上 下
4 / 92
プロローグ

四話 イシリスの街

しおりを挟む
 休み終えてから上体を起こすと、少し遠くの前方の空の少し上に巨大な島が見えた。

「あれがイシリスの街?」
「そう。もうちょっと歩けばゴンドラに着くから、頑張ろ」

 アオはぴょんと立ち上がると服についた草を払って、僕に手を差し伸べてくる。素直に手を取って僕も起き上がった。そして繋いだまま足を動かし移動を開始。

「ええと……ここにもヤバイのが?」
「いないけど、何が起こるかわからないからね。でもだーいじょぶ。私がユウを守るから」
「あ、ありがと」

 何だか嬉しいような情けないような気持ちになる。
 そんな風に近くで守られながら、草原の上を進んでいった。度々、魔獣を見かけるのだけど、それらは白や黒色をしていて、その姿は牛だったり豚だったり、鹿だったりと少し違いはあるものの前の世界でも見覚えのあるものばかり。もちろんの襲われることもなかった。

「もしかしてゴンドラってあれ?」
「そう結構近いでしょ」

 十分もかからず島の端が見えてくるのと同時に人工的な物体をはっきり視認できた。それは丸っぽい長方形のフォルムで濃い青色をしている。大きな窓がついていて、中は数十人くらい乗れそうな広さだ。地面に置かれていて、上にあるはずの動くための網はなかった。そのゴンドラの少し離れた右隣には、同じくらいの大きさの擦り跡も残っている。

「これって動くの?」
「もちだよ。さぁ乗って」

 アオが右側面のドアに手をかざすと自動で開く。一緒に乗り込むと、今度はゴンドラの頭の方の窓をコツンと叩くと、ゲームで出てきそうな水色の丸い魔法陣が浮かび上がった。それがぐるぐると回りだすと、ゴンドラが浮かび上がりゆったりと動き出した。

「ま、まさか空を飛んでるの?」
「魔法があるんだから、空飛んでもおかしくないでしょ」
「そ、そうかもしれないけど」

 想像していても現実に起きて驚くのは仕方ないと思う。窓から下を眺めると、もうそこに地面は無くて、白い雲が広がっていた。高い所にいるという記憶からビルから飛び降りた瞬間を思い出してしまい、窓から顔を離した。

「気分悪くなっちゃった? ここ座って」
「う、うん」

 ゴンドラのお尻部分に座るスペースがあって、アオと一緒にそこへ腰を下ろした。

「ユウって高所恐怖症だったけ?」
「ううん、何でもないんだ。ちょっとここから落ちる想像をしただけで」
「あははっ、そういうことか~。でも安心してこのゴンドラは落ちたことがないんだよ」

 内部では揺れたり風の音がしたりすることはなかった。スイスイと飛び続けて、イシリスの街まで半分というところまで来る。

「空を飛ぶ魔法があるなら、乗らなくても自分で飛んで島に行くことはしないの?」
「空飛ぶ魔法はめっちゃ高度で魔力を使うし、それを維持し続けなきゃならなくて大変なんだって。しかも島と島は離れてるし長時間だから現実的じゃないの」
「燃費が悪いんだね」

 ひとえに魔法といってもちょちょいのちょいって感じじゃないみたいだ。

「昔にはそれが出来た超人がいたみたいだけど。でも、そんな選ばれた人しか無理。そんな時、ある人が誰でも行けるようにこれを作ったんだ。このゴンドラの内部には大量の魔石っていう魔力の源が入っていて、それを効率的に使う仕組みが施されてるの。それにさっき魔法陣が出たでしょ? 魔法って呪文が必要なんだけど、覚えるのがすっごく大変。だから、呪文で作られた魔法陣を刻印することで、体内にある魔力をちょっと流すだけで発動するようになってるんだ」
「……すごいイノベーションだね」

 ファンタジー世界でこの単語を使うとは思っていなかった。というか、あの魔法陣って文字で作られていたのか。

「ちなみに、その人は私の師匠なのです!」
「本当に?」

 そういえば、あのぬいぐるみを出したとき師匠お手製とか言っていた。

「しかも、街についたらまずはその人のマギア店に行くの。店の名前は『マリア』っていうんだ、可愛いよね」
「マギアって、魔法の機械だっけ。アイテムを補充しに?」
「ふっふっその店にはもう一つの姿があるのです。それはですね、私達ロストソードの使い手の拠点でもあるのでした~」

 そう言いながら、ロストソードを手に出してブンブンと左右に振り回した。
 そうこうしている内に前を見るともう街に近づきつつあって、後方を振り返るとさっきまでいた島は遠くにある。

「そろそろだよ」

 ぱっと見の街並みは、道路がコンクリートのようなもので綺麗に舗装されていて、様々な形の家々があり、人々の服装も色とりどりだった。
 街の中に入ってすぐにゴンドラは地面に着陸。ドアが再び開き僕達は外に出た。すると、ゴンドラはドアをひとりでに閉めるとそのまま元の場所に戻っていく。

「取り残されてる人を防ぐために片道になってるの。行きはその隣のゴンドラでね」

 隣接して同じくデザインのゴンドラがあった。それに、どうやらここはゴンドラの発着場のようで、様々な色のゴンドラが並んでいた。

「それじゃお店に行こう!」

 発着場には外に出るためのテーマパークに入るようなゲートがあって、窓口に黒色のスーツを着て白の丸い帽子を被ったお姉さんがいる。そこを通るのだけど、ペコリとお辞儀されるだけで止められることはなく通過した。

「ここって利用する時に料金がかかるんだけど、私達は特別に無料で使えるんだっ」
「そんな特別待遇を受けるほど重要なお仕事なんだね……」

 より重圧がかかってくる。若干逃げたくなるのだけど、その先はないので圧に立ち向かうしかなかった。
 街の中はそこそこの人通りがあって、ファンタジーの世界というよりも現代に近い街並みだった。真ん中に大きな道があり、左右の両端に三人分くらいの幅の道がある。真ん中には、馬車やメカメカしい人形の人力車、バスのような乗り物が行き交っていて、両端の道に歩行者が闊歩していた。周囲を見回すと建物のほとんどが民家のようなのだけど、西洋風な家や和風の家、モダンな四角い家なんかもある。すれ違う人は、普通な人だけじゃなくて、獣の耳を持つテーリオ族や耳が尖っているエルフのような人もいた。服装も、冒険者や戦士のような服の人もいれば、アオの言う通り洋服や和服何かを着ているような人もいて、中にはコスプレのようなメイド服の女の子がいた。
 感想を一言で表すならそれは。

「カオスだ」
「すごいでしょ。私達と同じ世界から向こうから来た人の影響で、色んなのがあるんだよ。もちろん私もその一人。この国の王様が新しいもの好きでどんどん取り入れちゃうんだよ~」

 僕達は左側の歩道を歩いてお店に向かっていた。田舎から都会に上京した人のようにキョロキョロしながら。前からゴミ袋を抱えたおばあさんが歩いてくるのだけど、その人はパワードスーツみたいなのを着用していて、軽々持っていた。

「そうそう、イシリスの街について教えておくね」

 彼女によると、この街は東西南北でエリアが分かれているらしく、セントラルパークという広い公園を中心にして、今歩いている西は住宅エリア。南は商業エリアでイシリス商店街があって、北に城がそびえ立っている。東には、テーマパークやスポーツのためのスタジアム、そしてシンボルのイシリスタワーがあるとか。

「師匠のお店はこの西エリアにあるの。ここを曲がるよ」

 大通りから外れ細い小路に入る。道は砂利で周辺の建物は古めかしいものばかりで手入れされておらず、ほとんどが空き家のようだ。ここに入った途端に、活気は失われていて、別の世界にすら思えてくる。

「ここだよ」

 しばらく道なりに真っ直ぐ進んでいると開けた場所に出て、そこにはポツンと紫の三角屋根の大きな家がそこにはあった。広々とした空間にあって、その家がもう一軒立ちそう。
 近づくとドアは木製で、その横には『マリア』という看板が置いてあった。

「ただいまー師匠」
「おかえり、ミズア」

 店内はウッド内装のカフェのような感じの落ち着いてオシャレな雰囲気だった。棚が沢山あってその上に色々なマギアが売りに出されている。奥にはカウンターがあってそこに女性が一人いて。

「連れてきたよ」
「こ、こんにちは」

 師匠と呼ばれたその人は二十代後半くらいの美人だった。紫の長い髪を伸ばして、同じ色の綺麗なアーモンド型の瞳をしている。大きな胸を腕で抱えていて、何より特筆すべき点は白衣を着用していることだった。その出で立ちは師匠というより博士だ。

「待っていたわ日景優羽くん。私はアヤメよ。よろしくね」

 アヤメさんは全てを見透かしたように目を細めて微笑
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

異世界のリサイクルガチャスキルで伝説作ります!?~無能領主の開拓記~

AKISIRO
ファンタジー
ガルフ・ライクドは領主である父親の死後、領地を受け継ぐ事になった。 だがそこには問題があり。 まず、食料が枯渇した事、武具がない事、国に税金を納めていない事。冒険者ギルドの怠慢等。建物の老朽化問題。 ガルフは何も知識がない状態で、無能領主として問題を解決しなくてはいけなかった。 この世界の住民は1人につき1つのスキルが与えられる。 ガルフのスキルはリサイクルガチャという意味不明の物で使用方法が分からなかった。 領地が自分の物になった事で、いらないものをどう処理しようかと考えた時、リサイクルガチャが発動する。 それは、物をリサイクルしてガチャ券を得るという物だ。 ガチャからはS・A・B・C・Dランクの種類が。 武器、道具、アイテム、食料、人間、モンスター等々が出現していき。それ等を利用して、領地の再開拓を始めるのだが。 隣の領地の侵略、魔王軍の活性化等、問題が発生し。 ガルフの苦難は続いていき。 武器を握ると性格に問題が発生するガルフ。 馬鹿にされて育った領主の息子の復讐劇が開幕する。 ※他サイト様にても投稿しています。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...