……」

 険しい顔で好意を伝えられてなんて反応すればいいのかわからない。

「けれど、その子の勇者って何?」
「さ、さっきも言いましたけど、コノを守るっていう……」
「本当にそれだけ? さっきはいかにも親密そうに身体を密着させていたけど?」

 逃さないといった感じにモモ先輩が身体をくっつけてきて、顔もすぐそばで鋭く尖らせた視線で突き刺してくる。

「な、仲は良いけど……恋愛的なあれじゃあなくて。ね、ねぇコノ?」
「はい、今はコノを守ってくれる勇者様です」

 コノに救いを求めると、それが伝わったのか上手く答えてくれる。

「でも、コノはユウワさんの事大好きで、いつか恋人なりたいって思ってますよ」
「ちょっ……!」
「へー? やっぱりとーっても仲が良いみたいね」

 口元は笑っているが目はギラギラとさせている。目元のハートマークもドス黒く輝いていて。

「ふふん、エルフの村では一緒に寝てましたから、すっごく仲良しですよ!」
「こ、コノ!?」

 味方だと思っていたら背後から撃たれまくる。まるで天から叩き落されたような気持ちだ。
 もしかして対抗意識を持っているのだろうか。振り返ると朗らかな表情ではいるものの、少し怖さがある。さらに、追い打ちをかけるように僕の左腕を抱きしめてきた。胸の柔らかさに包まれた意識を持っていかれそうになる。

「今から殴って回復させ殴って回復させ痛めつける、無限地獄を始めるわね」
「なにそれ怖い!」

 右腕をモモ先輩の両手でがっしり掴まれる。相当な握力でぎりぎりと痛む。

「だ、駄目ですよ。いくらお友達でもユウワさんを傷つけるのは許しません」
「くっ……言っておくけどあたしの方が先に愛を伝えたのよ。そして、その愛でユーぽんを守っているの。守られるあんたとは格が違うわ」
「恋に順番なんてありません。それに、コノだって守られるだけの存在になるつもりはないですから」

 今度は僕を挟んで二人が火花を散らす。コノは静かにモモ先輩は苛烈に。

「サ、サグルさん……」
「いやー最高の景色だなー」

 身動き取れず、僕はサグルさんに助けを求めるも、彼は逃げるように視線を逸らして窓を眺め出した。ひどい。

「むむむ……」
「ぐぐぐ……」
「ふ、二人共一旦落ち着いて……」

 感動の旅立ちと再会をしたというのに、どうしてこんな事になってしまったのか。

「コノはせっかくの始まりなんだから笑顔、笑顔。モモ先輩もようやく会えたんですから、もっと喜びましょうよ」
「そ、そう……ですよね」
「まぁ……そうね。ようやく会えたのだし……色々話すこともあるし……」

 助かった。意外にもその呼びかけに二人は冷静になってくれ、互いに僕からすっと離れる。すると途端に気まずい静かな空気が流れた。ゴンドラは街まで後半分という位置にある。

「そ、そうだ。モモ先輩、皆は元気にしていますか? やっぱり凄く心配かけましたよね?」
「そうね、あたしもソラくんそうだけれど、何よりミズちゃんが憔悴するくらい心配していたわ」
「あ、アオがそんなに……」
「自分のせいだって、責任を感じちゃってね。寝る間も惜しんでユーぽんを探していたわ。その姿は痛々しくて見ていられなかった」
「……っ」

 胸が苦しくなる。僕があの時にアオの近くにいれば……いや、駄目だ。それを思ってしまえばホノカとの時間を否定することになる。それはできない。早く帰って無事を伝えて謝る、それだけが僕に出来ることで。

「でも、連れ去られて二日後ぐらいだったかしら、アヤメさんからユーぽんが生きてるって教えてもらったのよ。神様から連絡がきたみたいよ」
「よ、良かった……です」
「神様とお話だなんて、物語みたいで凄いです」

 ホッと胸を撫で下ろした。きっとあの神木から見守ってくれていたのだろう。果物を落としてくれたのもそれが理由で。

「それならアオは――」
「あの子は今、部屋に閉じこもっているの」
「へ?」

 意味がわからなかった。話の流れを断ち切るようなその答えは一瞬処理出来なくて。

「自分のせいでユーぽんを危険な目に遭わせたって、凄く思い詰めているみたいなのよ。それで食事もあまり摂らなくなって、次第に部屋から出なくなって。今もその状態なの」
「そんな……」

 視界が揺れて座っているのに足元がぐらつく感覚に襲われる。モモ先輩の表情も暗くてその深刻さがひしひしと伝わってきた。
「け、けど、ユーぽんに会えば元気が出るはずよ。だから、大丈夫……だと思うわ」
「そう、だといいですけど」

 モモ先輩も同じ気持ちなのか、どうしてもそれでまるっと解決するように思えなかった。

「おっ、街がはっきり見えてきたぞ、コノハ」
「うわぁー! もうスーパー凄いです!」

 いつの間にかコノとサグルさんは立ち上がって、窓に映る街を食い入るように眺めていた。

「……呑気でいいわね。こっちは悩みだらけだっていうのに」
「あ、あはは……そ、そういえば、林原さんはどうですか? あの時、どこかに行っちゃいまさたけど」
「……実は言わないといけないことがあるの」

 恨めしそうに向こうの二人を睨んでいたモモ先輩は、僕の質問を聞いた途端に再び不穏な雰囲気を帯びて話し出す。

「は、はい」
「ソラくんはね……」
「……っ!」

 そのモモ先輩の言葉を耳にした瞬間は、全てがスローモーションになった。それで動く口元も声も、全てはっきりと認知できて。衝撃が走り脳天が激しく揺さぶられた。

「霊なのよ」
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