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9.教会①
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「指名依頼?
俺たちにか?」
「はい。
といっても、あまり報酬のいい依頼ではないので、ギルド職員としては、おすすめはできないのですが」
そう言ってギルド職員が依頼書を見せてくれた。
「依頼主はミリーナ……。
教会の修道女か。
それで、内容は教会で面倒をみている孤児たちの世話、と」
「この手の依頼は時々あるのですが、報酬は少なく、ほとんどボランティアのようなものです。
子供たちのことを思えば、誰かにはやって貰いたい依頼ですが、仕事である以上、報酬の少ない依頼を冒険者に斡旋するわけにもいかなくて」
「なるほどな。
ところで、どうして俺たちへの指名依頼なんだ?
まだツェローシュクに来てから、教会に行ったこともないし、依頼主の修道女のことも知らないんだが」
「依頼主の話では、エリーゼさんとお知り合いみたいですよ。
先日お会いして、仲良くなったとか」
「そうなのか?」
「え、ええ。
そうね……」
なんだか、エリーゼの顔がひきつっている気がするが、気のせいか。
「断るようでしたら、依頼主へその旨をお伝えしておきますが、どうしますか?」
「いや、受けよう。
エリーゼの知り合いなら、報酬なんかなくても手伝ってやりたいし」
自由を尊ぶ冒険者といえども、人間関係は大切だ。
まだまだ知り合いの少ないツェローシュクで、せっかくできたエリーゼの交遊関係である。
大切にしていかなくてはならないだろう。
「エリーゼもそれでいいか?」
「そ、そうね」
「なんだ?
受けたくないのか?」
「いえ、そういうわけじゃないわ。
大丈夫よ、受けましょう」
「ならいいんだが」
どうにも様子のおかしいエリーゼだったが、本人が大丈夫だというのなら、大丈夫なのだろう。
あまり無理しているようなら依頼なんてさせるべきではないが、今回の依頼場所は街の中だ。
依頼中に体調を崩しても、相手方には迷惑をかけるかもしれないが、ダンジョン内で倒れて魔物に殺されてしまうというような、最悪の事態になることはないだろう。
エリーゼのことは気になるが、シンたちは指名依頼を受けることにした。
◇
翌日。
教会を訪れると、庭に賑やかな子供たちの声が響いていた。
「結構いるな」
「そうね。
みんな元気そう」
教会で孤児の面倒をみることは、珍しいことではないが、街によっては十分な援助がされておらず、食べるものに困っている場合もある。
幸いにも、子供たちの様子から察するにここの教会では、子供たちが飢えてしまっているというようなことはなさそうだ。
教会の正面に回り、中へと入る。
すると、礼拝堂に一人の修道女がいた。
「すまない、冒険者ギルドから指名依頼を受けてきた者なんだが」
シンの声に修道女が振り返った。
その顔を見た途端、エリーゼは己の悪い予想が当たってしまったことを嘆いた。
「まあ、ようこそいらっしゃいました。
私はここの教会にお仕えしている、ミリーナと申します」
エリーゼが広場で出会った修道女、ミリーナが頭を下げた。
「俺はシン。
こっちはエリーゼだ。
そういえば、エリーゼと知り合いらしいな」
「ええ。
先日、街の広場でお会いしまして。
そのときにすっかり意気投合しましたの。
そうですよね、エリーゼさん」
ニコリと笑うミリーナ。
「そうね……」
顔をひきつらせながら、エリーゼは答えた。
何が意気投合しました、だ。
一方的に、エリーゼが脅されて、辱しめられただけではないか。
まあ、あんな場所で、あんなことしていたエリーゼの自業自得かもしれないが。
「それでは早速で申し訳ないのですが、お二人には子供たちの遊び相手をしていただきたいのです。
私一人では、あまり相手にしてあげられなくて」
「遊び相手はいいんだが。
今この教会にはミリーナしかいないのか?」
「はい。
少し前まではもう少しいたのですが、故郷に帰ったり、体調を崩したりと色々重なってしまって。
結局私だけが残っているという状況です」
「一人で切り盛りしなきゃいけないなんて大変だな。
俺たちでよければ、今日だけといわず、また手伝いに来るよ」
「まあ、ありがとうございます!
それでは庭で子供たちが遊んでいるので、そちらに向かいましょう」
ミリーナのあとに続いて、協会の脇にあった庭へと出る。
「あっ!
ミリーナ様だ!」
すると、ミリーナを見つけた子供たちが一斉に駆け寄ってきて、ミリーナのことを取り囲んだ。
「今日は皆さんと遊んでくださる方々がいらっしゃいましたよ。
シンさんと、エリーゼさんです。
皆さん、ご挨拶しましょうね」
「「こんにちは!!」」
「こんにちは」
「よろしくね」
元気に挨拶をする子供たちに、思わず頬がほころぶ。
ミリーナと初めて広場で会ったときは、とんでもない修道女だと思ったが、こうして子供たちに慕われている姿をみると、ちゃんと修道女なのだな、と思う。
「それではすみませんが、みんなのことをよろしくお願いします。
私は中でやらなければならない仕事がありますので、もし何かありましたら、お声かけ下さい」
「ああ、わかった」
ペコリと頭を下げたミリーナが、教会の中へと戻っていく。
「シンお兄ちゃん、あっちでおままごとしよ!」
ミリーナの姿が見えなくなった途端、シンが女の子たちに囲まれた。
「ああ、いいぞ。
でも、おままごとなら、こっちのエリーゼお姉ちゃんのほうが良くないか?」
「シンお兄ちゃんのほうがいい。
私たち、お父さん役が欲しいの!」
「なるほどな、わかった。
よし、じゃあ行こうか」
「うん!」
女の子たちに手を引かれていくシン。
相手はまだ幼い子供だ。
普通に見れば微笑ましいだけの光景のはずだが、相手がシンとなると少し複雑な気持ちになる。
あんな幼子に嫉妬しても仕方ないだろうに。
エリーゼは狭量な自分に、思わず苦笑した。
「エリーゼ姉ちゃんは俺たちと遊ぼうぜ」
一人の男の子がエリーゼの右の手をつかんだ。
「ええ、いいわよ。
何をして遊びましょうか?」
優しい笑みを残った男の子たちに向ける。
「それはね……」
不意に左の手を別の男の子につかまれた。
その男の顔は、何かを企んでいるような、そんな顔をしていた。
そのときに、ふと違和感を覚えた。
手のつかみ方がおかしい。
女の子がシンにしていたように、手を引くためにつかんでいるのではない。
ガッチリと抱き込むように、エリーゼの腕を抑える。
それはまるで、エリーゼを拘束しているようで。
嫌な予感がする。
慌てて手を離してもらおうとするが、もう遅かった。
「かんちょー!」
「んなあぁ!?」
鋭い痛みが、肛門を襲った。
目は見開かれ、脂汗が流れる。
ようやく解放された手でお尻を抑え、内股になりながら振り返る。
するとそこには、両手の掌を合わせて中指、薬指、小指を曲げて組み、両人差し指を伸ばした男の子が、いたずらな笑みを浮かべて立っていた。
「こ、このクソガキども……!」
「わあ、逃げろー!」
「待ちなさい!」
浣腸の痛みから未だ解放されないエリーゼは、それでもよちよちと男の子たちを追いかけ始めた。
俺たちにか?」
「はい。
といっても、あまり報酬のいい依頼ではないので、ギルド職員としては、おすすめはできないのですが」
そう言ってギルド職員が依頼書を見せてくれた。
「依頼主はミリーナ……。
教会の修道女か。
それで、内容は教会で面倒をみている孤児たちの世話、と」
「この手の依頼は時々あるのですが、報酬は少なく、ほとんどボランティアのようなものです。
子供たちのことを思えば、誰かにはやって貰いたい依頼ですが、仕事である以上、報酬の少ない依頼を冒険者に斡旋するわけにもいかなくて」
「なるほどな。
ところで、どうして俺たちへの指名依頼なんだ?
まだツェローシュクに来てから、教会に行ったこともないし、依頼主の修道女のことも知らないんだが」
「依頼主の話では、エリーゼさんとお知り合いみたいですよ。
先日お会いして、仲良くなったとか」
「そうなのか?」
「え、ええ。
そうね……」
なんだか、エリーゼの顔がひきつっている気がするが、気のせいか。
「断るようでしたら、依頼主へその旨をお伝えしておきますが、どうしますか?」
「いや、受けよう。
エリーゼの知り合いなら、報酬なんかなくても手伝ってやりたいし」
自由を尊ぶ冒険者といえども、人間関係は大切だ。
まだまだ知り合いの少ないツェローシュクで、せっかくできたエリーゼの交遊関係である。
大切にしていかなくてはならないだろう。
「エリーゼもそれでいいか?」
「そ、そうね」
「なんだ?
受けたくないのか?」
「いえ、そういうわけじゃないわ。
大丈夫よ、受けましょう」
「ならいいんだが」
どうにも様子のおかしいエリーゼだったが、本人が大丈夫だというのなら、大丈夫なのだろう。
あまり無理しているようなら依頼なんてさせるべきではないが、今回の依頼場所は街の中だ。
依頼中に体調を崩しても、相手方には迷惑をかけるかもしれないが、ダンジョン内で倒れて魔物に殺されてしまうというような、最悪の事態になることはないだろう。
エリーゼのことは気になるが、シンたちは指名依頼を受けることにした。
◇
翌日。
教会を訪れると、庭に賑やかな子供たちの声が響いていた。
「結構いるな」
「そうね。
みんな元気そう」
教会で孤児の面倒をみることは、珍しいことではないが、街によっては十分な援助がされておらず、食べるものに困っている場合もある。
幸いにも、子供たちの様子から察するにここの教会では、子供たちが飢えてしまっているというようなことはなさそうだ。
教会の正面に回り、中へと入る。
すると、礼拝堂に一人の修道女がいた。
「すまない、冒険者ギルドから指名依頼を受けてきた者なんだが」
シンの声に修道女が振り返った。
その顔を見た途端、エリーゼは己の悪い予想が当たってしまったことを嘆いた。
「まあ、ようこそいらっしゃいました。
私はここの教会にお仕えしている、ミリーナと申します」
エリーゼが広場で出会った修道女、ミリーナが頭を下げた。
「俺はシン。
こっちはエリーゼだ。
そういえば、エリーゼと知り合いらしいな」
「ええ。
先日、街の広場でお会いしまして。
そのときにすっかり意気投合しましたの。
そうですよね、エリーゼさん」
ニコリと笑うミリーナ。
「そうね……」
顔をひきつらせながら、エリーゼは答えた。
何が意気投合しました、だ。
一方的に、エリーゼが脅されて、辱しめられただけではないか。
まあ、あんな場所で、あんなことしていたエリーゼの自業自得かもしれないが。
「それでは早速で申し訳ないのですが、お二人には子供たちの遊び相手をしていただきたいのです。
私一人では、あまり相手にしてあげられなくて」
「遊び相手はいいんだが。
今この教会にはミリーナしかいないのか?」
「はい。
少し前まではもう少しいたのですが、故郷に帰ったり、体調を崩したりと色々重なってしまって。
結局私だけが残っているという状況です」
「一人で切り盛りしなきゃいけないなんて大変だな。
俺たちでよければ、今日だけといわず、また手伝いに来るよ」
「まあ、ありがとうございます!
それでは庭で子供たちが遊んでいるので、そちらに向かいましょう」
ミリーナのあとに続いて、協会の脇にあった庭へと出る。
「あっ!
ミリーナ様だ!」
すると、ミリーナを見つけた子供たちが一斉に駆け寄ってきて、ミリーナのことを取り囲んだ。
「今日は皆さんと遊んでくださる方々がいらっしゃいましたよ。
シンさんと、エリーゼさんです。
皆さん、ご挨拶しましょうね」
「「こんにちは!!」」
「こんにちは」
「よろしくね」
元気に挨拶をする子供たちに、思わず頬がほころぶ。
ミリーナと初めて広場で会ったときは、とんでもない修道女だと思ったが、こうして子供たちに慕われている姿をみると、ちゃんと修道女なのだな、と思う。
「それではすみませんが、みんなのことをよろしくお願いします。
私は中でやらなければならない仕事がありますので、もし何かありましたら、お声かけ下さい」
「ああ、わかった」
ペコリと頭を下げたミリーナが、教会の中へと戻っていく。
「シンお兄ちゃん、あっちでおままごとしよ!」
ミリーナの姿が見えなくなった途端、シンが女の子たちに囲まれた。
「ああ、いいぞ。
でも、おままごとなら、こっちのエリーゼお姉ちゃんのほうが良くないか?」
「シンお兄ちゃんのほうがいい。
私たち、お父さん役が欲しいの!」
「なるほどな、わかった。
よし、じゃあ行こうか」
「うん!」
女の子たちに手を引かれていくシン。
相手はまだ幼い子供だ。
普通に見れば微笑ましいだけの光景のはずだが、相手がシンとなると少し複雑な気持ちになる。
あんな幼子に嫉妬しても仕方ないだろうに。
エリーゼは狭量な自分に、思わず苦笑した。
「エリーゼ姉ちゃんは俺たちと遊ぼうぜ」
一人の男の子がエリーゼの右の手をつかんだ。
「ええ、いいわよ。
何をして遊びましょうか?」
優しい笑みを残った男の子たちに向ける。
「それはね……」
不意に左の手を別の男の子につかまれた。
その男の顔は、何かを企んでいるような、そんな顔をしていた。
そのときに、ふと違和感を覚えた。
手のつかみ方がおかしい。
女の子がシンにしていたように、手を引くためにつかんでいるのではない。
ガッチリと抱き込むように、エリーゼの腕を抑える。
それはまるで、エリーゼを拘束しているようで。
嫌な予感がする。
慌てて手を離してもらおうとするが、もう遅かった。
「かんちょー!」
「んなあぁ!?」
鋭い痛みが、肛門を襲った。
目は見開かれ、脂汗が流れる。
ようやく解放された手でお尻を抑え、内股になりながら振り返る。
するとそこには、両手の掌を合わせて中指、薬指、小指を曲げて組み、両人差し指を伸ばした男の子が、いたずらな笑みを浮かべて立っていた。
「こ、このクソガキども……!」
「わあ、逃げろー!」
「待ちなさい!」
浣腸の痛みから未だ解放されないエリーゼは、それでもよちよちと男の子たちを追いかけ始めた。
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