【R18】降嫁した王女が出産するまで

黒うさぎ

文字の大きさ
上 下
3 / 13

3.めでたい報せ

しおりを挟む
 武の名門であるジュラーレ侯爵家ではあるが、当主の普段の仕事といえば、書斎に籠って書類と向き合う日々だ。
 毎日毎日机に向かっていると嫌気が差すこともあるが、これも当主の務めだ。
 民のため、家のため。
 手を抜くことなどできやしない。

 そんな代わり映えのしないある日のことだった。

 コンコン――。

「旦那様、メリーでございます」

「入れ」

「失礼いたします」

 一人のメイドが書斎を訪れた。
 掃除やお茶を汲む以外のことでメイドが書斎を訪れることは珍しい。
 私は書類から顔を上げメリーを迎え入れた。

「何かあったのか?」

 躾の行き届いた我が家のメイドたちであるが、入室してきたメリーの顔にはどこか焦りのようなものが見える。
 良からぬことが起こったのかと私は身構えた。

「先ほど奥方様が体調不良を訴えられ、寝室へと移動されました」

 ガタン――。

 私は思わず立ち上がった。

「アミーラは無事なのか?」

「現在アルト様が診察中でございます」

 アルト・ベラータ。
 アミーラが降嫁する際に共に侯爵家を訪れた宮廷医の男である。
 侯爵家にもお抱えの医師はいる。
 しかしアミーラが王族ということもあり、小さい頃からアミーラのことを知っている医師をつけたいと王城から打診があったため、無下にすることもできないので客人としてアルトを受け入れることになったのだ。

 アルトは若いが、宮廷医に任命されるだけありその腕は確かである。
 彼が診察しているというのであれば問題はないだろう。

「そうか。なら、診察が終わり次第アルト殿に書斎へ来るよう伝えておいてくれ」

「わかりました」

 メリーが退出したのを確認してから、私は椅子に座り直し天井を仰いだ。
 アミーラ。
 もし彼女に何かあったらと思うと気が気でない。
 様子を見に行きたい衝動に駆られるが、私が行ったところでアルトの診察の邪魔にしかならないだろう。
 今は信じて待つしかない。

 しばらくして。
 落ち着かない心を宥めながら仕事をしていると、再び書斎の扉が叩かれた。

「旦那様、アルトでございます」

「入ってくれ」

 ようやく訪れた待ち人を書斎へと招き入れる。
 私は応接用のソファーへと移動すると、対面の席にアルトを座らせた。
 アミーラの診察の報告に来たにしては、アルトの表情が妙に明るい。
 その事に疑問を抱きつつも、私はすぐに本題へと切り込んだ。

「それでアミーラの様子はどうなんだ?」

 私の問いを待っていたとばかりに、アルトは笑みを浮かべて答えた。

「旦那様、おめでとうございます。奥方様はご懐妊なされました」

 懐妊。
 それはつまり、アミーラの中に私たちの子供が宿ったということ。

「本当、なのか?」

「ええ。奥方様の体調不良はつわりによるもので間違いないでしょう」

 貴族にとって跡継ぎは何よりも重要である。
 男児であれば望ましいが、女児であったとしても婿養子を取ればいいので問題ない。
 だがそれよりも、アミーラが私との子を授かったということ自体が純粋に嬉しかった。
 世の父親たちはこのような気持ちを味わってきたのだろうか。

 とにかく、無事に出産を迎えられるように備えなくては。

「アルト殿、感謝する。これから大変になると思うが、どうか妻と子が無事に出産を越えられるよう力を貸して欲しい」

「当然でございます。そのために私は奥方様についてきたのですから」

 アルトの言葉は自信に満ちていた。
 正直いくら医師とはいえ、若い男がアミーラの近くにいるということに思うところがないわけではない。
 だがこうして力強い言葉を聞くと不安な気持ちが霧散するので現金なものだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...