7 / 8
第七話 8月23日
しおりを挟む
屋台の色がブルーハワイのように、真っ青だった。俺は親方を見つめている。のっぺらぼうの顔が習字の紙みたいにくしゃくしゃとなった。時々、その一部が何故か笑い顔になる。目が離せない。
手元でタコヤキを転がそうとする。けれど、上手く回らず、タコヤキは潰れ、タコの足がはみ出した。それを手元で確認しながら、でも顔は親方から離せない。そっと静かに、のっぺらぼうに浮かんだ顔は、予感に反して随分と若いものだった。その時、俺はこの夢は今までの作り物とは違って、ずっと昔の修行を再現したものだと知った。過去と鬼ごっこをしているような夢。
何度も何度も転がそうとし、失敗し、ぼろぼろのタコヤキが出来た。
堪らず捨てようとすると、親方が手でその一個を摘んで、口にした。何時の間にかあの時の親方だった。髪も目も鼻も口もある。
「いいぞ、これ」
修行中の俺は舞い上がって、その続きを聞き逃していた。何か大切だったはずなのに、記憶の底に沈み、ヘドロまみれに埋もれてしまった。今度こそ忘れないように
「美味しかった、ですか?」
「いんや、不味い」
親方はそれでも穏やかな細い目のまま
「でも、いいぞ、これ。いいか? ここからが肝心なんだが
ゆるりと日が差している。夢から覚めると、無性に喉が乾いた。洗面所に行くと、充血していて、目が赤くなっている。思いっきり顔を洗い、水をコップに並々と注いで、一気に口に流し込む。
ここからが肝心なんだが、嬉しいんだよ。可愛い愛弟子が、必死になって俺のために作り上げたタコヤキって。
いいか! 美味しいか不味いかって言うのは、大した問題じゃない。大切なのは嬉しいかどうかってことだ。味は舌先と脳ミソの先っちょで決まっちまう。でもな、嬉しいってのは、もうちょっと奥の、胃袋の底のそのまた奥から生まれるものなんだ。
夏休みの最後の宿題。自由研究が終わったかのような、清々しい気持ちだった。俺は、今の俺を、自然なものとして、受け入れた。俺は、変わった、のだろうか?
手元でタコヤキを転がそうとする。けれど、上手く回らず、タコヤキは潰れ、タコの足がはみ出した。それを手元で確認しながら、でも顔は親方から離せない。そっと静かに、のっぺらぼうに浮かんだ顔は、予感に反して随分と若いものだった。その時、俺はこの夢は今までの作り物とは違って、ずっと昔の修行を再現したものだと知った。過去と鬼ごっこをしているような夢。
何度も何度も転がそうとし、失敗し、ぼろぼろのタコヤキが出来た。
堪らず捨てようとすると、親方が手でその一個を摘んで、口にした。何時の間にかあの時の親方だった。髪も目も鼻も口もある。
「いいぞ、これ」
修行中の俺は舞い上がって、その続きを聞き逃していた。何か大切だったはずなのに、記憶の底に沈み、ヘドロまみれに埋もれてしまった。今度こそ忘れないように
「美味しかった、ですか?」
「いんや、不味い」
親方はそれでも穏やかな細い目のまま
「でも、いいぞ、これ。いいか? ここからが肝心なんだが
ゆるりと日が差している。夢から覚めると、無性に喉が乾いた。洗面所に行くと、充血していて、目が赤くなっている。思いっきり顔を洗い、水をコップに並々と注いで、一気に口に流し込む。
ここからが肝心なんだが、嬉しいんだよ。可愛い愛弟子が、必死になって俺のために作り上げたタコヤキって。
いいか! 美味しいか不味いかって言うのは、大した問題じゃない。大切なのは嬉しいかどうかってことだ。味は舌先と脳ミソの先っちょで決まっちまう。でもな、嬉しいってのは、もうちょっと奥の、胃袋の底のそのまた奥から生まれるものなんだ。
夏休みの最後の宿題。自由研究が終わったかのような、清々しい気持ちだった。俺は、今の俺を、自然なものとして、受け入れた。俺は、変わった、のだろうか?
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
タイトルは最後に
月夜野 すみれ
ライト文芸
「歌のふる里」シリーズ、番外編です。
途中で出てくる美大の裕也サイドの話は「Silent Bells」という別の短編ですが、アルファポリスではこの話の最終話として投稿しています。
小夜と楸矢の境遇を長々と説明してますが、これは「歌のふる里」と「魂の還る惑星」を読んでなくても分かるように入れたものなので、読んで下さってる方は飛ばして下さい。
飛ばせるように塊にしてあります。
塊の中に新情報は入れてませんので飛ばしても問題ありません。
カクヨム、小説家になろう、pixivにも同じものを投稿しています(完結済みです)。
pixivは「タイトルは最後に」「Silent Bells」ともにファンタジー設定なし版です。
王子様な彼
nonnbirihimawari
ライト文芸
小学校のときからの腐れ縁、成瀬隆太郎。
――みおはおれのお姫さまだ。彼が言ったこの言葉がこの関係の始まり。
さてさて、王子様とお姫様の関係は?
翠碧色の虹
T.MONDEN
ライト文芸
虹は七色だと思っていた・・・不思議な少女に出逢うまでは・・・
---あらすじ---
虹の撮影に興味を持った主人公は、不思議な虹がよく現れる街の事を知り、撮影旅行に出かける。その街で、今までに見た事も無い不思議な「ふたつの虹」を持つ少女と出逢い、旅行の目的が大きく変わってゆく事に・・・。
虹は、どんな色に見えますか?
今までに無い特徴を持つ少女と、心揺られるほのぼの恋物語。
----------
↓「翠碧色の虹」登場人物紹介動画です☆
https://youtu.be/GYsJxMBn36w
↓小説本編紹介動画です♪
https://youtu.be/0WKqkkbhVN4
↓原作者のWebサイト
WebSite : ななついろひととき
http://nanatsuiro.my.coocan.jp/
ご注意/ご留意事項
この物語は、フィクション(作り話)となります。
世界、舞台、登場する人物(キャラクター)、組織、団体、地域は全て架空となります。
実在するものとは一切関係ございません。
本小説に、実在する商標や物と同名の商標や物が登場した場合、そのオリジナルの商標は、各社、各権利者様の商標、または登録商標となります。作中内の商標や物とは、一切関係ございません。
本小説で登場する人物(キャラクター)の台詞に関しては、それぞれの人物(キャラクター)の個人的な心境を表しているに過ぎず、実在する事柄に対して宛てたものではございません。また、洒落や冗談へのご理解を頂けますよう、お願いいたします。
本小説の著作権は当方「T.MONDEN」にあります。事前に権利者の許可無く、複製、転載、放送、配信を行わないよう、お願い申し上げます。
本小説は、下記小説投稿サイト様にて重複投稿(マルチ投稿)を行っております。
pixiv 様
小説投稿サイト「カクヨム」 様
小説家になろう 様
星空文庫 様
エブリスタ 様
暁~小説投稿サイト~ 様
その他、サイト様(下記URLに記載)
http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm
十分ご注意/ご留意願います。
ひとりごと
栗須帳(くりす・とばり)
ライト文芸
名士の家に嫁いだ母さんは、お世辞にも幸せだったとは言えない人生だった。でも母さんは言った。「これが私の選択だから」と。こんな人生私は嫌だ、そう言って家を出た姉さんと私。それぞれの道を選んだ私たちの人生は、母さんの死によって再び交差した。
表紙、Irisさんのイラストから生まれた物語です。
全4話です。
猫スタ募集中!(=^・・^=)
五十鈴りく
ライト文芸
僕には動物と話せるという特技がある。この特技をいかして、猫カフェをオープンすることにした。というわけで、一緒に働いてくれる猫スタッフを募集すると、噂を聞きつけた猫たちが僕のもとにやってくる。僕はそんな猫たちからここへ来た経緯を聞くのだけれど――
※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる