ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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レイア編

八話 アリアケ・レイア

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「やっほーレイアちゃん」

 部屋に入るなりアオは一気に距離を縮めようとにこやかに挨拶する。僕もそれに続いた。

「さっきも言ったが二人はレイアに会いに来てくれたんだ」
「……どうして? それに最近兄さんは人に会って欲しそうじゃなかったのに」
「あー、それはだな」

 レイアちゃんは小首をかしげる。カイトさんが言葉を詰まらせると、瞳にはどこか警戒の色を帯び始めた。

「えっとね~、私達はお兄さんのお友達なんだけど、あなたのことを聞いて会ってみたくなったんだよ~」

 それに気づいたのかアオはレイアちゃんのすぐそばに寄って、目線を合わせるため身体を屈めて訳を伝える。

「あれ、あのミズアさん?」
「えっ!」
「ロストソードで街を救った人ですよね」

 名声が知れ渡っているなと感心してしまうけど、それどころじゃない。ロストソード使いを知ってるということはそこから死のことを察知されてしまう。

「ああいや、その人はミズアって人じゃないよ。その、アオイって言うんだ。似ているけどね」

 話を合わせるよう目配せすると、不満げではあるものの首肯した。

「そうなんだ~。ただの一般人だよ~」
「そっか。兄さんにそんなすごい友達なんているわけないよね」

 何とか誤魔化せたようで一安心。カイトさんは傷ついた顔をしていた。

「……なぁユウワくん。本当のこと言ってびっくりさせたいんだけど」
「だ、駄目ですっ」

 何を言っているんだこの人は。

「それでどうかな? 私達とお話してくれないかな」
「……いいですけど、兄さんは出ていって」
「そ、そんなぁ」

 レイアちゃんの冷ややかな言葉の刃がカイトさんを斬り裂いた。それにやられて、意気消沈と語るように肩を落として部屋から出ていってしまう。気の毒だった。

「……お兄さんは好きじゃない?」
「別に嫌いってわけじゃ……ちょっとメンドイいけど」
「あはは、気持ちはわかるけどさ。でもいつかはお兄さんに素直な思いを伝えてあげてね」

 優しく囁いてそう諭す。それがすごくお姉さん的な振る舞いで、大人になったんだなと物寂しさが忍び寄ってきた。

「……うん」
「ふふっ。いい子いい子」

 優しく髪を撫でて上げると、レイアちゃんはくすぐったそうに目を細めた。何だかいい感じの雰囲気になっていて、入り込む隙が見つからず棒立ちで眺めるだけになってしまう。アオはもう彼女の心を掴んだようで。

「ってそんな所で突っ立っていないでこっちきなよ~」
「は、はい。えっと僕はユウワ。よろしくね」
「ちょっと固くない~? もっと元気良くしないと怖がらしちゃうよ?」

 無茶言わないで欲しい。昔ならまだしも、成長してからはそんな事はできないでいるんだ。

「大丈夫です。私も同じだから」
「同じって?」
「私、あんまり表情を表に出せなくて冷たいって思われて、友達もいないから」

 その告白に僕とアオは見合わせ同じことを思ったのか微笑した。

「じゃあ、私達と今からお友達になろうよ!」
「お友達に? 本当に? でも会ったばかりだし……」

 レイアちゃんは不安と期待が入り交じった視線を僕とアオを交互に向けてくる。

「時間なんて関係ないよっ。私はレイアちゃんと仲良くなりたいの」
「僕も友達少ないから、なってくれると嬉しいな」
「う、うん! お友達……えへへ」

 雪解けみたいに純粋な笑顔が溢れた。それは僕の好きな姿で。

「あの、私二人にお願いしたいことがあるん……ですけど」
「タメ口でだーいじょぶだよ」
「二人と一緒に色々な場所に行ってみたい」

 思わぬ提案にまた顔を見合わせる。レイアちゃんには待ってもらって、小声で作戦会議を始めた。

「アオどうしようか。外に出たら自分が霊って気づいちゃうかも」
「そうだけど……もしかしたらこれが未練なら叶えてあげたいし」
「でも、霊って気づかないまま終わらせてもいいのかな」

 あーだこーだと悩むも答えは出そうになくて。そうしていると、椅子から立ち上がったレイアちゃんはアオの服の裾を掴むと。

「お願い。私、お友達になれた証が欲しい」
「うぅ、それはずるいよ~! わ、私カイトさんに外に出るって言ってくる!」
「え、ちょっ」

 可愛さに負けたアオは部屋から飛び出していった。レイアちゃんの二勝目だ。

「やっぱり迷惑だったかな……」

 罪悪感からか目を伏せる。この子は、幼い頃のアオに良く似ていた。だから、昔の自分をトレースして行動に移す。

「そんな事ないよ。逆に友達として頼ってくれて嬉しい。だから、安心して甘えて」

 信じてもらえるよう不格好に笑いかけた。レイアちゃんは呼応するように相好を崩す。

「ねぇ、ユウワくんとアオイちゃんはどういう関係なの?」
「幼馴染だよ。本当に小さい時からずっと一緒だった。でも、三年くらい離れていて、最近再会したんだけど、大人っぽくなってて、しかも救世主とか言われてたりして、何だか遠くにいった……気が……」

 ついそう口に出してしまう。その過ちに気づいた時にはもう遅かった。

「いや、今のはなんと言うかその」

 リカバリーをしようとするも言葉が出てこなかった。僕は無力感に苛まれながらレイアちゃんの反応を見るしかなくて。

「大丈夫だよ」
「へ?」
「レイアちゃん! お兄さんから許可取ってきたよ!」

 大丈夫、その意味を問おうとするもアオが帰ってきてしまい、質問する間が遮られる。

「本当? アオイちゃんありがとう」
「ふっふっふ。お兄さんに願いを叶えてあげたら優しくしてくれるかもって言ったら、快くオーケー出してくれたよ」
「それでいいのか……?」

 神経を尖らせないといけない案件なのに、その場の勢いで動きすぎている気がして、非常に不安だ。

「さぁ行こう!」
「おー!」

 さっき会ったばかりとは思えないほど息ぴったりに二人は外へ。その姿は姉妹のようだった。

「……」

 そして展開についていけず、ポツンと部屋に残される。

「ユウ、早く来なよ~!」

 考えてもどうにもならないと思い、彼女達を追いかけた。
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