ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

文字の大きさ
上 下
61 / 100
ホノカ編

六十一話 前日

しおりを挟む
 コノが求める関係性を見つけてから翌日。儀式の前日ということで学び舎は休みとなり、僕はいつもよりはゆっくりと起床した。しかし、祈り手の二人は練習のため早めに起きていたらしく、食事のために部屋へ行くともう二人は食べ終わっていて、机には僕の分だけ置いてある。部屋にはコノとホノカだけで、オボロさんの姿はなかった。

「おはようございます、ユウワさん」
「遅ようだな」
「おはよう二人共」

 彼女達は祈り手の服を着用して、隣り合って座っている。二人は奥の方にいて、食事は机の手前にあった。まだ温かさもあり早速食べることにする。

「もう練習は終わったの?」
「いや、あと少しある。ちょっとした確認が残っててな」
「お昼頃には終わる感じです」

 いつもの朝食で、僕は二人と話しながら箸を進める。

「そんでさ、練習終わったら三人で村を回りたいって話をしてたんだ」
「明日は忙しいので、ゆっくり村を皆で見たいなって。どうですか、ユウワさん」
「いいけど……僕もいていいの?」

 二人きりの方が思い出作りとしてもいいのではないだろうか。ノイズにはなりたくない。

「問題ない。練習で結構一緒にいたし、コノの安全性もあるしな」
「コノも三人がいいです。ユウワさん、お願いできますか?」
「二人がそう言うなら……わかったよ」

 しかし、ゆっくりと歩いて村を回るというのは初日ぶりだ。二週間前の事だけど、凄く前のような気がする。

「やった! ありがとうございます」

 コノは弾けるような笑顔を見せた。

「そ、そんなに……?」
「コノ的にはホノカとユウワさん、好きと好きが組み合わさって最高なんです!」
「す、好き……」

 ホノカは何気なく発したその言葉に反応するも、多分深い意味はないのだろう。

「ホノカ、どうかした?」
「へ? な、何でもない」
「何か顔赤いけど」

 小首をかしげて、気になったのかコノはホノカの顔を覗き込む。

「き、気のせいだ気のせい」
「何か最近様子がおかしくない? 何か悩みがあるなら聞くよ?」

 流石に、幼馴染の変化には薄々気づいているようで、訝しげな視線をホノカに送る。至近距離でそうされた彼女はたじろいで、さらに怪しさが倍増していた。

「て、てかそろそろ時間だろ。もう行かなきゃな」
「あ、逃げた」

 わかりやすく話を強引に変えて立ち上がると、コノから離れドアの方に。

「早く来いよー」
「ふふっ相変わらずだなー」

 そう言い残して部屋から出る彼女をコノは微笑ましく見送った。

「ねぇユウワさん。わかりましたか?」

 ホノカが遠くに行った足音を聞き届けてからコノは何を指すのか曖昧な質問をしてくる。でも、言葉にせずとも理解できて。

「まぁ……ね」
「流石、ユウワさんです。えへへ、気づいてくれるって信じてました」
「それで答えなんだけど――」
「待ってください、それは儀式後に聞かせて欲しいです」

 まだ決まりきっていない、そう言おうとするもその前にコノの頼み事が差し込まれる。

「後って……もし駄目だったら」
「それなら仕方ないです。未練を断ち切る関係性にこれ以上はないので」
「……そっか」

 不安そうな様子は微塵も感じさせず、覚悟が決まりきっている。そのエメラルドの瞳には、さっきのホノカとは真反対の現実が明瞭に映されていた。

「それじゃ行ってきますね」
「うん、いってらっしゃい」
「はい!」

 話が終わり、再び無邪気な顔つきに戻るとコノはまた練習のために部屋を出ていってしまう。一気に静寂に包まれ、それに心の適応にできないまま、一人残された僕は朝食を黙々と胃へと入れていった。

「ごちそうさまでした」

 食べ終わりそう言葉を発するも返ってくる声も同じようにごちそうさまを言う声もない。少し前ならそれが当たり前だった。それからこっちに来てそうじゃなくなって。そして最近になってそこにはいつもコノの声があった。

「……」

 コノの勇者となる、それはつまり今までの日々のように常に近くに彼女がいるということで。そんな日常は悪くないと思っている自分がいた。
 僕は二人が戻ってくるまで、また勇者となるか考え続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

処理中です...