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9.捕縛
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寝床の中で俺は考えていた。
騎士に連行されそうになったところで、ミーナに起こされ目が覚めた。
おそらくそのタイミングで、路地裏から俺の姿は消えたはずだ。
問題は突然姿を消した俺に対して、騎士たちがどのような対応をとったかだ。
見逃してもらえたのならそれが一番いい。
だが、指名手配でもされていたらと思うと気が滅入る。
誤解で連行されそうになったあの瞬間と違い、今は逃亡したという罪が確実についている。
騎士から逃亡するなど、己が黒であると言っているようなものだ。
とはいえ実際に罪といえるのはその逃亡だけであり、厳正に処罰を下してくれるのなら、精々数日牢に入れられるくらいのものだろう。
罰金を払えといわれたら困るが、もしそれで借金奴隷にでもされそうになったら今度こそ全力で逃げよう。
隣の国まで逃げれば、さすがに小悪党ごときを越境してまで追っては来まい。
「まあ、そんな最悪なことにはならないだろ。
なるようになれだ」
所詮は夢だ。
やりたいようにやればいい。
嫌な思いをしてまで、我慢することなどない。
◇
ラザールとして目覚めると、俺はあの路地裏にいた。
周囲をうかがうが、騎士の姿はない。
あれから半日経っているのだ。
さすがにこんなところに留まっているはずもない。
日中でも薄暗かった路地裏は、もはや闇の世界だった。
魔道ランプはなく、わずかに差し込む星の光だけが唯一の明かりだった。
俺はひとまず冒険者ギルドへと向かうことにした。
あの騎士たちには、俺が冒険者だということはおそらくバレている。
首に堂々と木製の冒険者タグを提げていたのだ。
不審者を捕らえようとした騎士が見落とすとも思えない。
もしギルドに行ってなにもなければそれでいい。
指名手配されていたり、あるいは騎士が待ち伏せていたりしたら大人しく出頭しよう。
逃亡するつもりなどなかったが、結果的に騎士から逃げたのは事実である。
これからいちいち隠れながら生活するよりも、清算できる罪は早めに清算しておきたい。
ゾルグたちと知り合い、このフォルモーントにも慣れてきたのだ。
こんなことでこの地を去りたくはない。
遠くから冒険者ギルドを眺めると、果たしてギルドの近くに身を潜める騎士の姿を捉えた。
昼から張っているとも思えないし、おそらくラティーあたりから、俺が夜に現れるだろうという情報を得たのだろう。
お叱りを受けるというのはあまりに気乗りするものではないが、仕方ない。
俺は堂々とギルドに向けて歩き出そうとして――、目の前に現れた人物に行方を遮られた。
「よう、ラザール」
「ゾルグ……」
人のいい笑みを浮かべたゾルグがそこにいた。
「お前さん、いったいなにをやらかしたんだ?
あそこで張ってる連中が探してる冒険者ってのは、お前さんのことだろ?」
「たぶんな。
昼間に路地裏を歩いてたら、売人と間違えられて捕まりそうになったんだ。
んでそのときに、色々あって逃げちゃったんだよ。
俺としても逃げたことは良くなかったと思うし、こんなことでこの街を去りたくないからな。
大人しく出頭しようとしてたところだ」
「そりゃあ災難だったな。
まあそれくらいなら、二、三日も牢に入れば出てこれるだろうさ。
俺も何回か入ったことがあるから間違いない」
なんてことないという風にあっけらかんとしているゾルグ。
荒くれ者である冒険者なら、牢に入れられることくらい日常茶飯事なのか、それともゾルグがいい加減なのか。
そのどちらかはわからないが、俺もそれほど気負う必要はなさそうだ。
「自分でも災難だったと思うよ。
あの時、たまたま飛び出してきたお貴族様にさえぶつからなければ、こんなこと気にしなくてすんだだろうからな」
「ん? 路地裏なんかに貴族がいたのか?」
「貴族ってのは俺の勘だけどな。
なんというか、雰囲気や振る舞いが平民のそれじゃなかったんだ。
本物の貴族を見たことある訳じゃないが、あれはたぶん貴族で間違いないと思う」
「どんな奴だった?」
なにかが引っ掛かるのだろうか。
妙にゾルグが食いついてくる。
俺としても隠すようなことではないので、聞かれたことは答えるが。
「綺麗な金髪をした女だった。
大きなエメラルドの瞳に、整った顔立ち。
一目見て「妖精みたいだ」と思うような美人だったよ。
あんなに綺麗な人がこの世にいるんだな」
「なるほど、な。そのお貴族様と目は合わせたか?」
「ん? たぶん合ったと思うけど。
そう言えば、俺を見たときなんか驚いてな。
誰かに似てたとか、そんな理由だろうけど」
「そりゃあ、たぶん違げぇな。
そのお貴族様はお前の力を知って驚いたんだろうよ」
「ゾルグ、その貴族のこと知ってるのか?」
「まあな。いずれはとは思っていたが、まさかこんなに早くお前さんと会うとはな。
なんの巡り合わせかねぇ。
まあ、あの人に会ったってんなら、三日といわずすぐにでも出れるだろうさ」
やはり、あの女性は貴族らしい。
そしてゾルグの知る人物のようだ。
それにしても、牢からすぐに出られるとはどういうことだろうか。
ここフォルモーントはマーレヘット王国の王都であり、いわば王家のお膝元だ。
そんな場所で罪人の罪をどうこうできる者とはいったい何者だろうか。
貴族の関係など平民の俺にはわからないが、少なくとも弱小貴族が簡単にどうこうできるようなものではないだろう。
となると、それなりの地位にいる者ということになるが。
「とにかく、ちょっと捕まってくる」
「おう、行ってこい」
これから罪人として捕まるというのに、なんとも呑気な会話だなと苦笑しつつ、俺は冒険者ギルドへと向かった。
すると予想通りに潜んでいた騎士が現れ俺を捕縛。
俺は大人しく詰所へと連行された。
騎士に連行されそうになったところで、ミーナに起こされ目が覚めた。
おそらくそのタイミングで、路地裏から俺の姿は消えたはずだ。
問題は突然姿を消した俺に対して、騎士たちがどのような対応をとったかだ。
見逃してもらえたのならそれが一番いい。
だが、指名手配でもされていたらと思うと気が滅入る。
誤解で連行されそうになったあの瞬間と違い、今は逃亡したという罪が確実についている。
騎士から逃亡するなど、己が黒であると言っているようなものだ。
とはいえ実際に罪といえるのはその逃亡だけであり、厳正に処罰を下してくれるのなら、精々数日牢に入れられるくらいのものだろう。
罰金を払えといわれたら困るが、もしそれで借金奴隷にでもされそうになったら今度こそ全力で逃げよう。
隣の国まで逃げれば、さすがに小悪党ごときを越境してまで追っては来まい。
「まあ、そんな最悪なことにはならないだろ。
なるようになれだ」
所詮は夢だ。
やりたいようにやればいい。
嫌な思いをしてまで、我慢することなどない。
◇
ラザールとして目覚めると、俺はあの路地裏にいた。
周囲をうかがうが、騎士の姿はない。
あれから半日経っているのだ。
さすがにこんなところに留まっているはずもない。
日中でも薄暗かった路地裏は、もはや闇の世界だった。
魔道ランプはなく、わずかに差し込む星の光だけが唯一の明かりだった。
俺はひとまず冒険者ギルドへと向かうことにした。
あの騎士たちには、俺が冒険者だということはおそらくバレている。
首に堂々と木製の冒険者タグを提げていたのだ。
不審者を捕らえようとした騎士が見落とすとも思えない。
もしギルドに行ってなにもなければそれでいい。
指名手配されていたり、あるいは騎士が待ち伏せていたりしたら大人しく出頭しよう。
逃亡するつもりなどなかったが、結果的に騎士から逃げたのは事実である。
これからいちいち隠れながら生活するよりも、清算できる罪は早めに清算しておきたい。
ゾルグたちと知り合い、このフォルモーントにも慣れてきたのだ。
こんなことでこの地を去りたくはない。
遠くから冒険者ギルドを眺めると、果たしてギルドの近くに身を潜める騎士の姿を捉えた。
昼から張っているとも思えないし、おそらくラティーあたりから、俺が夜に現れるだろうという情報を得たのだろう。
お叱りを受けるというのはあまりに気乗りするものではないが、仕方ない。
俺は堂々とギルドに向けて歩き出そうとして――、目の前に現れた人物に行方を遮られた。
「よう、ラザール」
「ゾルグ……」
人のいい笑みを浮かべたゾルグがそこにいた。
「お前さん、いったいなにをやらかしたんだ?
あそこで張ってる連中が探してる冒険者ってのは、お前さんのことだろ?」
「たぶんな。
昼間に路地裏を歩いてたら、売人と間違えられて捕まりそうになったんだ。
んでそのときに、色々あって逃げちゃったんだよ。
俺としても逃げたことは良くなかったと思うし、こんなことでこの街を去りたくないからな。
大人しく出頭しようとしてたところだ」
「そりゃあ災難だったな。
まあそれくらいなら、二、三日も牢に入れば出てこれるだろうさ。
俺も何回か入ったことがあるから間違いない」
なんてことないという風にあっけらかんとしているゾルグ。
荒くれ者である冒険者なら、牢に入れられることくらい日常茶飯事なのか、それともゾルグがいい加減なのか。
そのどちらかはわからないが、俺もそれほど気負う必要はなさそうだ。
「自分でも災難だったと思うよ。
あの時、たまたま飛び出してきたお貴族様にさえぶつからなければ、こんなこと気にしなくてすんだだろうからな」
「ん? 路地裏なんかに貴族がいたのか?」
「貴族ってのは俺の勘だけどな。
なんというか、雰囲気や振る舞いが平民のそれじゃなかったんだ。
本物の貴族を見たことある訳じゃないが、あれはたぶん貴族で間違いないと思う」
「どんな奴だった?」
なにかが引っ掛かるのだろうか。
妙にゾルグが食いついてくる。
俺としても隠すようなことではないので、聞かれたことは答えるが。
「綺麗な金髪をした女だった。
大きなエメラルドの瞳に、整った顔立ち。
一目見て「妖精みたいだ」と思うような美人だったよ。
あんなに綺麗な人がこの世にいるんだな」
「なるほど、な。そのお貴族様と目は合わせたか?」
「ん? たぶん合ったと思うけど。
そう言えば、俺を見たときなんか驚いてな。
誰かに似てたとか、そんな理由だろうけど」
「そりゃあ、たぶん違げぇな。
そのお貴族様はお前の力を知って驚いたんだろうよ」
「ゾルグ、その貴族のこと知ってるのか?」
「まあな。いずれはとは思っていたが、まさかこんなに早くお前さんと会うとはな。
なんの巡り合わせかねぇ。
まあ、あの人に会ったってんなら、三日といわずすぐにでも出れるだろうさ」
やはり、あの女性は貴族らしい。
そしてゾルグの知る人物のようだ。
それにしても、牢からすぐに出られるとはどういうことだろうか。
ここフォルモーントはマーレヘット王国の王都であり、いわば王家のお膝元だ。
そんな場所で罪人の罪をどうこうできる者とはいったい何者だろうか。
貴族の関係など平民の俺にはわからないが、少なくとも弱小貴族が簡単にどうこうできるようなものではないだろう。
となると、それなりの地位にいる者ということになるが。
「とにかく、ちょっと捕まってくる」
「おう、行ってこい」
これから罪人として捕まるというのに、なんとも呑気な会話だなと苦笑しつつ、俺は冒険者ギルドへと向かった。
すると予想通りに潜んでいた騎士が現れ俺を捕縛。
俺は大人しく詰所へと連行された。
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