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1.アミーラ
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アルタイル王国建国より五百年に渡る歴史の中で、最も古くから王家に仕えてきた家のひとつであるジュラーレ侯爵家。
私は病に倒れた父に代わり、若くして侯爵の地位を継いだ。
民のため、国のため、家のため。
幼い頃より次期領主として厳しい教育を施され、私自身皆の期待に応えられるよう己の研鑽に努力は惜しまなかった。
しかし、それでも経験に乏しい私がジュラーレ侯爵領を治めることなど容易な話ではなかった。
「旦那様」
そう、彼女が私の伴侶となってくれなければ。
アミーラ・ジュラーレ。
元の名をアミーラ・アルタイル。
アルタイル王国の第三王女である。
女神とまで謳われた現王妃譲りの美貌。
黄金色の髪は光を湛え、ほんのりと甘い香りを漂わせている。
大きな蒼色の瞳に、すっと通った鼻梁。
桃色の口唇は瑞々しい。
アミーラがジュラーレ侯爵家へと降嫁してくれたからこそ、私は他家に侮られることなく侯爵として振る舞うことができている。
王家という強力な後ろ楯ができたこともあるが、それ以上にアミーラ自身の存在が大きかった。
初めはただの政略結婚だった。
王家と、武の名門であるジュラーレ侯爵家との結び付きをより強固なものにするための結婚。
その要員としてアミーラは降嫁してきた。
私も貴族の家の生まれだ。
結婚というものが政治利用されることくらい理解していた。
自身の結婚を王家との結び付きに利用できたのだから、その成果に不満などなかった。
降嫁してきたアミーラは美しかった。
それこそ、結婚に愛だの恋だの持ち出すのは愚かなことだと考えていた私ですら、一目で心を奪われてしまうくらいに。
こんな人を伴侶として迎えられるなんて、なんて恵まれているのだろうと思った。
だが、アミーラの魅力はその容姿だけではなかったのだ。
王族として身につけてきた確かな教養。
穏やかでありながら、その内に折れることのない自分を内包する強さ。
民を思い、私の道を共に歩んでくれる誠実さ。
家同士によって取り決められた結婚だったが、私はすっかりアミーラという女性の虜になっていた。
「アミーラ、今日も君は美しい」
私はベッドに腰かける彼女の前に跪くと、手を取りその甲にそっと唇を落とす。
「旦那様も素敵ですわ」
「二人きりのときは名前で呼んでくれるのではなかったのかい?」
右手をアミーラの頬に添えながら、蒼い瞳を覗き込む。
すると頬を赤らめたアミーラはさっと視線を逸らすのだ。
「……ペルダン様は夜になると少し意地悪です」
完璧なアミーラも男女の関係においては年相応の娘と変わらない。
いつもの冷静なアミーラを知っているからこそ、その初心な反応が堪らなく愛おしい。
「アミーラは、意地悪な私は嫌いかい?」
「……そんなことありませんわ」
視線を戻したアミーラと再び見つめ合う。
ゆっくりと目を閉じたアミーラに、私は口づけをした。
私は病に倒れた父に代わり、若くして侯爵の地位を継いだ。
民のため、国のため、家のため。
幼い頃より次期領主として厳しい教育を施され、私自身皆の期待に応えられるよう己の研鑽に努力は惜しまなかった。
しかし、それでも経験に乏しい私がジュラーレ侯爵領を治めることなど容易な話ではなかった。
「旦那様」
そう、彼女が私の伴侶となってくれなければ。
アミーラ・ジュラーレ。
元の名をアミーラ・アルタイル。
アルタイル王国の第三王女である。
女神とまで謳われた現王妃譲りの美貌。
黄金色の髪は光を湛え、ほんのりと甘い香りを漂わせている。
大きな蒼色の瞳に、すっと通った鼻梁。
桃色の口唇は瑞々しい。
アミーラがジュラーレ侯爵家へと降嫁してくれたからこそ、私は他家に侮られることなく侯爵として振る舞うことができている。
王家という強力な後ろ楯ができたこともあるが、それ以上にアミーラ自身の存在が大きかった。
初めはただの政略結婚だった。
王家と、武の名門であるジュラーレ侯爵家との結び付きをより強固なものにするための結婚。
その要員としてアミーラは降嫁してきた。
私も貴族の家の生まれだ。
結婚というものが政治利用されることくらい理解していた。
自身の結婚を王家との結び付きに利用できたのだから、その成果に不満などなかった。
降嫁してきたアミーラは美しかった。
それこそ、結婚に愛だの恋だの持ち出すのは愚かなことだと考えていた私ですら、一目で心を奪われてしまうくらいに。
こんな人を伴侶として迎えられるなんて、なんて恵まれているのだろうと思った。
だが、アミーラの魅力はその容姿だけではなかったのだ。
王族として身につけてきた確かな教養。
穏やかでありながら、その内に折れることのない自分を内包する強さ。
民を思い、私の道を共に歩んでくれる誠実さ。
家同士によって取り決められた結婚だったが、私はすっかりアミーラという女性の虜になっていた。
「アミーラ、今日も君は美しい」
私はベッドに腰かける彼女の前に跪くと、手を取りその甲にそっと唇を落とす。
「旦那様も素敵ですわ」
「二人きりのときは名前で呼んでくれるのではなかったのかい?」
右手をアミーラの頬に添えながら、蒼い瞳を覗き込む。
すると頬を赤らめたアミーラはさっと視線を逸らすのだ。
「……ペルダン様は夜になると少し意地悪です」
完璧なアミーラも男女の関係においては年相応の娘と変わらない。
いつもの冷静なアミーラを知っているからこそ、その初心な反応が堪らなく愛おしい。
「アミーラは、意地悪な私は嫌いかい?」
「……そんなことありませんわ」
視線を戻したアミーラと再び見つめ合う。
ゆっくりと目を閉じたアミーラに、私は口づけをした。
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