上 下
6 / 30

6.悪役令嬢は次のステップに進みたいようです

しおりを挟む
先日のお茶会以降、メリアとの仲は確実に縮まったと思う。

元々アリシアとメリアの関係は、レイネスを挟んでのものだった。
婚約者と浮気相手。
そんな二人が仲良くなれるはずもなかった。

しかし、アリシアが婚約破棄されたことによって、その関係が崩れた。
それぞれの立場が二人の仲を阻んでいたが、もうそれはない。
そうなると、後は互いの気持ちだけである。

メリアからしたら、婚約破棄をしたからといって、すぐにアリシアに対する苦手意識が変わることはないだろう。

だがアリシアは違う。
メリアへの愛に目覚めたアリシアにとって、メリアは憎むべき相手ではない。

お茶会の間も、公爵令嬢として、最低限の振る舞いは維持していたものの、全身から溢れでる親愛の情は、到底隠しきれるものではなかった。

そしてそれは、アリシアと二人きりでお茶会をしたメリアにも伝わったことだろう。
小言ばかり言われていたという立場が、メリアの中に、アリシアに対する苦手意識を形成していた。
だが、実際に同じ時を共有し、言葉を交わすことで、本当はアリシアが話しやすい相手だと感じたのかもしれない。

家格の差があるので、砕けた関係とまではいかないが、数日もすると、メリアは緊張せずに挨拶をしてくれるようになった。
初めてメリアから挨拶をされた日は、あまりの衝撃に気を失いそうになったものだ。

「おはようございます、アリシア様」

「おはようございます、メリアさん」

ああ、今日も素晴らしい一日が始まる。
朝から惚けているアリシア。
だが、思考の一部は、視界の隅でこちらに鋭い視線を向けている人物へと割かれていた。

アリシアたちがそのまま雑談に花を咲かせようというところで、その人物がいつものように横槍を入れる。

「メリア、少しいいか」

「あっ、殿下。
アリシア様、申し訳ありません」

「いえ、気になさらないで」

メリアはペコリと頭を下げると、レイネスの元へと向かっていった。
その様子を目で追うと、自然とレイネスと視線が交わる。

婚約破棄をされたとはいえ、相手はこの国の第一王子だ。
失礼のないよう会釈をしたが、レイネスは鼻を鳴らすと、すぐにアリシアから視線を逸らした。
このところメリアとアリシアの仲が良いことが気に入らないのだろうか。
たとえそうだとしても、この態度はいかがなものかと思うが。

「マジラプ」では、メリアの視点で物語が紡がれる。
そのため、方向性の違いこそあれ、攻略キャラたちは皆、善良な性格をしている。
レイネスも口調こそ王族故のぶっきらぼうな感じはあるが、基本的に優しい人物として描かれていた。

しかし、こうしてアリシアとしてレイネスを見ると、その感想はガラリと変わる。
レイネスのために人生を捧げてきたというのに、突然の婚約破棄。
会釈をしても返してくれない。
そして、目の前で堂々と他の女性との仲を深めようとする。

アリシアからしたらたまったものではないだろう。
乱心くらいするというものだ。

もし、アリシアがメリアではなく、レイネス推しだったとしたら、原作通りにメリアをいじめていたかもしれない。
そう考えると、背中が冷たくなる。

だが、レイネス推しだろうとメリア推しだろうと、本質は変わらなかった気もする。
結局のところ、誰かと結ばれるためには、誰かと闘わなければならないのだから。

メリアと結ばれるために、レイネスと闘う。
レイネスだけではない。
他の攻略キャラも同様だ。
誰にもメリアを渡すわけにはいかない。

アリシアとして、しばらくこの世界を観察していたが、今のところメリアへの好感度が高いのはレイネスだけに思える。
勿論、ゲームのように数値として好感度が見えるわけではないので、確実ではないが、メリアへ積極的に声をかけてくるのはレイネスくらいのものだ。
当面の要注意人物はレイネスだけだろう。

このところ、教室でアリシアがメリアとの会話という安らぎの時間を過ごそうとすると、必ずレイネスが邪魔をしてくる。
文句の一つでもいってやりたいところだが、相手は腐っても第一王子。
浅慮な行動は、己の身を滅ぼしかねない。

仕方がないので、断腸の思いで引き下がっているのだが、いつまでも遠慮しているわけにはいかない。
もしこのままメリアがレイネスエンドを迎えでもしたら目も当てられない。

現状に満足せず、次なる行動に移行する必要がありそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...