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9.教会①

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「指名依頼?
 俺たちにか?」

「はい。
 といっても、あまり報酬のいい依頼ではないので、ギルド職員としては、おすすめはできないのですが」

 そう言ってギルド職員が依頼書を見せてくれた。

「依頼主はミリーナ……。
 教会の修道女か。
 それで、内容は教会で面倒をみている孤児たちの世話、と」

「この手の依頼は時々あるのですが、報酬は少なく、ほとんどボランティアのようなものです。
 子供たちのことを思えば、誰かにはやって貰いたい依頼ですが、仕事である以上、報酬の少ない依頼を冒険者に斡旋するわけにもいかなくて」

「なるほどな。
 ところで、どうして俺たちへの指名依頼なんだ?
 まだツェローシュクに来てから、教会に行ったこともないし、依頼主の修道女のことも知らないんだが」

「依頼主の話では、エリーゼさんとお知り合いみたいですよ。
 先日お会いして、仲良くなったとか」

「そうなのか?」

「え、ええ。
 そうね……」

 なんだか、エリーゼの顔がひきつっている気がするが、気のせいか。

「断るようでしたら、依頼主へその旨をお伝えしておきますが、どうしますか?」

「いや、受けよう。
 エリーゼの知り合いなら、報酬なんかなくても手伝ってやりたいし」

 自由を尊ぶ冒険者といえども、人間関係は大切だ。
 まだまだ知り合いの少ないツェローシュクで、せっかくできたエリーゼの交遊関係である。
 大切にしていかなくてはならないだろう。

「エリーゼもそれでいいか?」

「そ、そうね」

「なんだ?
 受けたくないのか?」

「いえ、そういうわけじゃないわ。
 大丈夫よ、受けましょう」

「ならいいんだが」

 どうにも様子のおかしいエリーゼだったが、本人が大丈夫だというのなら、大丈夫なのだろう。
 あまり無理しているようなら依頼なんてさせるべきではないが、今回の依頼場所は街の中だ。
 依頼中に体調を崩しても、相手方には迷惑をかけるかもしれないが、ダンジョン内で倒れて魔物に殺されてしまうというような、最悪の事態になることはないだろう。

 エリーゼのことは気になるが、シンたちは指名依頼を受けることにした。



 翌日。
 教会を訪れると、庭に賑やかな子供たちの声が響いていた。

「結構いるな」

「そうね。
 みんな元気そう」

 教会で孤児の面倒をみることは、珍しいことではないが、街によっては十分な援助がされておらず、食べるものに困っている場合もある。

 幸いにも、子供たちの様子から察するにここの教会では、子供たちが飢えてしまっているというようなことはなさそうだ。

 教会の正面に回り、中へと入る。
 すると、礼拝堂に一人の修道女がいた。

「すまない、冒険者ギルドから指名依頼を受けてきた者なんだが」

 シンの声に修道女が振り返った。
 その顔を見た途端、エリーゼは己の悪い予想が当たってしまったことを嘆いた。

「まあ、ようこそいらっしゃいました。
 私はここの教会にお仕えしている、ミリーナと申します」

 エリーゼが広場で出会った修道女、ミリーナが頭を下げた。

「俺はシン。
 こっちはエリーゼだ。
 そういえば、エリーゼと知り合いらしいな」

「ええ。
 先日、街の広場でお会いしまして。
 そのときにすっかり意気投合しましたの。
 そうですよね、エリーゼさん」

 ニコリと笑うミリーナ。

「そうね……」

 顔をひきつらせながら、エリーゼは答えた。

 何が意気投合しました、だ。
 一方的に、エリーゼが脅されて、辱しめられただけではないか。
 まあ、あんな場所で、あんなことしていたエリーゼの自業自得かもしれないが。

「それでは早速で申し訳ないのですが、お二人には子供たちの遊び相手をしていただきたいのです。
 私一人では、あまり相手にしてあげられなくて」

「遊び相手はいいんだが。
 今この教会にはミリーナしかいないのか?」

「はい。
 少し前まではもう少しいたのですが、故郷に帰ったり、体調を崩したりと色々重なってしまって。
 結局私だけが残っているという状況です」

「一人で切り盛りしなきゃいけないなんて大変だな。
 俺たちでよければ、今日だけといわず、また手伝いに来るよ」

「まあ、ありがとうございます!
 それでは庭で子供たちが遊んでいるので、そちらに向かいましょう」

 ミリーナのあとに続いて、協会の脇にあった庭へと出る。

「あっ!
 ミリーナ様だ!」

 すると、ミリーナを見つけた子供たちが一斉に駆け寄ってきて、ミリーナのことを取り囲んだ。

「今日は皆さんと遊んでくださる方々がいらっしゃいましたよ。
 シンさんと、エリーゼさんです。
 皆さん、ご挨拶しましょうね」

「「こんにちは!!」」

「こんにちは」

「よろしくね」

 元気に挨拶をする子供たちに、思わず頬がほころぶ。
 ミリーナと初めて広場で会ったときは、とんでもない修道女だと思ったが、こうして子供たちに慕われている姿をみると、ちゃんと修道女なのだな、と思う。

「それではすみませんが、みんなのことをよろしくお願いします。
 私は中でやらなければならない仕事がありますので、もし何かありましたら、お声かけ下さい」

「ああ、わかった」

 ペコリと頭を下げたミリーナが、教会の中へと戻っていく。

「シンお兄ちゃん、あっちでおままごとしよ!」

 ミリーナの姿が見えなくなった途端、シンが女の子たちに囲まれた。

「ああ、いいぞ。
 でも、おままごとなら、こっちのエリーゼお姉ちゃんのほうが良くないか?」

「シンお兄ちゃんのほうがいい。
 私たち、お父さん役が欲しいの!」

「なるほどな、わかった。
 よし、じゃあ行こうか」

「うん!」

 女の子たちに手を引かれていくシン。
 相手はまだ幼い子供だ。
 普通に見れば微笑ましいだけの光景のはずだが、相手がシンとなると少し複雑な気持ちになる。
 あんな幼子に嫉妬しても仕方ないだろうに。

 エリーゼは狭量な自分に、思わず苦笑した。

「エリーゼ姉ちゃんは俺たちと遊ぼうぜ」

 一人の男の子がエリーゼの右の手をつかんだ。

「ええ、いいわよ。
 何をして遊びましょうか?」

 優しい笑みを残った男の子たちに向ける。

「それはね……」

 不意に左の手を別の男の子につかまれた。
 その男の顔は、何かを企んでいるような、そんな顔をしていた。

 そのときに、ふと違和感を覚えた。
 手のつかみ方がおかしい。
 女の子がシンにしていたように、手を引くためにつかんでいるのではない。
 ガッチリと抱き込むように、エリーゼの腕を抑える。
 それはまるで、エリーゼを拘束しているようで。

 嫌な予感がする。
 慌てて手を離してもらおうとするが、もう遅かった。

「かんちょー!」

「んなあぁ!?」

 鋭い痛みが、肛門を襲った。
 目は見開かれ、脂汗が流れる。

 ようやく解放された手でお尻を抑え、内股になりながら振り返る。
 するとそこには、両手の掌を合わせて中指、薬指、小指を曲げて組み、両人差し指を伸ばした男の子が、いたずらな笑みを浮かべて立っていた。

「こ、このクソガキども……!」

「わあ、逃げろー!」

「待ちなさい!」

 浣腸の痛みから未だ解放されないエリーゼは、それでもよちよちと男の子たちを追いかけ始めた。
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