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ホノカ編
三十八話 良い人
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「まだ状況を把握しきれていないんだけど、何があったか教えてくれるかい?」
リーフさんは甘える娘を胸の中に入れたまま、僕にそう尋ねてくる。
ウルフェンがコノのことを襲いに来たことから、ホノカが追いかけて行ってしまったことまでを伝えた。
「なるほど、また娘を助けてもらったみたいだね。二度も救ってもらって感謝の言葉もないよ」
「いえ。それよりも村の人が心配です。助けに行かないと」
「その心配はないと思うよ。ただのウルフェンくらいなら余裕さ」
憂慮している感じは一切なく、飄々としている。ホノカも行っていたけどこの村の人達はそんなに強いのだろうか。まぁ、ホノカはめちゃくちゃ強かったけど。
「コノハ、疲れただろうしそこの部屋でゆっくりしていきなよ。忙しい時とかにはこの部屋で仮眠とか取ったりしているから、布団もあるんだ。もちろん綺麗にしてるから」
「わかった。ありがとう、お父さん」
「ヒカゲくんも彼女の側にいて欲しい。一応、怪我人が出るだろうし色々準備しなきゃなんでね」
僕たちが通されたのは、さっきリーフさんが出てきた部屋だった。コノの部屋と構造はほとんど一緒の和室で、奥の方に横向きに布団が広げてあった。部屋を囲うように棚が並べられていて、そこには色々と小難しそうな本や色んな種類の葉っぱに魔石がずっしりと敷き詰められていた。真ん中には小さな四角のテーブルがあり、その上には本が五冊ほど乱雑に置かれている。畳の上には着物とかが脱ぎ捨てられていたり、杖のようなものが二本ほど転がり落ちていたり、何だかプライベート感のある部屋だった。
「すっごい散らかってるなー」
コノは覚束ない足取りで足の踏み場を見つけながら布団の上にたどり着く。そして、そこから、部屋を見渡しその散らかりように少し眉をひそめる。僕はこの散らかりようには耐性があり、ひょいひょいと足場を見つけて軽々と奥まで行く。
「あの……ヒカゲさん」
コノは本を横に置いて、ぬいぐるみを抱きながら布団に横になると、僕の方に手を伸ばしてくる。
「どうしたの?」
「その、ずっと手を握っていて欲しいんです。もし眠ってしまったら、離していいので……」
「いいよ」
僕は畳に座り了承するとニコリと微笑んだ。握った彼女の柔らかい手は少し冷たくなっていた。
コノは身体を横向きに変えて、僕の方を見てくる。
「ヒカゲさん、守ってくれてありがとうございました。それと、足を引っ張っちゃってごめんなさい」
自分の事でいっぱいだろうに、彼女は申し訳無さそうにしていて、その健気さに心が軽く絞られたような感覚を覚える。
「仕方ないよ。とても怖かっただろうし」
「でも……もう少しコノが強かったら二人の負担を減らせました」
コノは僕の手を少し強く握る。それに、僕はもう片方の手をその上に置いた。
「僕もホノカも負担だなんて思っていないよ。守りたくて守ってるんだから、気にすることはないよ」
彼女の小さな手を僕の挟んでいた両手で温めるように包みこんだ。
「……どうして会ったばかりのコノに、こんな優しくしてくれるんですか?」
「優しいわけじゃい。ただ危険な目に合ってる子を見捨てられる勇気は僕には無いだけだよ。それにこれからもお世話になるし……それと」
「それと?」
少し恥ずかしいセリフを口にしそうになって、止める。でも、本音ではあるし彼女は少し期待の視線を送りつつその後の言葉を待っていて。
「勇者って言われたし期待に応えなきゃだしね」
僕は冗談めかしてそう言うと、するとクスクスと笑ってくれた。
「ふふっ、ヒカゲさんはやっぱり良い人です」
「……そんなことないよ」
「ヒカゲさんはそう思わなくても、コノにとっては良い人で勇者様で……好きな方なんです」
彼女から送られる純度の高い好意的な言葉で、僕の否定の言葉が出せなくなった。
「コノも、ヒカゲさんに……好きになって……ふぁ」
コノはふわぁと少し眠そうにあくびをする。
「眠そうだね」
「はい……少し寝ます……ね」
その問いかけにコクリと頷いてから、再び僕の手をぎゅっと強く握って、横を向いたまま目を閉じる。
「……すぅ……すぅ」
そうしてしばらくすると、小さな寝息を立て始めた。無防備な寝顔は可愛らしく、口元も緩んで安心しきった表情でいて、ほっとする。
「……僕が良い人か」
彼女はそう褒めてくれるけど、やっぱり幼馴染を苦しめた僕がそんな人間だとは思えない。他にも駄目な所はあるし、今は表面を見ているからそう言えるだけだ。
「はぁ……」
冷静な思考が戻ってくる。長く過ごせばいつか、僕という存在が大したものじゃないと気づいてしまうだろう。少し怖くなってくる、彼女を失望させてしまうのを。そして、温度の低い態度を向けられる想像すると、覚悟していてもその落差でメンタルにヒビが入ってしまう。
冗談っぽく言ったけど後悔してくる。期待になんか応えられるはずないのに。
「ヒカゲくん、少しいいかい?」
「何でしょうか?」
部屋のふすまが開けられると、リーフさんに呼びかけられる。
「村長が君と話したいみたいなんだ。玄関にいるから来てくれないか?」
「わかりました」
僕はコノの手を布団の上にゆっくり戻して、一度ぐっすり寝ているのを確認してから部屋を出た。
リーフさんは甘える娘を胸の中に入れたまま、僕にそう尋ねてくる。
ウルフェンがコノのことを襲いに来たことから、ホノカが追いかけて行ってしまったことまでを伝えた。
「なるほど、また娘を助けてもらったみたいだね。二度も救ってもらって感謝の言葉もないよ」
「いえ。それよりも村の人が心配です。助けに行かないと」
「その心配はないと思うよ。ただのウルフェンくらいなら余裕さ」
憂慮している感じは一切なく、飄々としている。ホノカも行っていたけどこの村の人達はそんなに強いのだろうか。まぁ、ホノカはめちゃくちゃ強かったけど。
「コノハ、疲れただろうしそこの部屋でゆっくりしていきなよ。忙しい時とかにはこの部屋で仮眠とか取ったりしているから、布団もあるんだ。もちろん綺麗にしてるから」
「わかった。ありがとう、お父さん」
「ヒカゲくんも彼女の側にいて欲しい。一応、怪我人が出るだろうし色々準備しなきゃなんでね」
僕たちが通されたのは、さっきリーフさんが出てきた部屋だった。コノの部屋と構造はほとんど一緒の和室で、奥の方に横向きに布団が広げてあった。部屋を囲うように棚が並べられていて、そこには色々と小難しそうな本や色んな種類の葉っぱに魔石がずっしりと敷き詰められていた。真ん中には小さな四角のテーブルがあり、その上には本が五冊ほど乱雑に置かれている。畳の上には着物とかが脱ぎ捨てられていたり、杖のようなものが二本ほど転がり落ちていたり、何だかプライベート感のある部屋だった。
「すっごい散らかってるなー」
コノは覚束ない足取りで足の踏み場を見つけながら布団の上にたどり着く。そして、そこから、部屋を見渡しその散らかりように少し眉をひそめる。僕はこの散らかりようには耐性があり、ひょいひょいと足場を見つけて軽々と奥まで行く。
「あの……ヒカゲさん」
コノは本を横に置いて、ぬいぐるみを抱きながら布団に横になると、僕の方に手を伸ばしてくる。
「どうしたの?」
「その、ずっと手を握っていて欲しいんです。もし眠ってしまったら、離していいので……」
「いいよ」
僕は畳に座り了承するとニコリと微笑んだ。握った彼女の柔らかい手は少し冷たくなっていた。
コノは身体を横向きに変えて、僕の方を見てくる。
「ヒカゲさん、守ってくれてありがとうございました。それと、足を引っ張っちゃってごめんなさい」
自分の事でいっぱいだろうに、彼女は申し訳無さそうにしていて、その健気さに心が軽く絞られたような感覚を覚える。
「仕方ないよ。とても怖かっただろうし」
「でも……もう少しコノが強かったら二人の負担を減らせました」
コノは僕の手を少し強く握る。それに、僕はもう片方の手をその上に置いた。
「僕もホノカも負担だなんて思っていないよ。守りたくて守ってるんだから、気にすることはないよ」
彼女の小さな手を僕の挟んでいた両手で温めるように包みこんだ。
「……どうして会ったばかりのコノに、こんな優しくしてくれるんですか?」
「優しいわけじゃい。ただ危険な目に合ってる子を見捨てられる勇気は僕には無いだけだよ。それにこれからもお世話になるし……それと」
「それと?」
少し恥ずかしいセリフを口にしそうになって、止める。でも、本音ではあるし彼女は少し期待の視線を送りつつその後の言葉を待っていて。
「勇者って言われたし期待に応えなきゃだしね」
僕は冗談めかしてそう言うと、するとクスクスと笑ってくれた。
「ふふっ、ヒカゲさんはやっぱり良い人です」
「……そんなことないよ」
「ヒカゲさんはそう思わなくても、コノにとっては良い人で勇者様で……好きな方なんです」
彼女から送られる純度の高い好意的な言葉で、僕の否定の言葉が出せなくなった。
「コノも、ヒカゲさんに……好きになって……ふぁ」
コノはふわぁと少し眠そうにあくびをする。
「眠そうだね」
「はい……少し寝ます……ね」
その問いかけにコクリと頷いてから、再び僕の手をぎゅっと強く握って、横を向いたまま目を閉じる。
「……すぅ……すぅ」
そうしてしばらくすると、小さな寝息を立て始めた。無防備な寝顔は可愛らしく、口元も緩んで安心しきった表情でいて、ほっとする。
「……僕が良い人か」
彼女はそう褒めてくれるけど、やっぱり幼馴染を苦しめた僕がそんな人間だとは思えない。他にも駄目な所はあるし、今は表面を見ているからそう言えるだけだ。
「はぁ……」
冷静な思考が戻ってくる。長く過ごせばいつか、僕という存在が大したものじゃないと気づいてしまうだろう。少し怖くなってくる、彼女を失望させてしまうのを。そして、温度の低い態度を向けられる想像すると、覚悟していてもその落差でメンタルにヒビが入ってしまう。
冗談っぽく言ったけど後悔してくる。期待になんか応えられるはずないのに。
「ヒカゲくん、少しいいかい?」
「何でしょうか?」
部屋のふすまが開けられると、リーフさんに呼びかけられる。
「村長が君と話したいみたいなんだ。玄関にいるから来てくれないか?」
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