ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ホノカ編

四十五話 眠い授業

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「うぅ……」
「ヒカゲさん、起きて下さい」

 身体をゆさゆさとされて、浅い所に浮かんでいた意識が浮上させられる。もう少し長く深い場所にいたくて、また戻そうと抵抗するも、何度も呼びかけられ、ついには目を開けた。

「おはようございます!」
「お、おはよう……」

 朝から凄く元気でいるけど、こちらはそのテンションについていけず、少し落ち着いて欲しかった。
 すでにコノは着替えていて、また祈り手の服を着用して髪もしっかり整えられている。

「眠そうですね」
「あんまり寝れなかったんだ」

 コノのせいでねとここの中で付け加えておく。何だか無理矢理起こされたからか、多少苛立ってしまっていて、深呼吸して気分を落ち着かせる。

「大丈夫ですか? コノとしてももっと寝て欲しいんですけど、今日は学び舎に行かなきゃなので……」
「わかってる、すぐに準備するよ」

 白い霧に包まれた頭を強引に働かせて立ち上がる。服を脱いで着るという行為は面倒なため、制服を出現させ身にまとう。

「わわっ凄いです。今のは魔法ですか?」
「どうだろう? 魔法かはわかんないけど、特殊な施しはかかってるんだ」

 簡易的な支度を済ませた後に、居間に行くとすでに食事が並べられていた。

「いただきます」

 四人で席についてから朝ご飯を食べる。正直、食欲はほぼないので気乗りしないが、残すわけにもいかず胃へと詰め込んだ。

「ごちそうさまでした」

 食べ終えてから、コノは部屋に戻り外に出るための本格的に身支度を整え出し、押し入れから出した緑の手提げバッグに、教科書みたいな大きめの本を何冊か入れた。

「二人共お弁当作ったからね」

 部屋に来たイチョウさんが風呂敷に包んだ弁当箱を渡してくれる。

「ありがとーお母さん」
「ありがとうございます」

 僕はリュックにそれを入れて背負った。それと暇つぶしのために小説を借りる。これで準備は完了だ。

「じゃあ行きましょう」

 僕たちは家から出て学び舎のある北側へと向かった。朝の冷たい空気に肌が触れると、ぼんやりとしていた意識が多少ましになってきた。

「今更だけど僕も行っていいのかな」
「大丈夫ですよ。祈り手の護衛以上に大切な事はないってわかっていると思うので」

 神木の前に来るとそこに巫女服姿で、赤色の手さげバッグを持つホノカがいて、僕たちを見るなり駆け寄ってくる。

「おはよう! 一緒に行こうぜ」
「おはようホノカ。行こう行こうー」

 そういう事でホノカも加わり三人で向かった。同じ生徒らしい人も五人くらい見かける。どの子も二人よりも一回り年下の姿をしていた。

「よし、じゃあ空飛ぶからな。コノは準備良いか?」
「い、いいよ。覚悟決めたから」

 学び舎のある木のマンションの前に到着。二階に行くためにコノとホノカは呪文を唱え、空飛ぶ魔法を発動させた。

「……よ、よし! は、早く入ろう」

 コノは魔法を解除すると即座に扉を開けて中へと入った。僕とホノカは顔を見合わせ苦笑する。

「あっ、強い人だ!」
「遊びに来たんですか?」
「やっぱり一緒にいる」

 玄関には昨日の朝に出会った子供たちがいて、ちょうど靴を脱いでいたところだった。

「ヒカゲさんはね、コノの護衛をしてくれてるんだよ。だから遊びに来たんじゃなくてお仕事してるんだー」
「へーやっぱりすげぇ強いんだなー」
「かっこいいです」
「恋人みたい」

 最後の女の子の言葉に、ホノカがビクッと反応した。さらに何か圧力のある視線を送られる。
 会話はそこで途切れて、靴を玄関に揃えてから三人は慌ただしく左の部屋に入っていく。
 廊下が置くまで真っ直ぐ伸びていて、その間に左に三つの部屋、反対にも同じ部屋数があった。

「オレ達の教室はここだ」

 左側の一番奥の扉を開けると、そこは八人くらいの人が入れそうな広い畳の部屋だった。前方に先生用らしい机と青の座布団があり、手前の方には二人分の赤い座布団とそれぞれ二つ机が置いてある。
 ホノカは左コノが右に隣り合って座った。僕も二人の後方に座ろうとすると後ろの扉から人が入ってきて。

「おーす。あっヒカゲくんこれ敷いて」
「え……サグルさん?」
「コノ達、上級クラスの先生はサグにぃなんです」

 聞き覚えのある気だるげな声だと思ったらそれはサグルさんで。まさかの彼が先生だった。僕は持ってきてくれた青の座布団の上に座る。

「この学び舎は、下級、中級、上級の三つのクラスに分かれているんですよ。今年からコノ達は上級になったんです」
「あの子達は?」
「学び始めたばかりですから下級クラスですね」

 前方の先生であるサグルさんは、机に本を広げる。それと同じように二人も出すと。

「そんじゃ、始めるぞー」

 その彼のかけ声と共に授業が始まった。最初の科目は国語らしく、言葉を学んだり小説の長文読解なんかをしていた。コノは得意そうに発表をしているけど、ホノカは苦手そうに頭を抱えている。
 何だか日本でやっていた事と似ているから、つい過去のことを思い出してしまう。それを振り払い小説を取り出してそっちに意識を向けた。
 三十分くらいで国語の授業が終了して、十分の休憩を挟んで、次は数学の勉強がスタートする。
 こっちでも、小難しい公式の名前が出てくるけど、聞いたこともないものばかりで、遠くから見ている立場からは何が何だかわからなかった。半分呪文のように聞こえて、眠気が復活してくる。何とかそれに耐えて本のページをめくるも、たまに同じ行を繰り返し読んでしまって進みが遅くなった
 この科目に関してはホノカかが得意そうに問題を解いているけど、コノはずっと首を傾げていた。

「じゃあ、三限目は魔法についてだ」
「やったー。もう数字は見たくない」
「オレは長い文章を読みたくない」
 魔法の授業になると、二人のテンションが高まった。僕もそれには興味があり、少し授業の方に聞き耳を立てる。好奇心によって眠気に対抗できそうだ。
「じゃあまずは水の上級魔法の呪文を覚えてもらう。二人共その教科書に書いてあるの読んでみてくれ」
「シ流雨ノミス激イ水ヲリウ海カ……」
「シ流雨ノミス激イ水ヲリウ海カ……」
「シ流雨ノミス激イ水ヲリウ海カ……」

 やばい、やばい、やば過ぎる。二人が覚えようと意味不明な単語の羅列何度も発声するため、段々とそれによって睡眠へと誘われてしまう。
 そういえば、睡眠魔法とかあるのだろうか。いや、そんな事より何とか意識を保たないと。

「……」

 もう小説に何が書いてあるのかわからなくなってくる。頭もかくかくしてきて、心地の良い深い水の中に半分意識が落ちていく。

「シ流雨ノミス激イ……」
「シ流雨ノミス……」

 とうとう限界がきて、僕は抵抗する力を緩めて目を瞑り遠ざかる呪文の声に誘われるように意識を手放した。
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