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12.新たな生命
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アミーラと目が合う。
……私はいったい何をやっているのだろうか。
こんなにアミーラが苦しんでいるというのに。
すぐにでも自分をぶん殴ってやりたい衝動にかられるが、それは後でもできる。
今は少しでもアミーラの心の支えにならなくては。
「アミーラ、大丈夫だ。私がいるからな!」
私はアミーラの手を力強く握った。
情けない夫であり、父になるにも未熟な私ではあるが、今だけは張りぼての威厳でもアミーラの力になりたい。
「はいっ、……っうぐっあっっ!」
「子宮口もかなり開いてきました。このままいってみましょう。
息を吸って、止めて、いきみます。はい吸って~、止めて~、いきんで!」
「くうぅぅぅぅぅっ!」
股座を覗き込むアルトの声に合わせて、顔を真っ赤にしながら力をいれるアミーラ。
いつも穏やかな彼女がこれほど必死な姿を見たことがない。
それだけ子供を産むということは大変なのだろう。
どこまでいっても本当の意味でアミーラの苦痛を理解することのできない私は、そのもどかしさを抱えながら手を握り締める。
「上手ですよ。もう一度いってみましょう。
吸って~、止めて~、いきんで!」
「ふくううぅぅぅぅぅっ!」
そんなやり取りが何度も何度も繰り返された。
初産は苦労することが多いと話には聞いていたが、まさかここまでとは。
既に私が寝室を訪れてから半刻が経過していた。
立ち会っているだけの私ですらはっきりと疲労を感じ始めている。
当事者であるアミーラの疲労は私の比ではないだろう。
「子宮口は全開で、もう頭も見えてきています。
後少しですよ、頑張りましょう」
「は、はい……」
アルトの励ましに懸命に応えるアミーラ。
私はメイドから受け取ったハンカチでアミーラの額の汗を拭った。
「次で最後にしましょう。吸って~、止めて~、いきんで!」
「うぅぅぅぅぅっ~~!」
「頑張れ、アミーラ!」
頑張れ、頑張れ。
精一杯の激励をアミーラに送る。
「頭が出ました。後少しです、アミーラ様!」
「はああああっ、はああああっ!」
アミーラの苦悶の声が寝室に響く。
そして――――。
「ンギャアッ! ンギャアッ!」
新たな命がそこに誕生した。
「おめでとうございます。元気なご息女様ですよ」
アルトはアミーラの胸元をはだけさせると、産まれたばかりの赤子をそっと抱かせた。
「ああっ……、愛しい私たちの子……」
息も絶え絶えなアミーラだったが、これまで見たどんなものよりも美しい笑顔で赤子を見つめていた。
「ありがとう、アミーラ! ありがとう……っ」
ふと温かいものが頬を伝っていることに気がついた。
侯爵家当主として人前で涙を流すなどあってはならない。
だがしかし、今だけは。
一人の男としてこの喜びに浸っていたかった。
……私はいったい何をやっているのだろうか。
こんなにアミーラが苦しんでいるというのに。
すぐにでも自分をぶん殴ってやりたい衝動にかられるが、それは後でもできる。
今は少しでもアミーラの心の支えにならなくては。
「アミーラ、大丈夫だ。私がいるからな!」
私はアミーラの手を力強く握った。
情けない夫であり、父になるにも未熟な私ではあるが、今だけは張りぼての威厳でもアミーラの力になりたい。
「はいっ、……っうぐっあっっ!」
「子宮口もかなり開いてきました。このままいってみましょう。
息を吸って、止めて、いきみます。はい吸って~、止めて~、いきんで!」
「くうぅぅぅぅぅっ!」
股座を覗き込むアルトの声に合わせて、顔を真っ赤にしながら力をいれるアミーラ。
いつも穏やかな彼女がこれほど必死な姿を見たことがない。
それだけ子供を産むということは大変なのだろう。
どこまでいっても本当の意味でアミーラの苦痛を理解することのできない私は、そのもどかしさを抱えながら手を握り締める。
「上手ですよ。もう一度いってみましょう。
吸って~、止めて~、いきんで!」
「ふくううぅぅぅぅぅっ!」
そんなやり取りが何度も何度も繰り返された。
初産は苦労することが多いと話には聞いていたが、まさかここまでとは。
既に私が寝室を訪れてから半刻が経過していた。
立ち会っているだけの私ですらはっきりと疲労を感じ始めている。
当事者であるアミーラの疲労は私の比ではないだろう。
「子宮口は全開で、もう頭も見えてきています。
後少しですよ、頑張りましょう」
「は、はい……」
アルトの励ましに懸命に応えるアミーラ。
私はメイドから受け取ったハンカチでアミーラの額の汗を拭った。
「次で最後にしましょう。吸って~、止めて~、いきんで!」
「うぅぅぅぅぅっ~~!」
「頑張れ、アミーラ!」
頑張れ、頑張れ。
精一杯の激励をアミーラに送る。
「頭が出ました。後少しです、アミーラ様!」
「はああああっ、はああああっ!」
アミーラの苦悶の声が寝室に響く。
そして――――。
「ンギャアッ! ンギャアッ!」
新たな命がそこに誕生した。
「おめでとうございます。元気なご息女様ですよ」
アルトはアミーラの胸元をはだけさせると、産まれたばかりの赤子をそっと抱かせた。
「ああっ……、愛しい私たちの子……」
息も絶え絶えなアミーラだったが、これまで見たどんなものよりも美しい笑顔で赤子を見つめていた。
「ありがとう、アミーラ! ありがとう……っ」
ふと温かいものが頬を伝っていることに気がついた。
侯爵家当主として人前で涙を流すなどあってはならない。
だがしかし、今だけは。
一人の男としてこの喜びに浸っていたかった。
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