タコヤキ

えんがわ

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第七話 8月23日

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 屋台の色がブルーハワイのように、真っ青だった。俺は親方を見つめている。のっぺらぼうの顔が習字の紙みたいにくしゃくしゃとなった。時々、その一部が何故か笑い顔になる。目が離せない。
 手元でタコヤキを転がそうとする。けれど、上手く回らず、タコヤキは潰れ、タコの足がはみ出した。それを手元で確認しながら、でも顔は親方から離せない。そっと静かに、のっぺらぼうに浮かんだ顔は、予感に反して随分と若いものだった。その時、俺はこの夢は今までの作り物とは違って、ずっと昔の修行を再現したものだと知った。過去と鬼ごっこをしているような夢。
 何度も何度も転がそうとし、失敗し、ぼろぼろのタコヤキが出来た。
 堪らず捨てようとすると、親方が手でその一個を摘んで、口にした。何時の間にかあの時の親方だった。髪も目も鼻も口もある。
「いいぞ、これ」
 修行中の俺は舞い上がって、その続きを聞き逃していた。何か大切だったはずなのに、記憶の底に沈み、ヘドロまみれに埋もれてしまった。今度こそ忘れないように
「美味しかった、ですか?」
「いんや、不味い」
 親方はそれでも穏やかな細い目のまま
「でも、いいぞ、これ。いいか? ここからが肝心なんだが

 ゆるりと日が差している。夢から覚めると、無性に喉が乾いた。洗面所に行くと、充血していて、目が赤くなっている。思いっきり顔を洗い、水をコップに並々と注いで、一気に口に流し込む。

 ここからが肝心なんだが、嬉しいんだよ。可愛い愛弟子が、必死になって俺のために作り上げたタコヤキって。
 いいか! 美味しいか不味いかって言うのは、大した問題じゃない。大切なのは嬉しいかどうかってことだ。味は舌先と脳ミソの先っちょで決まっちまう。でもな、嬉しいってのは、もうちょっと奥の、胃袋の底のそのまた奥から生まれるものなんだ。

 夏休みの最後の宿題。自由研究が終わったかのような、清々しい気持ちだった。俺は、今の俺を、自然なものとして、受け入れた。俺は、変わった、のだろうか?
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