上 下
45 / 85
ホノカ編

四十五話 眠い授業

しおりを挟む
「うぅ……」
「ヒカゲさん、起きて下さい」

 身体をゆさゆさとされて、浅い所に浮かんでいた意識が浮上させられる。もう少し長く深い場所にいたくて、また戻そうと抵抗するも、何度も呼びかけられ、ついには目を開けた。

「おはようございます!」
「お、おはよう……」

 朝から凄く元気でいるけど、こちらはそのテンションについていけず、少し落ち着いて欲しかった。
 すでにコノは着替えていて、また祈り手の服を着用して髪もしっかり整えられている。

「眠そうですね」
「あんまり寝れなかったんだ」

 コノのせいでねとここの中で付け加えておく。何だか無理矢理起こされたからか、多少苛立ってしまっていて、深呼吸して気分を落ち着かせる。

「大丈夫ですか? コノとしてももっと寝て欲しいんですけど、今日は学び舎に行かなきゃなので……」
「わかってる、すぐに準備するよ」

 白い霧に包まれた頭を強引に働かせて立ち上がる。服を脱いで着るという行為は面倒なため、制服を出現させ身にまとう。

「わわっ凄いです。今のは魔法ですか?」
「どうだろう? 魔法かはわかんないけど、特殊な施しはかかってるんだ」

 簡易的な支度を済ませた後に、居間に行くとすでに食事が並べられていた。

「いただきます」

 四人で席についてから朝ご飯を食べる。正直、食欲はほぼないので気乗りしないが、残すわけにもいかず胃へと詰め込んだ。

「ごちそうさまでした」

 食べ終えてから、コノは部屋に戻り外に出るための本格的に身支度を整え出し、押し入れから出した緑の手提げバッグに、教科書みたいな大きめの本を何冊か入れた。

「二人共お弁当作ったからね」

 部屋に来たイチョウさんが風呂敷に包んだ弁当箱を渡してくれる。

「ありがとーお母さん」
「ありがとうございます」

 僕はリュックにそれを入れて背負った。それと暇つぶしのために小説を借りる。これで準備は完了だ。

「じゃあ行きましょう」

 僕たちは家から出て学び舎のある北側へと向かった。朝の冷たい空気に肌が触れると、ぼんやりとしていた意識が多少ましになってきた。

「今更だけど僕も行っていいのかな」
「大丈夫ですよ。祈り手の護衛以上に大切な事はないってわかっていると思うので」

 神木の前に来るとそこに巫女服姿で、赤色の手さげバッグを持つホノカがいて、僕たちを見るなり駆け寄ってくる。

「おはよう! 一緒に行こうぜ」
「おはようホノカ。行こう行こうー」

 そういう事でホノカも加わり三人で向かった。同じ生徒らしい人も五人くらい見かける。どの子も二人よりも一回り年下の姿をしていた。

「よし、じゃあ空飛ぶからな。コノは準備良いか?」
「い、いいよ。覚悟決めたから」

 学び舎のある木のマンションの前に到着。二階に行くためにコノとホノカは呪文を唱え、空飛ぶ魔法を発動させた。

「……よ、よし! は、早く入ろう」

 コノは魔法を解除すると即座に扉を開けて中へと入った。僕とホノカは顔を見合わせ苦笑する。

「あっ、強い人だ!」
「遊びに来たんですか?」
「やっぱり一緒にいる」

 玄関には昨日の朝に出会った子供たちがいて、ちょうど靴を脱いでいたところだった。

「ヒカゲさんはね、コノの護衛をしてくれてるんだよ。だから遊びに来たんじゃなくてお仕事してるんだー」
「へーやっぱりすげぇ強いんだなー」
「かっこいいです」
「恋人みたい」

 最後の女の子の言葉に、ホノカがビクッと反応した。さらに何か圧力のある視線を送られる。
 会話はそこで途切れて、靴を玄関に揃えてから三人は慌ただしく左の部屋に入っていく。
 廊下が置くまで真っ直ぐ伸びていて、その間に左に三つの部屋、反対にも同じ部屋数があった。

「オレ達の教室はここだ」

 左側の一番奥の扉を開けると、そこは八人くらいの人が入れそうな広い畳の部屋だった。前方に先生用らしい机と青の座布団があり、手前の方には二人分の赤い座布団とそれぞれ二つ机が置いてある。
 ホノカは左コノが右に隣り合って座った。僕も二人の後方に座ろうとすると後ろの扉から人が入ってきて。

「おーす。あっヒカゲくんこれ敷いて」
「え……サグルさん?」
「コノ達、上級クラスの先生はサグにぃなんです」

 聞き覚えのある気だるげな声だと思ったらそれはサグルさんで。まさかの彼が先生だった。僕は持ってきてくれた青の座布団の上に座る。

「この学び舎は、下級、中級、上級の三つのクラスに分かれているんですよ。今年からコノ達は上級になったんです」
「あの子達は?」
「学び始めたばかりですから下級クラスですね」

 前方の先生であるサグルさんは、机に本を広げる。それと同じように二人も出すと。

「そんじゃ、始めるぞー」

 その彼のかけ声と共に授業が始まった。最初の科目は国語らしく、言葉を学んだり小説の長文読解なんかをしていた。コノは得意そうに発表をしているけど、ホノカは苦手そうに頭を抱えている。
 何だか日本でやっていた事と似ているから、つい過去のことを思い出してしまう。それを振り払い小説を取り出してそっちに意識を向けた。
 三十分くらいで国語の授業が終了して、十分の休憩を挟んで、次は数学の勉強がスタートする。
 こっちでも、小難しい公式の名前が出てくるけど、聞いたこともないものばかりで、遠くから見ている立場からは何が何だかわからなかった。半分呪文のように聞こえて、眠気が復活してくる。何とかそれに耐えて本のページをめくるも、たまに同じ行を繰り返し読んでしまって進みが遅くなった
 この科目に関してはホノカかが得意そうに問題を解いているけど、コノはずっと首を傾げていた。

「じゃあ、三限目は魔法についてだ」
「やったー。もう数字は見たくない」
「オレは長い文章を読みたくない」
 魔法の授業になると、二人のテンションが高まった。僕もそれには興味があり、少し授業の方に聞き耳を立てる。好奇心によって眠気に対抗できそうだ。
「じゃあまずは水の上級魔法の呪文を覚えてもらう。二人共その教科書に書いてあるの読んでみてくれ」
「シ流雨ノミス激イ水ヲリウ海カ……」
「シ流雨ノミス激イ水ヲリウ海カ……」
「シ流雨ノミス激イ水ヲリウ海カ……」

 やばい、やばい、やば過ぎる。二人が覚えようと意味不明な単語の羅列何度も発声するため、段々とそれによって睡眠へと誘われてしまう。
 そういえば、睡眠魔法とかあるのだろうか。いや、そんな事より何とか意識を保たないと。

「……」

 もう小説に何が書いてあるのかわからなくなってくる。頭もかくかくしてきて、心地の良い深い水の中に半分意識が落ちていく。

「シ流雨ノミス激イ……」
「シ流雨ノミス……」

 とうとう限界がきて、僕は抵抗する力を緩めて目を瞑り遠ざかる呪文の声に誘われるように意識を手放した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...